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回らない寿司は海の味

作者: 鈴木チセ

まだ俺が「サンタさんいると思っているのダッセー。」とか言っていたぐらいの年だったと思う。そんな年の誕生日、俺は学校に行く前に母さんに晩御飯のリクエストを聞かれていた。

「ミク、晩御飯何がいい?」

「回らない寿司。」

それだけ答えて出て行った。回らない寿司。これはうちのクラスの坊ちゃんが自慢していた、世界一美味い食い物だという。

「こう、ネタが生きてるんだよ。なんていうか口の中で、、、、!」

目を輝かせて言う坊ちゃんがすごく羨ましかったんだと思う。それで俺は回転寿司じゃない寿司屋を回らない寿司屋と表現して、母さんに伝えた。この時の俺は晩御飯に回らない寿司屋に連れて行ってもらえると思っていた。でも、帰ってきた瞬間現実に戻された。

「母さん、何時に行くの?」

「は?どこに?」

母さんは怪訝そうな顔をする。

「あ、スーパーか。もう少し待ってね。安くなるのは5時からだから。」

いまいち母さんの言っていることがわからない。スーパーと回らない寿司が繋がるのかが理解できない。しかも、安くなるだって?

「じゃあ行ってきます。」

母さんはエプロンにサンダル、エコバックに財布を突っ込んで行ってしまった。坊ちゃんは言っていた。

「俺、寿司屋にはお洒落な服で行ったんだぜ。ママとパパもビシッと決めてたんだぞ!」

だから俺は今日一日中校庭で遊ばずに服を綺麗なままもたせてきたんだ。なのに、母さんはエプロンのまま行ってしまった。いや、そこじゃない。母さんは僕を置いて行ってしまった。自分だけ食べるつもりか?いや、何かの間違いだ。多分。いくら食い意地の強い母さんでもそこまで豚じゃない。それから俺はずっと家の中をぐるぐる歩いていた。


数分後、母さんがドアを開けて入ってきた。

「ただいまー!いっぱい買ってきたよ!よかったね、ミク。はい、回らない寿司!」

母さんが自慢げに見せてきたのは値引きシールの貼られた握り寿司、シメサバ、稲荷寿司、巻き寿司、、、、。そう、スーパーとかで見るようなパック寿司。

「俺、回らないお寿司って言ったけど。」

確認するように言う。何かの間違いじゃないか、と。

「うん。だからパック寿司。ほら、回らないでしょ?」

確かに回らない。回らないけど俺が言ったのはこれじゃない。

「じゃあ、ミクは座ってて。タク、机拭いて!」

母さんがゲームしていたタクを手伝わせる。俺は呆然としていた。なんで、誕生日なのにこんな悲しいんだろう。回らない寿司はパック寿司の意味じゃないのに。


翌日ーー。

俺は昨日、あまりにも回らない寿司が楽しみすぎてクラスの皆に回らない寿司を食べることを自慢しまくっていた。それで、今の俺はピンチを迎えている。周りから回らない寿司の感想を聞かれまくっているのだ。

「おい、回らない寿司どうだった?!」

食ってない、とは言えないし、パック寿司の感想も言えない。一度食べたことのある坊ちゃんの前でそんなこと言ったら間違いなくバレる。普段はボヤッとしてるくせにこういう時は鋭い。仕方がない。こうなったら、、、、。

「、、、、回らない寿司は海の味がしたよ。」

こう言っておいた。海も涙も同じ味だしいいだろう。嘘は言ってない。

「海の味?なにそれ。きになる!」

海の味にみんな興味津々だ。そんなに食べたければスーパーでパックの寿司を買うといい。回らない、海の味がする寿司が食べたいならな。


ミクの本名は未希斗といいます。小さいころからみっくんと呼ばれていましたが、小学校に入学してからそう呼ばれるのを嫌がり、みっくんがミクになりました。本人はこれも嫌がりましたがお母さんは楽だから、と言ってミクと言い続けてます。タクも同じ。達也をたっくんと呼んでいましたが達也が嫌がり、タクになりました。ミク、かわいそう、、、、。

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