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【短編版】チート転生者の後片付け ~神に授けられたチートで魔王を倒してくれたのはいいんですけど、その後始末をする私(ギルド下っ端役員)のこと考えてますか!?~

作者: 文月獅狼


「キミ、次はモンドーナ地方の修繕を頼むよ。あそこは辺り一帯が焼け野原になってるって、住民からの苦情が酷いんだ」

「はぁ、わかりました……」


 何度目かわからない上からの指令。もはや慣れたとはいえ、死んだ目で私は答えました。


「なんで私がこんなこと、しなきゃならないんだろう……」


 誰に伝えるわけでもなく、愚痴を溢すようにぶつぶつと呟きます。




 約3か月前。100年に渡って世界を混乱と絶望に陥れていた魔王は、異世界から召喚された英雄によってあっさりと倒されました。

 その英雄様は、転生の際に神からチートを授かったとかなんとかで、そりゃもう凄い威力の魔法を放ち、魔物たちを跡形もなく殲滅していたそうです。


 ——そう、辺り一帯ごと、何もかも吹き飛ばす勢いで。


 魔王が倒された当初、全世界は歓喜の声に包まれ、惜しみなき称賛が英雄様に与えられました。


 そうして英雄様が元の世界に戻った後。

 私たちに残されたのは彼の魔法によって、地形ごと変わってしまった土地でした。


「大体ゴブリン1匹を倒すために最上位魔法をポンポン撃つとか頭おかしいんですか。あんなもん、ゴブリンどころかバハムートだって瞬殺できますよ」


 彼のチート能力はそれはもう物凄くて、威力の調整が全くもってできてなかったそうです。

 「ごめん、ちょっと強くしすぎちゃった」とか笑いながら、道中の魔物に超オーバーキルしていって。彼が通った後にはペンペン草も生えないどころか、生き物の気配すらなかったそうな。


 そんな英雄様の行った偉業(笑)の後始末を誰が行うか。

 そうですね。一ギルド役員の私(下っ端)です。


「……なんっっっで私がこんなこと……」


 理不尽に対する怒りをなんとか堪えながら、慣れた手つきで旅の支度をします。


 魔王が倒されたことによって世界の秩序は大きく変化しました。各地の諸王国や村々は復興を始め、かつての活気が生活に戻りつつあります。


 しかし一方で、魔物の発生が大きく減少したことにより、魔物を討伐する依頼を仲介することで資金を得ていたギルド商会はほぼ機能しなくなり。

 私のいるギルドでも、リストラに次ぐリストラが発生。何とか残った下っ端に任されたのは、各地方における英雄様の後始末という、いわばボランティア活動なのです。

 こうして私は、重すぎる足取りで現地へ向かうのでした——。





                  *





「これが……あのモンドーナ地方、ですか……?」


 馬車に揺られること4時間。

 おしりのあちこちが悲鳴をあげる中、なんとか重い腰を上げて外に出た私は絶句しました。

 

 辺り一帯——いえ、見渡す限り、地平線の先まで草の一本も生えていなかったのです。

 モンドーナ地方といえば、辺境有数の観光地。

 自然そのままの緑に溢れた絶景が有名で、毎年新緑の季節になると多くの人で賑わうのですが……。


「酷いものでしょう」


 背後から声が聞こえ、振り向いてみると、そこには一人の老人がいました。恰好からして、どうやら事前に聞いていた近辺の村の村長のようです。


「つい最近までここら一帯は自然に溢れ、多くの者が観光に来ていたというのに……。今となっては人どころかネズミ、いや、アリ一匹近寄りませぬ。おかげで観光客によって成り立っていた我々の村は衰退の一方です」


 気落ちして俯いてしまう村長を見て、私は何も言えなくなりました。

 このままではここを捨て、また新たな場所で再度一から始めなくてはならないでしょう。

 しかしこのような状況なのはここだけではありません。国中、いや、世界中が同じです。どこへ行っても、一から始めるなんてことは不可能でしょう。


 ——となると、果ては飢え死に、でしょうか……。


 村長同様ネガティブになっている中、また後ろの方で声が聞こえました。

 見るとそこには、集落の中で楽しそうに遊んでいる子供たちの姿がありました。

 なんの変哲もない木の枝を持った男の子の後を、数人の子供たちが追いかけています。悩みなんて一つもない、そんな風です。

 私と後ろを振り向き、同じように子供たちの楽しそうな様子を見た村長はホッと息を吐きます。


「……ですが、あのような子供たちの笑顔が見られるようになったのは、魔王を倒してくださった英雄様のおかげでございましょう。そう思うと、元気が出てきますな」


 そう言って、村長は穏やかな微笑みを浮かべました。

 その気持ちは私も同じです。笑顔になれる日々が続くのならば、これくらいなんてことないでしょう。


「……そうですね!あの子たちのためにも、頑張りましょう!」

「ではまず、早急に荒れてしまった畑と、その畑へと向かう道の整備を。そのための道具や種等が不足しておりますのでそれらの手配を先にお願いします」

「え?」

「加えて元の自然溢れる状態に戻すため、植物の苗木等も用意していただきたい」

「え?」


 村長が矢継ぎ早にそう言ったかと思うと、背後からドタドタと足音が聞こえてきて、


「役人様!!至急の連絡が入りました!先ほど上から指令があり、ここと並行してアルターニャ地方の復興も進めろとのことです!」

「え?」


 息をぜえぜえと切らせながら、伝達役のギルド職員がそう叫びました。



 ……前言撤回です。英雄なんて大嫌いだ!!!


 どーも、文月獅狼と言います。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 

 少しでも良いと思っていただけましたら、ポイント評価やブックマーク登録、感想等よろしくお願いします。

 またツイッターの方もやっているので、よろしければそちらの方のフォローもよろしくお願いします。

 

 調子が良ければ続編を書く……かもしれません!!

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