「名ばかり公爵」ー雪だるまであたためてー
応募できると言うことで、ほっこりする話を少しだけ・・・。
見てくださってありがとうございます!
「あ”あ”っ・・・・!くそっ!!!!」
やり場のない怒りを込めて、白く積もった雪を蹴った。
こんなことをしたところで何も変わらない。
自室に戻ったユークは、書類の山に手を置いた。
『ユーク〜、お前んとこに仕事送っといたから。あとよろしくな!』
『は!?アレンお前、この前も!!』
『まぁまぁ。俺時間ないから、暇なユークがやった方か早いだろ? じゃあな。』
そう言ってアランは両手に令嬢たちを抱き寄せ、さっさと歩いて行った。
・・・公爵なんて、名ばかりだ。
いや、仕事を押し付けられても、突き返す勇気すらない俺だから。
だからバカにされるんだ。
今だって、手元にあるあいつの書類をぐしゃぐしゃにしてやることすらできていない。
「あれーー!雪だるまがーー!!!」
ユークは、ハッとして外を見た。
窓から、屋敷の近くでしゃがむ小さな子供たちが見える。
・・・昼に俺が蹴飛ばしたところじゃないか。
胸がチリ、と痛み、ウィリアムは階段を駆け下りた。
気付いていなかったとはいえ、彼らがよくこの辺りを散歩することは知っていた。
謝らなくては。
そう思い、屋敷の門の近くへ着いたところ、
どこか重みのある、若い女の声が響いた。
「大丈夫だよ。」
ウィリアムは門の影からその姿をとらえる。
彼女は、手で雪を覆い、優しい目つきで小さな雪だるまを作っていた。
思わず足を止めてしまう。
「壊れたら、また作り直せばいいの。ほら。」
小さくてふわふわした雪だるま。
彼女がそれを見せると、子供たちも新しく雪だるまを作り始めた。
誤りに行くことすら野暮に思うほど、優しい空間だった。
「この前教えたおまじないしようか。」
そう言って、彼女は目をつむり、手のひらの雪だるまに軽くキスをした。
「この雪だるまを見た人に、幸せが訪れますように。」
そう言って、優しく笑う。
子供たちも彼女の真似をして、小さな雪だるまを横に並べた。
「間違えて食べちゃダメだよ。」
彼女は笑っていた。
彼女たちが通り過ぎたあと、ユークは雪だるまの前まで行った。
大きさの違う雪だるまたちが、でこぼこと並んでいる。
日が落ち始めた空の色くらいに、心の中があたたまった。
ユークはそこへしゃがみ、柔らかい雪を集めた。
そして、作った雪だるまにキスをして、そっと並べた。