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MP0の僕が女賢者と婚約?


 ユルシアとのお風呂は……正直、逆に汚されてしまった。

 そのままメフィストさんの研究室兼、私室で待っていると。


「ただいま二人とも、ユルシア、ルウをお風呂に入れたな?」

「はい、仰せつかった通り、綺麗にしました」

「よろしい」


 ユルシアとのお風呂の一件は、メフィストさんによる指示だったようだ。

 今日の彼女は機嫌がすこぶる良さそうで。


「ルウ、こっちに来い」

「はい」


 手招きに従い、メフィストさんの傍によれば、両手を広げて抱き留められた。

 そのまま僕の矮躯を器用に手繰り、後ろから抱えられた格好になる。


 座り心地のいいソファに二人で腰掛け、僕はまるで人形のようだった。


「いい匂いだ。これでいいな。お前も綺麗になれて嬉しいかルウ」

「えっと」

「しけた顔してるな……ルウがこの先体得してみたい召喚魔法ってあるのか?」

「候補を挙げられるほど、僕は召喚魔法を知りません」

「そうか。ユルシア、召喚魔法の書物を持って来てくれないか」


 メフィストさんに指示されたユルシアは、お辞儀して部屋を後にした。


 これで部屋には僕とメフィストさんの二人だけになった訳だけど。


「先ずはそうだな、昨夜の召喚魔法は見事だったぞ」

「ありがとうございます」

「そこでだ、ルウには約束通り望みのものを」

「メフィストさん、それには及びません」

「む?」


 昨夜の僕が心の底から望んだものは、もうすでに手に入れた。


「強いて言うのなら、僕を貴方の御傍においてください」


 嘆願するよう下からメフィストさんを仰ぎ見た。後ろから抱きかかえられている状態だったから、メフィストさんの表情はよく見えなかったけど、眦に映ったのはちょっと吊り上がった口端だった。


「いいだろう、ならお前は生涯私の傍にいるといい」

「ありがとうございます」


 お礼を告げると、彼女は僕の頭を優しく撫でる。


 最高に幸せだ。


「……皮肉なものだな」

「何がです?」

「今ほど、私がエルフである身を幸福に感じた例もない」


 エルフ? メフィストさんは普通の人間じゃなかったのか。

 その情報を聞いた僕は、どこか腑に落ちた気持ちだった。


 何故メフィストさんはMP0の異端児である僕を、拾ってくれたのか。

 僕にこれほどの慈愛を向けてくれるのか。


 きっとメフィストさんも、今まで周囲から忌諱されて来たのだろう。


「メフィスト様、召喚魔法に関する書物を一通り持って参りました」

「よろしい、ちなみにユルシア、ルウは文字を読めるのか?」

「はい、ルウは賢く、小さな頃から本の虫のようでした」

「それは手間がなくて助かる。オスカー殿もそこらへんはぬかりないようだな」


 そう言えば、父やネッツはあれからどうなっただろう。

 僕を虐待していた事が公になって、問題視されていたみたいだけど。


「メフィストさん、父達はその後どうなるのでしょうか」

「気になるか? 実は今日はそのことで王室に掛け合って来た」


 そうだったのか。


「伯爵家エヴィンは数年以内に成果を出さなければ貴族の位をはく奪、そのため、伯爵家は不出来なお前を追放することで一先ずその姿勢を王室に示した。そういう訳さ」


 ユルシアの顔色を覗うと、不安の色一つ浮かべていない。

 何か問題でもあった? と逆に聞きたそうな顔をしている。


「どうした? まさかルウ、実はユルシアのことが好きだったのか?」


 姉弟という血のつながりを乗り越えた禁忌の大恋愛か?

 などと、メフィストさんは僕とユルシアの関係性を遊び半分に指摘する。


「ありえません、どちらかと言えば僕はメフィストさんと添い遂げた……」


 そこまで口にして、自分が何を言ってしまったのか理解する。

 売り言葉に買い言葉の要領だったとはいえ、失敗した。


「すいません、舐めた口利きました」


「いや、気にすることはないぞルウ。私も結婚願望がないとは言い切れないからな。子供とは言え、お前からの告白は嬉しかったよ……しかし、私でいいのか?」


 メフィストさんは僕の軽口を若干本気にしている。

 彼女ほどの美貌の持ち主であれば、結婚を申し出る人もいそうなのに。


「今のはほんの――」


 冗談です。と言おうとした矢先、ユルシアが僕の口を手で塞いでいた。


「ルウは本気でメフィスト様に結婚を申し込んでいるみたいです」


 は!?

 先ほどのお風呂の件の報復は、まだ続いているとでも言うのか!?


「そうか、では私とルウは今日から婚約者だ」


 冗談なのか、それとも本気だったのかは知れないが。

 僕は齢6歳の時分にして、国唯一の女賢者と婚約してしまった。



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