表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

中編

◆チャットの種類(※地文は対象外となります)

「」:主人公がリアルで言った言葉

『』:連合チャット or 某巨大掲示板スレ内容

【】:個別チャット

〔〕:部隊チャット

《》:全体チャット

⦅⦆:天界チャット(全体告知用)

『おい、見たか今度のアプデ内容!』

『見た見た。アシュラムざまぁ』

『ずっと聖剣独占してたもんな、あの廃課金。天罰だよ、天罰』

『メシウマだよなー、やっと運営が動いてくれてせいせいしたわ』


『ついでに、ツーラーでチートのリディアもサクッと垢BANしてくれねーかな』

『アシュラムは消えるだろうけど、リディアは不正し放題マジだからなー。まっ、そのうち制裁来るだろ』


「ははははははは、匿名っていいですなー、攻略スレじゃなくて晒しスレに書けや。何のための晒しスレだ」


 巨大掲示板の【ヴェルトラウム】攻略スレ。

 そこを覗いていたリディアは、画面に踊る文字を見て笑顔で毒を吐く。


「つーか……本気でツールやチート使ってんなら、とっくの昔に運営にBANされてるわ。独占しているのだって、アシュラムへの対抗手段をこうじないお前らにも原因があるだろー!」


 他プレイヤーが2人を面白くない理由は単純。

 公式が用意したチート武器を、結果的とは言え7か月間もの間、ほぼ2名が独占しているからである。

 もちろん、リディアとアシュラム以外が取っている日もあるが、目にする頻度が違えばそうなってしまう。


 有名税と言えばそれまで、あることないこと、煙が無いところに火は立たぬではなく、煙が無くても火を立てるし起こす。


「はぁぁ……しっかしどうするか。私が勝ちたいのは、ステ統一された後のアシュラムじゃないんだよー……! 他のPvPイベントだと、他の人たちに攻撃で私が死ぬからタイマン勝負がまともに出来る聖剣争奪戦じゃないと、決着つけられないのに!」


 リディアは自室のカレンダーを見る。

 表示されている曜日は火曜日、そして次回のアップデートは1週間後の水曜日。


 既に本日の『聖剣争奪戦』は終了している為、残りの開催回数は7回となる。


「あと7回のチャンスで本気のアシュラムに勝つ。やばいなー、呑気に命中宝石を集めていられないぞコレ」


 両腕を組んで、うーんと唸る。


「かと言って、全体チャットに大々的に買取募集掛けると命中上げているのバレるしなー……サブのアサでやるもの手だけど、命中宝石って指定の時点で結構バレバレだし」


 命中を底上げしているとバレては、アシュラム側も回避をさらに上げてくる可能性は高い。


 仮にそうなってしまうと、せっかくの準備が無駄となる。

 実施するとしたら、アシュラムが即対応出来ないタイミング、つまりは『聖剣争奪戦』開始数分前等が該当するのだが……都合よく集まるかはまた別問題でもある。


「とりあえず、連合の皆にはお願いしないとかな。装備の追加OPがいい物が泥したら、命中宝石や瓶が泥したらって形で連合チャで募集しとこっと……」


 カタタッ、とブラインドタッチで文字を入力していく。

 しばらくすると、連合チャットにリディアが書き込んだ文字が表示された。


『※急募※ 対アシュラム用に以下のアイテムを募集します。

 ご協力お願いします!


・マジの装備一式

 (追加OP(オプション)は、命中値>命中補正値>>移動速度)

・命中宝石@無限回収

・命中強化瓶@50


アプデ前に決着つけたいので、募集〆は来週火曜日23時まで!

