血液型などの昼休みの雑談話
竹下が桜田さんのもとで働くようになって、数か月たったころ、ふと気になって、血液型を聞いてみることにした。
普段は互いに口数も少なく、話すとしても、業務連絡ばかりで、めったに雑談をしない。
尤も、雑談するにしても、昼休みは、それぞれ自席で摂っているし、定時後は、いつの間にかいなくなっている。
したがって、互いに業務以外の話題では、まず話すことがなかった。
その数少ない雑談の機会も、竹下は常に天気の話ばかりしていた。
「今日は寒いですね」とか、「今日は風が強いですね」とかという無難な話である。
面白味はないが、嫌われる要素もない。
ちなみに、昔、もっと野球が盛んだったころは、球団の話や、試合の結果も、話題のレパートリーの一つにあった。
しかし、よりによって、アンチ巨人の方に、巨人軍の快進撃の話をしたり、逆に、巨人ファンの方に、巨人のダメっぷりの話をして、著しく相手の機嫌を損ねたことがあったため、レパートリーからは外すことにした。
しかも、アンチ巨人の意味を正しく理解していなかったという致命的欠陥もあった。
したがって、相手がどの球団のファンであるとか、どの球団が嫌いであるかが、わからない以上は、野球の話題はしないことにした。
天気の話は、その点、いきなり不機嫌にする危険はないものの、友達(たーしさん、So4さん)によると、どうしようもなく、宜しくないらしい。
とはいえ、ほかに特に話したいネタもなく、ふと血液型を聞いてみることにした。
ある日の昼休み、食事を摂り終わったころ、血液型を聞いてみることにした。
「桜田さんって、血液型何型なんですか?」
「なんで、血液型なんか聞くの?まさか、竹下さんも、私の血を吸うつもりなのか?」
「・・・?」
竹下にとっては、結構、衝撃的というか、予想の斜め上を行く回答であった。
それにしても、「~も」が気になる。
まさか、桜田さんの生き血を吸うような存在がいるのか?
「桜田さんって、血を誰かに吸われたことがあるのですか?」
「半年くらい前だけど、指先をけがしたときに、同居人が手当してくれたんだけど、目を輝かせながら吸われたことがある」
どうも、ドラキュラみたいな存在と同棲しているらしい。
「自分では、個人的に、きっとA型だろうと思っていたけれど、そいつが言うには、これはB型の味だとのことだったよ」
「調べていないんですか?」
「だって、調べるには、血を抜かれるんだよね。なんか、いやジャン」
「また。そんなこと怖がって…。もし輸血が必要になったとき困るでしょ?」
血液型の話を聞きつけた行田さんが、いつの間にか参加していた。
「安心しろ。その時は自分の名前すら答えられないだろうし、勝手に調べるだろうから、今知る意味がない」
「ところで、行田さんは、何型なんですか?」
竹下は、今度は行田さんに血液型を聞いてみた。
「何型だと思います?」
「統計的に、何型だと思いますと聞いた場合は、大体、B型の気がします」
「違います」
「ならば、A型」
「違います」
「もしかして、O型?」
「同居人がO型だけど、O型ではないと思う」
桜田さんも、行田さんの血液型の当てっこに参加していた。
「4種類しかないんだから、3回も答えて外しても、もう残ったものしかないでしょ?」
「まさか、まだ調べていなかったとか?未知とか?判別不能とか?」
「4回以上答えて、当てられなかった人、初めて見たよ」
「すみません。当てずっぽうとか、ヤマ勘、ギャンブルは、苦手なもので…。答えは?」
「AB型しかないでしょ?!」
「そうか、AB型だったんだ。てっきり、きっちりしているから、ずっと、A型だと思っていた」
どうも、桜田さんも初めて知った様子。
「何型だと思いますと聞いたから、B型だと思っていた。ところで、なぜ、クイズを始めたの?」
「AB型はレアだし、AとB両方の性質持っている天才とのことらしいから、なんとなく当ててもらおうかと」
「なるほど、では、次回は判定条件に、その可能性を入れることにいたします」
「桜田さんは、なぜ、調べていないのに、A型だとわかるの?」
「理由?だって、私は何事にもきっちりしているし、しかし欠点として、例外とか、型破りに弱くて、少々神経質で…」
「いったい、どの口が、そんなこと言いますか?!ところで、竹下さんは何型なんですか?」
「僕は、B型です。個人的には、成人してからも、就職してからも、ずっとA型だと思っていたのですが、実はB型でした」
「子供の頃に調べるもんだと思っていたけれど、なぜ大人になってから?献血とかの理由?」
「実は僕も、血を抜かれるのが嫌で…」
「なら、献血はないですよね。でも、なぜ?」
「婚活の一環で、釣書に書く必要があったためです」
「え。血液型も書く必要があったの?」
「友達の紹介なんですが、血液型を条件に掲げていたとのことで…」
「ならば、確かに調べる必要がありますね。ちなみにどんな方だったんですか?」
「会う前に破談したので、会っていないです。条件は、「B型以外の方」とのことでした。遠戚だったらしく、その友達もそれっきり…」
「え?なんでそんな方を紹介…」
行田さんは、笑いを噛み殺しながら、さらに聞いてきた。
「同じことを、紹介してくださった友達に聞きました。僕が個人的にA型だと思っていたので紹介して、のちに万が一トラブル起こさないようにと、念のため血液型を調べさせたとのことでした」
「なるほど。B型が苦手な方だったんですね。ところで、竹下さんは、好みの血液型や、苦手な血液型はあるのですか?」
「僕は好みも苦手も、どちらもないですが、なぜかA型の方からは避けられる傾向がありますね」
「それを、A型だと思うと答えた人の前で言いますか?」
「僕、実は、桜田さんはA型だと思っていなくて…。B型の説明書を参考にしていました。ちなみに、僕がB型と判明する前に買ったものです。僕はB型の方が結構好きで、それで買ったのです。面白いですよ」
「その説明書、私も読んでみたい」
「私も読んでみたいな」
「今度、お貸しします」
「今のところ、私と桜田さんの同居人と竹下さんで、B型予想は3人ですね?果たして本当は何型なんでしょう?」
「わかった、近々調べておくよ。でも、もしB型だったらイヤだな」
「もしかして、桜田さんは、B型の方が苦手なのですか?」
「そうではなくて、同居人が味で解ったということから、なんとなく気味が悪くて…」
「なるほど…。それは確かに…」
「個人的には、B型の方って、共感することが多いから好きなんだけど。でも味で判別ついたとなると…」
後日、顔色を悪くした桜田さんが出勤した。
「私、B型だった…」