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これなんてエロゲ?


 あの後、僕達はアーヴァンクに購入した安産祈願のお守りを渡し、実際にこれを使って子供を設けてみるように打診した。アーヴァンクの族長の彼女は「ではルウ、こちらへ」と不穏な行動に出たがそこはメフィストさんの介入によって事なき事を得る。


「冗談はいいから、これでこちらの約束は守った。次はそちらが約束を守る番だな」


「……水の宝珠を、先ほどの魔法を使ってコピーするのだな?」

「そうだとも、それで我が国の水不足問題は解決できる」

「本当に魔法とは、恐ろしいものだよ」


 アーヴァンクの族長が見通しの付かない未来を不安視してか、歯切れの悪い感じで僕達を水の宝珠の下へ案内してくれた。水の宝珠はアーヴァンクの祭場のような神秘的な場所に奉納されている。


 左と右、水の宝珠へと向かう道の両脇は白い房がついた大幣が備えられており、少しだけ窪ませてあった道を満たすように透明な水が上流から下流へと流れている。


 アーヴァンクの族長は手で水をすくい。


「ルウ、飲んでみろ」

「飲んでいいんですか?」

「きっとご利益があるぞ、さぁ」

「……じゃあ、頂きます」

「キュウ~」


 族長の手の平にあった水を啜ると、口内に多幸感が広がった。

 何て言うのかな、まるでメフィストさんとキスした時と同じ感覚だ。


「水の宝珠によって生成された水は、1リットルあたり1万MPを有する超高密度な魔法水なのだ。我々アーヴァンクは時折この水を露天商などで売り、生活の役に立てている」


「ふむ、確かにこれは極上の魔法水のようだ」

「濃厚な魔法量で、とても美味しい」


 メフィストさんとユルシアもその味わいに至福な様子だった。


 この世の万物は皆MPを所持している。


 MPの絶対量は生まれた時から決まっているものだが。魔法などで使用したMPは、身体を休めたり、魔法水と呼ばれるこの水を吸収することによって回復させることが出来る。


 水の宝珠は魔法使いにとっても貴重なアイテムとなりそうだ。


「随分と大きいな」

「ですね、どうやって持ち帰ります?」

「とりあえず、国に持ち帰ったら男共を駆り出すが……これを倍化出来るか不安だ」


 メフィストさんとユルシアは全長3メートルはある宝石のように碧い宝珠を前にして、どうやって持ち帰るか検討していた。僕も役に立てるのなら、行動を起こしたかった。


「持ち運びのことなら心配いらない、アーヴァンクは怪力な種族だからね」

「ふむ、では時間も惜しいし、やってみるか……」


 メフィストさんは神経を集中させるように瞼を瞑る。


 揃った一同も、メフィストさんの邪魔にならないように口を噤んでいた。


 でも。


 僕はこの場にいる誰よりもメフィストさんに熱い眼差しを向けていたと思う。


 ひょんなことで家を勘当され、行くあてを失った僕を拾ってくれた彼女。


 その後もメフィストさんは僕の傷ついた心を癒すように、優しく接してくれた。


 僕の未来を守るように、師弟関係を結び、あまつさえは婚約までしてくれた。


 ここまでされれば、なびかない男はいなくて。


 今の僕はメフィストさんに絶対なる信頼を覚えている。


 だから、頑張れメフィストさん。


 貴方が僕を日ごろから応援してくれるように、今度は僕が貴方を応援します。


 そうやって、僕はメフィストさんから信頼されるようになりたい。


 メフィストさんと、お互いに心の底から信じあえる関係になってみたかった――


「ふぅ、些か大仕事だったが、成功だな」


 気付けば、メフィストさんの前には水の宝珠が2つ並んでいた。


 大岩に嵌っている、オリジナルの宝珠は今も魔法水を生成していて。

 すぐ脇に生まれて来た弟分の宝珠の存在を受けて、喜んでいるように思えた。


「おお、やったのか、本当に」


「ああ、さすがは賢者の称号を持っているだけはあるだろ。とは言え、MPを使い過ぎた。少し休ませてくれ」


 僕は足元がおぼつかないメフィストさんに駆け寄り。


「おめでとう御座います、師匠!」


「……ルウ、ようやく私のこと、師匠と呼んでくれたな」

「あざといタイミングで呼ぶんだね」

「ユルシア、お前はルウの姉として、また姉弟子として、色々教えるんだぞ」

「この上なく喜ばしいことです、弟弟子の育成は私にお任せください」


 メフィストさんとユルシアはこの時になって初めて僕を門下の弟子と認めてくれたみたいだ。以降、僕は女賢者メフィストの正式な弟子としての肩書を持つことになる。


 ユルシアからは肩書に見合った行動を取ることを、厳命されたものだ。


 ◇


 その後、水の宝珠は錬金工房を営んでいるガラルさんの下に持ち寄る。


「まさか、本当にやってのけてしまうとは。さすがは賢者だ」

「父さん、これで魔法紙が生成出来るね」

「いや、それどころか、これがあれば街のみんなも大助かりだ」

「やったー」


 ガラルの娘クックは感情の起伏のない喜びを上げる。


「ガラル殿、このことは王室に通達しておくが、宜しいかな?」

「あ、ああ。どう対応すればいいのか見当つかんが、そうしてくれ」

「では私達はこれにて」

「お礼を言うのを忘れていた、今回は本当に助かったよメフィスト」

「その気持ちだけで結構だよ、ああそれと」


 メフィストさんは思い出したように踵を返し、僕をガラルさんの前に引っ張り出した。


「この子はルウ、ルウは今日から正式に私の弟子となった。そちらにいる娘さんのクックくんともども、よくしてやってくれると嬉しい。とりあえずルウに魔法紙の製造法を伝授してやってくれないか?」


 メフィストさんが頼み込むと、ガラルさんは闊達な笑顔で了承してくれた。


「どんな見返りを求められるのか不安だったが、それなら是非とも引き受けさせて頂くよ。この工房にも跡継ぎは必要だし、万が一のことがあればルウをクックと結婚させて」


「ルウくんと結婚? やったー」


 ……うん、これなんてエロゲ?


 今まで見て見ぬ振りしてきた僕も、さすがにその感想を覚えた。


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