ログイン中は定期的に連合チャに募集を流しますので、しばらくログ汚します』


『おk』

『把握』

『リディアsに不良在庫押し付ければいいんだな!?』

『三╰( `•ω•)╮-=ニ=一=三 |命中宝石||装備|』


『=三|命中宝石||装備|))Д´)ノ゛ やめろ! 普通に交渉画面だして!』


 いつも通りの連合チャットに、リディアはプッと噴き出す。

 少しばかり震えて笑いをこらえ、パソコンの画面に視線を戻すと個別チャットに新規メッセージがある事に気がつく。


【おーい、リディアさーん。そろそろ煉獄に行くぞー】


 そのメッセージを見て、リディアはしまったと言う表情を浮かべた。

 時刻は既に午前1時。

 慌てて全体マップを開いて目的地を指定し、キャラクターが動き始めると同時に個別チャットに返答を書き込む。


【ごめんゼクスさん、今向かう! だいたいアプデ内容が悪い!】

【ありゃしゃーなしだろ。むしろ数分で現実に良く戻って来たよな。ついでに、今日は2名お休み。明日早いんだって】


【ありゃりゃ。じゃあ今日はさくっと50層解散にする?】

【それしかないだろ。野良で2人募集して終わらせよう】

【ほいほい】


 リディアは早速、全体チャットに向けての募集文を作成し始める。

 今、リディアたちが話していた煉獄とは『煉獄回廊』と呼ばれる、1日1回挑めるデイリーダンジョンにしてエンドコンテンツの1つ。


 4人1組の部隊を組んで挑めるダンジョン内では最難関であり、合計200層で構成されている。


 現時点で、最高到達階は110層。

 到達者は、リディアたちが所属する連合と双璧を為すトップ連合の連合長グループだ。


 そんなエンドコンテンツダンジョンの入り口に辿り着くと、ナイトのキャラクターが立っている。

 リディアと毎日この煉獄回廊に挑戦しているメンバーの1人、ゼクスだ。


【ゼクスさん、クラス指定はある?】

【無し。どんな奴が来ても、俺とお前なら50層までなら問題なく行けるだろ】

【それもそうだな。んじゃ、募集かけるよ】


《野良煉獄@2 クラス自由、50即解散、部隊直》


 先ほど用意した全体チャット向けの募集文書を打ち込む。

 その間に、リディアはゼクスをクリックして、部隊結成を選ぶ。

 すると、画面左側にゼクスのアイコンが表示された。


〔改めて、よろ〕

〔今日もよろー、さてと今日は誰が参加してくれるかな? それと、待ちの間にこれ[破魔の魔剣]〕

〔宝石準備おk。募集待ちだから、さくっと交換しよう〕


 部隊チャット画面に切り替えて、アイテム交換をしながらリディアはゼクスと呑気に会話をする。

 剣と宝石の交換を完了させて待つこと1分、2人の画面に変化が現れた。


「おっ、募集に誰か乗ってくれたな」


 画面左側に、2人のキャラアイコンが追加された。

 それを確認したリディアは、再び全体チャットを開き


《野良煉獄〆》


 募集終了のメッセージを発信する。


「さてと、誰が来てくれ……は?」


 改めて画面に視線を戻して、部隊に加入して来たキャラ名を見て、リディアは目を丸くした。

 画面に表示されていたのは


 "アシュラム"

 "SPECTRE"


