匂いがする
家に帰ってきた。
俺がリビングのソファに座ってゆっくり味わいながら牛乳を飲んでいると、妹の真鈴がツインテールを揺らしながら近づいてきた。
「お兄ちゃん、おかえり」
「ああ、ただいま」
「今日の晩ごはんは鳥の唐揚げだって。さっきお母さんが言ってた。で、今は買い物に行ってる」
「報告どうも」
真鈴からの晩ごはん報告。なぜか真鈴はこの報告を俺に毎日してくる。
いつの間にか日課になっているようだ。
「くんくん……。今日のお兄ちゃん、なんか香水の匂いがするね。しかも女性モノの香水の匂い。もしかして彼女でもできたの?ねえ?」
真鈴が制服の匂いを嗅いだあと、ニヤつきながら俺に尋ねてきた。
俺は気付かなかったが、どうやら西澤の匂いが移ってしまったらしい。
しかし真鈴ももう中学2年。香水の匂いにも詳しくなるような女子になったのだろう。早いものだ。
「俺に彼女?それは有り得ない。なんたって俺は孤高のボッチだからな。この匂いは電車の隣の人の香りが移っただけだ」
「だよねー。男友達すらいないガリ勉のお兄ちゃんに彼女が出来るわけないよねー。うーん。でも電車で隣同士になっただけでこんなに強く匂いが移るものなのかなー?」
真鈴は頬に指を当てて考えるポーズをした。
あざといポーズだ。兄としては妹に悪い彼氏ができないかが不安だ。
「匂いなんてそういうもんさ。じゃあ俺、今から勉強するから。夜ごはんができたら呼んでくれ」
「うん、わかった」
真鈴は頷いたあとソファに座りテレビをつけた。俺は牛乳を飲み終えたあとリビングを出て自分の部屋に入った。
そして真っ先に制服を脱いで匂いを嗅いでみた。
すると確かに香水のいい匂いがした。西澤の甘ったるい匂いだった。