至高のビッチに襲われる
昼休みの図書室。
ここは相変わらず静かで落ち着いていて心地よい空気が広がっている。勉強にはもってこいの場所だ。
ただし、ごく一部の地域を除いては。
「ねぇ〜次は理科を教えてよ〜」
夏服の制服から見えている肌がくっつきそうなくらいの近さで俺に教えを乞うているこいつは、お馴染みのビッチ西澤だ。
今日も甘ったるい匂いを漂わせ、ぱっちりお目目でバッチリとメイクをキメて、至高のビッチさを存分に発揮している。
「西澤、期末テストで俺に勝つために勉強してるんじゃないのか?」
「もちろんしてるよ。だからこ〜やって毎日のように〜、キミにべた〜っとくっついて教えてもらってるんじゃない。だってキミが今のところ一番なんだよ?一番の人から知識盗まないと一番には近付けないでしょ?」
「まあそう言われたらそうかもしれんが、少しは自力で勉強ってものをだな……」
「えいっ」
「うぐおっ!」
こいつ、また性懲りもなく不意打ちで脇腹を突っついてきやがった!
もしかして俺が脇腹弱いって知ってるのか?
知っていての攻撃なのか?
「にしし〜。やっぱりキミはいい反応するねぇ〜」
「お前なあ!真面目にやれよ!」
「そこのお二人さん、静かにしてくれませんか?」
ほーら、こんなことやってるからまた注意されたじゃねーか。
同じテーブルの名前も知らない女子のお方、本当にすみません。ご迷惑をおかけしました。
俺はぺこりと頭を下げた。
「期末テストまでなんだかんだであと3日だね。なんかキンチョーしてくるなー」
「西澤も緊張なんてらしくないことするんだな」
俺は教科書に目を通しながら適当に西澤と話す。
「あたしだってキンチョーくらいするよ。だってキミがあたしにキョーミ持ってくれるんだよ?そんなのキンチョーするに決まってんじゃん」
「勝つの前提なんだな」
「そりゃあもちろん!あたしは勝つ!勝つよ!たとえどんなことをしてでもね!」
「どんなことをしても?カンニングとかか?」
「そんな悪いことはしないよ〜。たとえばね〜こんなことだよっ」
そう言うと西澤は俺を突然ハグしてきた。急襲だ。
ぽよんとしたやわらかい感触と頭が狂いそうな甘ったるい香りが俺を襲う。
これが至高のビッチのやり方か。ぬかった。
「どう?ムラムラしちゃった?」
「ム、ムラムラなんかしてねえ!」
「うっそだー!絶対ムラムラしたよ!いや、家に帰ってからムラムラするんだよ!さあ家でムラムラしまくって勉強できないカラダになってしまえ!」
「そこの二人!いい加減にしてください!これ以上騒ぐと図書室出入り禁止にしますよ!」
ここ最近図書室に来る度に思う。
早くこの忌々(いまいま)しい昼休みの時間が過ぎ去ってくれないかと。今日こそはその思いが強くなったのだった。