「え? はあああ!?」


 慌てて2人のキャラクター詳細を見る。

 しかし、表示されている内容は間違いなく "アシュラム" と "SPECTRE" で間違いなかった。


【うわぁ……例のアサと、トップ連合の連合長じゃん。ソロで100層行けるのに何で野良に】


 ゼクスの方も、思わず部隊ではなく個別の方でリディアにメッセージを送って来る。

 アシュラムに関してはともかく、"SPECTRE" というマジシャン(魔術師)は、今から向かうエンドコンテンツの最高到達階者の1人。


 リディアたちが所属する連合と双璧を為すトップ連合の連合長、その人である。


〔こんにちわ、今日はよろしく〕

〔よろしくです〕


 部隊チャットの方にSPECTREとアシュラムからのメッセージが書き込まれた。

 リディアは慌てて、タブを部隊の方に戻して文字を入力する。


〔よろしくお願いします。あの、すいません。いいんですか? 50即解散ですし、階層突破報酬美味しくないですよ〕

〔気にしなくていいよ。こっちも今日は忙しいから、50解散でおk〕

〔分かりました〕


「いや、お宅らなら50層行く時間で100層行けるよね? つか、個人的にはめっちゃタイムリーだな」


 分かりましたと、打ちながらもリディアはツッコミを入れた。


「まぁいいか、トップランカーのマジと対人最強アサが一緒だから、いつもより早く終わりそうだし」


 当たり障りなく挨拶をして、4人は『煉獄回廊』の入り口にいる案内人NPCに話しかけ、ダンジョンに入場する。

 画面が切り替わると同時に、まずは44層までのオート戦闘設定をして戦闘開始。

 後は勝手にキャラクターが戦って、次々と階層を登っていくのみである。


「うへぇ、さっすがあっちの連合長。火力やば……一瞬で消し飛ぶ」


 最も、戦闘開始と同時に放たれるSPECTREの1撃で、ほぼ最序盤のモンスターは瞬殺。

 この調子では、50層までノーダメージクリアすら見えてくる。

 1層につき5秒レベルで突き進むこと44層まで到着し、リディアたちは一息吐いた。


 この階層は唯一戦闘が無く、7分間滞在することで大量の経験値が手に入るボーナス階層なのだ。


〔さて、しばらく放置状態に出来るし……少しお話しないかい?〕


 休憩と同時に、SPECTREからの提案が飛んで来た。

 お話? とリディアは首を傾げる。


【……トップランカー様からお話?】

【同伴者を考えると、リディアさんに用があるんじゃねーかな。俺しーらない】

【ちょ、ゼクスさん!? 私を見捨てないでくれない!?】


 個別チャットで会話を交わしている間にも、部隊チャットにはSPECTREの書き込みが追加された。


〔正確には、僕から話があるんじゃなくて〕

〔すいません、オレからです〕


 申し訳なさそうに、アシュラムが会話に参加して来た。


【リディアさん、良い奴だったよ……連合長には、勇ましい死にざまだったと伝えておく】

【ちょいまてゼクスさん、何でもう死んだ扱いになるの!? ここPK不可エリアだからPvPは発生しないし! あと、自分じゃなくてゼクスさんに用がある可能性がワンチャン】


【いや、どう頑張って解釈してもオメェだろ】

【デスヨネー!?】


 器用に部隊チャットと個別チャットを切り替えながら、リディアは会話をする。

 流石に何か反応しないとまずいと察したのか、ゼクスが先に話題を切り出した。


〔えーと、お話は俺ですか? リディアさんですか?〕

〔リディアさんの方です〕


「ぎゃあああああ、何でピンポイントでこっちー!?」


 その返答を認識した瞬間、リディアはパソコン前で絶叫する。

 こういう時、チャットと言うのは便利なものだ。

 こっちのパニックを悟られなくて済む、そうしみじみとリディアは思っている間にも、部隊チャットにはアシュラムからのメッセージが書き込まれてゆく。 


〔率直にお聞きします。ここ数日の聖剣争奪戦で、オレにダメージを与えているのはリディアさんですよね〕


「うーわー、バレとーる。気づかれていないと思ったのに」


 リディアが "バレていない" と思っていた理由。

 それは、ゲームシステムの由来するものであった。


 オンラインゲームで悩みの種、と言えば "ラグ" の存在だ。


 MMORPGは大規模多人数同時参加型オンラインRPGであり、多くのプレイヤーたちが存在している。

 1つのフィールド内に数十名が集まり、各キャラが様々なスキルを使用し、あちこちでエフェクトが散乱すると、当然ながらサーバーに負荷が掛かり処理落ち、つまりはラグが起こる。


 このラグがPvPにおいてはかなりの致命傷となってしまう為、そういうイベントに参加するプレイヤー間では


 ・基本的にキャラクター表示OFF(頭上の名前で判断出来る為)

