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デキてる

 結局あのヨガプリクラで満足した俺たちは、他のモードは選ぶことなくプリクラ機を出てゲーセンを後にした。


 外はゲーセンに入った時よりも暗くなっていて、俺たちの時間の終わりが近くなっていることを実感させられた。


 これから街に用事がある人たちの流れに逆らい、淡々と美味谷(びみや)駅へと向かう。


 その道中、点字ブロックの上に複数の自転車が放置してあったのを見つけた俺は、自転車を点字ブロックの横に退かし始めた。


「えっと、何やってんの?」

「点字ブロックの上に自転車があるとな、障害物になってしまうから目が不自由な人たちが困ってしまうんだ。あとぶつかったりしたら危険だしな。だからこうやって、横に退かしてんの」

「知らなかった……。キミって、ほんと何でも知ってるんだね」


 西澤は俺に話しかけながら一緒に自転車を退かし始めた。


「何でも知ってるわけじゃない。まだまだ知らないことがたくさんある。だから俺は毎日楽しんで勉強しているんだ。そして、俺が勉強したことを生活に還元できたらなと思ってる」

「そうだったんだ。なんてゆーか、キミってやっぱりカッコいいね。ただ勉強が好きなガリ勉で好成績を残したいから勉強やってるんじゃなかったんだね」


 自転車を退かし終えて西澤を見たところ、西澤はやさしげな瞳で俺を見ていた。

 暮れゆく夕日に照らされた西澤はあまりにも綺麗だった。





 それから俺たちは間もなくして美味谷駅へと到着した。


 改札を通り駅のホームで西澤を連れ去る予定の電車を待つ。


「なあ、本当に西澤の家まで送らなくてもいいのか?」

「うん、だってあたしの家ボロっちいからキミに見られるの恥ずいし……」

「そうか……。じゃあほら、今日買ったアクセとかだ。ちゃんと落とさずに持って帰れよ」

「あ、ありがと……」


 西澤は俺から荷物を受け取った。

 そして無言。西澤はなぜか少し(うつむ)いて突っ立ったままだ。


 何だ?

 まだ何か俺に言い残したこととか用事とかでもあるのか?


 するとしばらくして西澤は顔を上げ、笑顔で俺に尋ねてきた。


「あ、あたしね、今日キミと一日過ごして、すっごく楽しかった!ねえ、キミは……楽しかった?」


 まるで今日の昼と同じような質問だった。


 俺は同じ問いを間違えるほどアホじゃない。

 もうこの答えは考えるまでもない。今の俺の答えは既に決まっている。


「ああ、楽しかったよ。今までの中で一番楽しかった」

「ほんとに?」

「本当だ」


 西澤の目がうるうるしてきた。

 ビッチなのになんで泣きそうになってんだよ。

 このくらいの買い物と遊びなんて、今までに何回も経験したことあるんだろ?

 これまでボッチだった俺と違ってさ。


「よかった……。ねえ、また今度一緒に買い物に行ったり、遊びに行ったりしよ?」

「ああ、もちろんだ。なんたって俺たちは今は友達だしな」

「そうだね、今は友達だもんね。……それじゃ、また来週、ガッコーで会おうね」

「気をつけて帰れよ」

「うんっ」


 そして西澤は電車に乗って帰っていった。

 電車のドアが閉まる直前、俺に向けて手を振ってばいばいしていた。




 ◆




「マサくん?今日のデートはどうだった?」

「お兄ちゃんプリクラ撮ってきたよね?はよ見せて!はよ!」


 家に帰ってきた途端、母さんと真鈴からの質問攻めにあった。


 だが俺は喉が渇いていたのでとりあえず無視して冷蔵庫から牛乳を取り、コップに注ぎ一気飲み。

 そのあとソファにどかっと座って、母さんに言ってやった。


「デート?俺は西澤と一緒に買い物とゲーセンに行って少し街をぶらぶらしてきただけだ」

「マーくん、それを人はデートと呼ぶのよ。で、何か買ってきたの?」

「ブレスレットとボールペンを買ってきた」


 俺は買った紺色のブレスレットとブラックのボールペンを見せた。

 もちろんボールペンはペアのものだとは伝えずに。

 だって伝えたら面倒くさいことになりそうだからな。


「へぇー。変な形のボールペンねぇー。買ったのはこれとブレスレットだけ?」

「うん」

「お母さん!これ、ペアのボールペンだよ!」

「ちょっ、真鈴!?」


 真鈴は瞬時にスマホでネット検索しボールペンの存在が何たるかを調べ上げてしまった。ネット検索恐ろしい……。特定のプロかよ……。


「へぇー。ペアのボールペンねぇー。へぇー」

「か、母さん?」


 母さんは「へぇー」しか言わなくなった。

 だが「へぇー」には何か深い意味がある気がしてならない。母さん怖い。とても目を合わせられない。


「それでお兄ちゃん、プリクラは?もちろんゲーセンに行ったんだからあるよね?」


 プリクラの件は隠そうとしてもどうせバレる。俺は真鈴にしぶしぶ英雄のポーズをしたプリクラを見せた。


「ふむふむ。ははあ……。なるほどねえ……。ふむふむ……」


 真鈴はプリクラを見ると「ふむふむ……」などと言ったきり無言になり、何か考え込んでしまった。


 いや、このプリクラで考え込むって何?

 このプリクラから何を得ようとしてるの?

 もしかして俺がアーサー王のマネしたのも特定しちゃったの?


 すると「へぇー」のあとずっと口を閉ざしていた母さんがぽつりと呟いた。


「これは完全にデキてるわねえ」

「うん、間違いないね。これはデキてる」

「母さん?真鈴?」

「しかもお兄ちゃんの相手の人、ものすごく美人だよね。まあちょっと派手でもあるけど」

「さっ、お母さん今すぐ赤飯を用意しなきゃ」

「母さん!とりあえず赤飯はいらないから!」

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