一緒に電車で
しょうがなく俺は西澤と一緒に電車で帰ることにした。そしてしょうがなく電車のシートに隣同士に座る。
車両内はそれなりに人が多く入っていて、立っている人も何人かいた。
「おい、近いぞ」
「え〜?そんなことないよ〜」
西澤は俺にぴったりとくっついている。肩と肩が当たっている。
わざと当ててるのかと疑いたくなるくらいの近さだ。
「くっつきすぎだ。離れろ」
「だからそんなことないって〜。あ、それともなに?近すぎてキンチョーしてるの〜?」
「は?」
西澤は急に何を言っているんだ。
「ちなみにあたしはね、キンチョーしてるよ」
「は?」
マジで西澤は何を言っているんだ。
俺のような二宮金次郎風ボッチと隣同士に座って緊張するとか頭おかしいのか?
「西澤、頭大丈夫か?」
「頭?ちょっとだけぽわ〜っとするかな。あと心臓がドキドキする」
「そりゃあ大変だな。今すぐ病院に行くべきだ。なんならすぐにでも救急車を呼ぼうか」
「そういう意味じゃないよ、もうっ」
西澤は拗ねてぷいっと顔を逸らした。横顔が夕日に照らされている。
いやしかし、なんだ。さすがは至高のビッチというところか。
俺としたことが拗ねた顔に一瞬目を奪われてしまった。これがビッチ西澤流の男の落とし方なのかもしれん。
それにしても、ここのところ勉強を学ぶという口実のもとに、毎日のように西澤は俺につきまとってくるが、本当は一体何を考えているのだろうか。
男友達すらいないこの俺と友達にでもなりたいのだろうか。それとも本当に勉強を教わりたいからつきまとっているのだろうか。
わからん。やっぱり西澤の考えていることはわからん。謎が多すぎる。
そうして俺が最近の西澤の不可解な行動について熟考していたところ、停車した仏田駅でお腹の大きい男性とお腹の大きい女性がそれぞれ乗車してきた。
それを見て俺はシートから立った。
「えー?なんで立つの〜?もっとくっついてたいよ〜」
「あの女性が見えないのか?妊婦さんだ」
俺は孤高のボッチ。他人には興味が湧かない人間だ。だから用事がない限りは他人に関わらず、また無関心を貫いている。
だが妊婦さんといったような困っている人を見て見ないふりをするほど俺は腐っていない。困っている人は助ける。これが俺の孤高のボッチ道だ。
そして俺は妊婦さんに席を譲った。
「すみません〜。ありがとうねえ〜」
「いえ、お気になさらず」
妊婦さんは俺に感謝の言葉を言い、シートに座った。
「キミはボッチだけどさ、いいボッチだよね」
すると、今の俺と妊婦さんのやり取りを見てか、シートに座ったままの西澤が、上目遣いでやさしげに話しかけてきた。
「いいボッチってなんだよ」
「そりゃあいいボッチはいいボッチだよ」
「はあ……」
と、こんな何の生産性もない話をしているうちに早くも次の春葉原駅に着いた。
「あ、じゃああたし、これからバイトだからここで降りるねー。ばいばい」
突然、西澤はバイト宣言をしてきた。
へー、西澤ってバイトしてたんだ。ただちゃらんぽらんしてるだけのビッチじゃなかったんだな。なんか意外。
まあ、なんだ。労いの言葉でも言ってやるか。
「じゃあな、頑張れよ」
「へへっ、ありがとっ。じゃあ今日もたっくさんの大人の男の人たちにご奉仕してこよっかな!」
この言葉と甘ったるい香りを残して西澤は電車のドアから出ていった。
あのビッチ、完全にアウトなバイトしてんじゃねーか。
やっぱりあの大人の男と夜遅くまて遊びまくってるとかいう例の噂は本当だったのか。
少しでも西澤のことを見直した俺がバカだった。