 ・一部エフェクト表示無効


 などの設定を行っているのが常である。

 また、キルログはともかく、攻撃被弾メッセージは出ない為、誰の攻撃があたったのか、なんてのは判別不可能。


「しかも断言してるってことは、心当たりあるんだよな。すっとぼけても意味なさそうだし」


 リディアは気合を入れ直して、部隊チャットに文字を入力する。


〔断言する理由を、お聞きしても?〕

〔そうですね、理由は3つです〕


 3つもあるのか、と小声でツッコミを入れながら次のメッセージを待つ。


〔1つ目、オレがダメージを "受けた" と認識出来る程度に、高火力の技を食らった事。

 2つ目、俊敏補正があるクラスが限られている事。

 3つ目、アサシンの移動速度に高頻度で追い付ける可能性があるクラスも限られている事〕


 アシュラムが挙げた3つの理由を見て、リディアは頬を引きつらせた。

 その内容から、既に意図を察したからである。


〔1つ目を一旦飛ばして、2つ目から説明します。

 この【ヴェルトラウム】における、俊敏補正があるクラスは3つ、アサシン、アーチャー、マジシャン。

 これらのクラスの装備には、命中や回避補正が上昇する追加OP(オプション)が付与される可能性がある〕


 少しでもプレイヤー側の負担を減らす為なのか、このゲームではそういう仕様になっている。


 ナイトには魔法攻撃のスキルが一切ないので、魔攻が上昇する内容は不要。

 同じように、マジシャンやプリーストは物理攻撃のスキルが無いので、物攻が不要……と言う感じだ。

 この判別はクラス毎の補正値によって決まっているのでは、と言われている。


〔3つ目の移動速度について。

 純粋な移動速度だけであれば、全クラスで数値を上げることは可能です。

 しかし、"スキル" として場所移動を持っていると、追いつく頻度にが格段に増えて、攻撃チャンスが増します。

 そして、そのスキルを持つクラスは、ナイト、アサシン、マジシャンのみ〕


 指定した敵に対して距離を詰める、ナイトの "突進"

 一直線に相手を攻撃しながら移動する、アサシンの "白風の刃"

 効果範囲内で指定箇所へ瞬間移動する、マジシャンの "テレポート"


 これが、このゲーム内で一気に距離を詰める、もしくは距離を取るスキルとなる。


〔この時点で、両方の条件を満たしているのはアサシンとマジシャンのみ。

 ここで、1つ目に戻ります。

 オレがダメージを "受けた" と認識出来る程度に、1発が高火力であり誰からも接敵されていない状態だった。それは……〕


〔降参! アサシンには無理、クラス特性上 "低火力だが小手先と手数勝負" がコンセプトであり、マジシャンは "超火力による範囲攻撃" だ。該当者はマジシャンしかいない〕


