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実験の翌日


 翌日、家を追い出され行き場を失った僕は、実験の場所となったなだらかな草原の丘で寝そべり、今はため息を吐きながら空をただよう雲を目で追っている。


 昨日の実験は成功した。


 今頃メフィストさんは王室に呼ばれ、成果を報告しているのだろう。


 重複するが、昨日の実験は成功した。


 とは言え……その結果、エヴィン家の当主は足を失い。

 僕を執拗に苛めていたネッツは――


「ここに居たの」


 昨夜の出来事を回想している僕の許に、姉、ユルシアがやって来て。


 寝転がっている僕の視線の先に、ユルシアの薄紫色の下着が映った。


 堪らず目を逸らすよう寝返る。


「……何の用ですか姉様」

「メフィスト様が昨日の件で、ルウのことが心配になったみたい」


 様子を見て来いと言われたからと、ユルシアは抑揚のない声で告げる。


「一先ず、おめでとう」

「ありがとう御座います」

「初めて魔法を使った感想はどう?」

「……先に教えてくださいよ、姉様の時はどうだったのですか」

「私が魔法を初めて使ったのは3歳の時らしいから、覚えてない」


 ユルシアと僕は10歳ほど年が離れている。

 地球で言う所の女子高校生の時分だ。


 平均的な女子高校生って、あんな艶めかしい色の下着を穿くものなのかな?


「顔が赤いようだけど、熱でもあるの?」

「ありませんよ、ただ頭に血が昇ったのかも知れません」


 しばらくすれば治ります。と告げれば、そよ風が僕達の頬を撫でていった。


 どのくらいユルシアと一緒に丘に居ただろう。僕は昨夜のことが脳裏から離れないし。メフィストさんの命を受けたユルシアは、僕の傍に座って時間を待っているだけだ。


「時間だから、もう行く。ルウもいつまでもここに居ては駄目だから」


 ユルシアは立ち上がり、その場から立ち去ってしまった。

 あの姉だけは本当に理解出来ないけど……不思議と気分は落ち着いていた。


「いい姉ちゃんだな、後で俺に紹介してくれよ坊主」

「あ」


 次にやって来たのは昨夜もお世話になった露天商の店主のゾロだ。


 相変わらず小汚い恰好をしているが、能ある鷹は爪を隠す。

 という諺が当てはまりそうなほど、昨日は助けられた。


「ゾロさん、昨日はありがとう御座いました」

「いいんだよ、あのくらいどうってことない」

「お強いのですね、僕、驚きの余り感動しました」

「おいおい、褒めるにしても今さらだぜ」


 誰かを賞賛するのに、タイミングを計る必要などあるんだろうか。


 ゾロさんは僕の隣に腰を下ろす、先程までユルシアが座っていた場所に。


「店はいいんですか?」

「ああ、元々あの店は不当営業だからな」

「そうだったんですね」


「違法ではあるけどよ、そーでもしねーと暮らしていけねぇ。そーゆう国なんだよ」

「貴方であれば、どこかの地位のある家柄の従者としてやっていけそう」

「俺に貴族共を相手に愛想笑いをしろって言うのか? 反吐がでるね」


 まぁ、そう言うのならこれ以上は言わないでおこう。


「昨日は本当にありがとうございました」

「いや、あれは坊主の決断と力で防げたことだしな。そう畏まるなよ」


 昨夜――倒れている父とネッツにトドメの一撃をスプリガンは振り下ろした。


 ――――ッッ!!

 スプリガンの渾身の一撃は、どういう訳か地響きを伴わず。


 よくよく見たら、ゾロさんが父とネッツを防御魔法で庇っていた。


「いい加減にしろ、クソ賢者共!! 他人の目ばかり気にしやがって、ちっとは自分の意思で動いたらどうなんだッ!」


 ゾロさんが黙視していた他の実力者に向けて吼えると。


「余計なことして、ルウ、あいつの言うことに耳を貸すなよ」


 メフィストさんはゾロさんを煙たがっていた。

 しかしスプリガンは尚も攻撃の手を止めなくて。


 ゾロさんの防御も、次第に弱まって行った。


「……止めてください、メフィストさん」

「何故? 連中はか弱いお前をずっと苦しめて来た輩だ」


 それでも……ッ!

 僕は三人の下へ走った。


「ば! 来るんじゃねぇ坊主! お前に何が出来る!」


 確かに、ゾロさんの言う通りあの時の僕に何かが出来るとは思えなかった。

 けど、今にでも命を落としそうな三人を、見捨てることは出来なかった。


「止まれスプリガン! 三人を攻撃しちゃ駄目だ!」


 駆けつけた後、暴れ狂うスプリガンに命令するよう叫んだら。

 スプリガンは本当に、僕の命令に従い、動きを停止させ。

 また小人の姿に戻った。


 スプリガンが取った行動から、僕は学んだんだ。


 召喚士が呼び寄せた物体は、術者の心を反映して動き。


 父を負傷させ、ネッツを殺そうとしたスプリガンの姿は、僕自身だった。



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