 完全な消去法であった。


〔そうです。あとは、聖剣争奪戦の参加者を確認して、命中値が最も高いキャラクターを割り出した。それだけです〕

〔それだけって、鬼ごっこ中によくそんな暇ありますね〕

〔常連プレイヤーから当たりましたので〕


「うぐっ……常連だったのが仇になってたのか」


〔なにより、リディアさんはオレがクリック連打勝負で聖剣を取れなかった場合の大半の勝者です。そりゃ装備見ますよ〕


 ガタン、と机に突っ伏すリディア。

 何故、自分のキャラクターが見られないと思ったのか。その1点を真剣に己自身に問いかけ中である。


〔そんなわけで、スぺさん以外でオレをPvPマップで倒せる可能性がある貴方とお話がしたかったのです〕

〔スぺさん?〕


 無反応なリディアに変わり、ゼクスが問いかける。

 すると、部隊チャットに


〔ヽ(^^)ノ〕


 SPECTREが書き込んだ、なんとも可愛らしいアスキーアートが表示された。


「あー……SPECTRE(スペクトル)だから、スぺさん。なるほどね」


 何とか体を起こして、リディアはパソコンの画面に向き合う。


〔それで、アシュラムさん。私にお話って……〕


〔聖剣争奪戦のことです〕

〔ですよね〕


 それ以外にないもんなー、と思いながらアシュラムの書き込みを待つ。

 長文を書いているのか、しばし部隊チャットが静かになる。


〔現状、連合長以外で唯一、オレを倒せる可能性がある貴方に宣戦布告に来ました〕

〔宣戦布告……?〕


〔経緯を説明します。まず、オレが聖剣争奪戦に参加したそもそもの理由は、俊敏全振りアサシン育成の為です〕


 これに関しては、リディアの中では想定の範囲内だった。

【ヴェルトラウム】における、アサシンの俊敏全振り育成は修羅を超えた地獄の道。


 なにせ、攻略サイトでさえ "おススメしない" と記載されているぐらいだ。


 アシュラムのレベルまでキャラクターを育成する場合、数十万~百万単位の課金による超強化をするか、聖剣によるステータスブーストを何か月も使って、強化速度を上げるか、相応の年月を地道に費やして強化するかの3択となる。


〔元々は連合の方針で、今後実装されるであろうPvPイベントを見据えたキャラ育成の一環でしたが……この戦い方が思いのほかオレ自身に合っていまして。桁違いに課金しまくっているスぺさんはともかく、他の人たちの攻撃はかすりもしないってのは、凄い優越感でした〕


 聖剣争奪戦のフィールド内で、多くのプレイヤーから追いかけられ攻撃される。

 しかし、誰もダメージの無い必中デバフ系以外を当てる事が出来ず、移動速度も遅い為追い付くのに一苦労。


 そんな他プレイヤーを見て、アシュラムはその優越感に満足していた。


〔だけど最近、そんなオレに攻撃を "当てて来る" キャラクターが出現したことに気がつきました。キルには至ってないとは言え、HPが半分以上減っているのに気がついた時は、目を疑い驚きました。同時に、好機だと思ったのです〕


〔好機?〕

〔そうです。本気でオレを倒す為 "だけ" に特化した装備を調達してくるプレイヤー相手に、勝てるのかと。こんなチャンス滅多な事じゃ経験出来ない。だって、オレに攻撃を当てる為だけに、必死に準備して来たんだぜ!?〕


 興奮しているのか、丁寧な口調が僅かに崩れる。


〔大半の連中が、攻撃を当てる事が出来ないからって無駄口だけ叩いて何もしてこない中、君だけは唯一、本気でオレを倒そうとしてきている! 優越感とはまた違った期待感と高揚感、それがもう7回しか味わえなくなるんだ!〕


 メッセージから、彼の喜びが伝わってくる。

 人によっては狂気にも見えるソレを、リディアは唖然として眺めた。


〔他のPvPイベントだと、どうしても他の連中の邪魔が入って君がPKされてしまう。だけど聖剣争奪戦ならば、追跡者同士は攻撃出来ない仕様だ。オレが聖剣を所有している間は君はPKされないし、オレとの一騎打ち状態が維持される! 心行くまで、君との勝負を楽しめる!〕


「…………」


 その言葉を見て、リディアは目を見開く。


「あぁ……そっか。アシュラムもだったのか……私が感じた憤りと全く同じものを、感じていたのか」


 リディアが命中重視の対アシュラム用装備を準備し始めた理由もまさにそれだった。


 捕まえられない鬼を捕まえられるようにしよう、ではなくて、そいつに所有権を渡さないようにしようと後ろ向きな他プレイヤーたち。

 リディアなりにこういう作戦はどうだ、それならばこれはと何度も説得もしたが、通じなかった。


 憤りが目標になり、気が付けば楽しみになったのはいつからか。


 クスリと笑い、アシュラムに向けてのメッセージを書き込む。


〔私もだよアシュラムさん。常連連中すら、だーれもお前を止めようって本気になってくれなかった。独占状態でいいのかって葉っぱ掛けても全然! そのくせ、悪口だけはいっちょ前でさ。それでヤケクソで "じゃあ私がアシュラムを倒せばいいんだろ!?" ってな。気が付けば、"本気の" お前を倒すことが、私の大目標だ〕


〔………はははは! なーんだ。オレら、似たような理由で争ってたって訳か!〕

〔そうみたいだな。あー、くっだらねー!〕


 文字を打ち込んで送信すると同時に、リディアは笑う。


〔アシュラムさんのご要望は、"今まで通り" 全力で挑んできて欲しいってことかな?〕

〔その通りです、リディアさん。お願いできますか?〕


〔上等! 元よりお前に勝つ気でこっちは準備しているんだ! 絶対にお前から聖剣を奪ってやる!〕


〔くぅぅ、こういうセリフ言ってみたかったから言うな? 言わせて貰うな!? やれるもんならやってみやがれ! オレの回避力舐めんなよ!〕

〔じゃあノッてやる。その油断と慢心、あとで後悔するぞ!〕


 どこかの少年漫画かと言わんばかりのノリで会話している2人を他所に……


【いやー、すげぇ熱血スポコンみたいなことやってるなー、あの2人。会話に入りづらいですよね、SPECTREさん】

【 (゜ー゜)(。_。)(゜ー゜)(。_。)  現状、口挟みづらいよなー、ゼクスさん。あ、そっちの連合長元気?】

【いつも通りかな。あ、今日はもう寝落ちしてるっぽい】


 盛り上がっているリディアたちを他所に、個別チャットでゼクスとSPECTREは呑気にそんな会話をしていた。

 2人の会話が落ち着いたのを確認し、SPECTREは『(・∀・)/ ハーイ』とメッセージを打つ。


〔アシュラムさん、リディアさん。せっかくの君らの一騎打ち、邪魔されたくないよな?〕


〔そりゃまぁ、可能であれば〕

〔……スぺさん、何をやらかす気ですか?〕


〔(・_・)やらかす? そんなことしないよ。しいて言えば……お膳立て? [天に届くメガホン]〕


 部隊チャットに、やばいアイテムが張り付けられた。

 SPECTREが部隊チャットに書き込んだアイテム、これはゲーム内で入手可能な特殊なメガホン。


 そう、メガホンである。


〔ああああ、スぺさん! ストップ、ストップー!〕


 アシュラムが慌てて止めに入るが、もう遅かった。


⦅えー、【ヴェルトラウム】全プレイヤーの皆様、天チャ失礼しまーす。どうも、シュピールプラッツの連合長SPECTREでーっす⦆


〔やりやがった……天界チャットなんぞやりやがったよ、このアホ連合長ー!〕

〔うわぁ……天チャひっさびさに見た〕


 天界チャット

 それはログインの有無に関わらず、全プレイヤーに対して『チャット内容を確認するまで』ログが残る特殊なアイテム。

 基本的に、ユーザー同士がイベントや催し物を独自開催する際に使われることが多い。


⦅本日公式からアップデート告知があった通り、来週の水曜日0時に行われる "聖剣争奪戦" が、現行仕様最後の開催となる!

 その最終日に、我が連合が誇る対人最強アサシン(暗殺者)・アシュラム vs そのアシュラムを打倒せんとするAFK連合所属のマジシャン(魔術師)・リディアによる一騎打ちを行います!⦆


「退路絶ってきやがったああああああああ!?」


 あああああ、とリディアは頭を抱えた。

 もう一度繰り返すが、天界チャットはログインの "有無" に関わらず、全プレイヤーに対して『チャット内容を確認するまで』ログが残る。


〔リディアさん、アシュラムさん、俺は今、お前らに本気で同情してる〕

〔嬉しくない同情ありがとな、ゼクスさん!〕


 この騒動に気がついたのか、リディアたちの連合チャットも騒がしくなる。

 それと同じぐらい、全体チャットは祭りの気配を察知して盛り上がっていく。


⦅さぁさぁ、【ヴェルトラウム】のプレイヤー諸君! このゲームでは滅多にない、タイマンPvPだ! 見学者大歓迎! 水曜日0時は "聖剣争奪戦" に集合だ!⦆


〔(`•ω•´)〕

〔スぺさーん……〕

〔お宅の連合長、相当破天荒だったんだな〕

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