俺たちのプリクラ
昼ごはんのハンバーガーを食べ終えた俺たちは、再び様々なアクセサリー店を巡っていた。
西澤は少し俺のことを気にしていたようで、男性向けのアクセサリー店も入って俺にネックレスやブレスレットなどが似合うかどうか見てくれたりした。
そして西澤が選んでくれたブレスレットの中に、紺色でシンプルなデザインのブレスレットがあったので俺はそれを一つ購入した。
そうして何十店舗目かの店に差し掛かったところだった。
「ねえ!この店来て!」
「ん?」
「ほら!ここ!ペアのネックレスとかブレスレットとか、色々あるよ!」
そこはペアでアイテムを揃えているペア専門店だった。
西澤の言うとおり、ネックレスやブレスレット、指輪などがペア用、つまりカップル用で並んでいた。
「このペアのブレスレット、すっごくいいよ!ねえ、一緒に付けよ?」
西澤は茶色とピンクの色をしたブレスレットを俺に見せてきた。
確かに男性用の茶色はオシャレではある。付けてたらカッコ良さが5倍くらい増しそうだ。女性用のピンクも可愛げがあって、仮に西澤が付けたとしたらさらにビッチに拍車がかかるだろう。
だが、このブレスレットはカップル用だ。
俺たちはまだ少なくともカップルではない。
それに、このブレスレットを付けた場合のリスクがデカい。
「西澤、もしそれを一緒に買って腕に付けてるのがクラスでバレてみろ。冷やかされるのがオチだ。申し訳ないが俺は学校では静かにゆったりと勉強ができる生活を送りたいんだ。その、勉強も好きだから」
「そっか、そうだよね……。落ち着いて勉強できなくなるかもしれないし、あと今のヒミツのカンケーがバレちゃうかもしれないもんね……」
声を落として西澤はまたしょんぼりとした。
と思ったが、そのあと再び活気ある声を俺にかけてきた。
「ねえこっち来て!ペアボールペンだって!珍しい〜!」
それは、男性用はブラック、女性用はシルバーという色違いのボールペンだった。ボールペンの形も通常の文房具屋には売ってないような、不思議な流線型をしていて魅力あるボールペンだった。
「へー、こんなのがあるんだな」
「ねえ、これだったらただのボールペンだしクラスのみんなにもバレないだろうしイイでしょ?ね?一緒にペアで買おうよ〜」
ここぞというところで西澤は甘えた声を出し、俺の腕を握ってきた。
もうこれ以上は断れない。
俺の心はそう言っていた。
「しゃーない。買うか」
「ほんと?ほんとにほんと?」
「本当に本当だ。これなら勉強にも使えて実用性もあるしな。あとクラスの男子たちにバレることもまあないだろうし」
「やったっ!あ〜嬉しい〜!」
西澤は両手をぎゅっと握って、人目もはばからずあからさまに喜びを表現している。
そんなに俺と一緒のモノを買うのが嬉しかったのか。そんなにも……。
「来週からガッコーでさっそく使おうねっ」
「ああ、そうだな」
「あー登校するのが楽しみ〜!」
そして俺たちはペアボールペンを購入した。
◆
いつの間にか夕方近くになっていた。
俺たちはギャルの巣窟から脱出し、街をぶらついていた。
街には様々な人がいた。
外国人、家族連れ、旅行者らしき人、友達同士に見える人、そしてカップルだと思われる男女。
今の俺たちは、周りからどのように見られているのだろうか。ちゃんと友達同士に見られているのだろうか。それとも、ソレとは別の関係に見られてしまっているのだろうか。
街の喧騒と眩いネオンの中を二人並んで歩いて、街をぶらつく。
今、西澤は俺のことをどう思っているのか。
そんなことを考えていたところ、突然西澤は立ち止まった。
「ねえ、こっち来て」
「ちょっ、おい!」
西澤のやわらかな手が俺の手を掴んで、どこかへ引っ張っていく。
そのまま連れられていった先は、ゲーセンだった。
「なんだ?一緒にゲームでもしたいのか?それとも何かクレーンゲームで人形でも取りたいのか?」
「ううん。トりたいのは人形じゃない。人間」
「は?人間?」
「そう、キミとあたしの、プリクラ。プリクラ撮りたいの。だからこっち来て」
プリクラ!
ここにきてそのイベントか!
俺は母さんの予言のような断言を思い出してしまった。
確か『明日はあれよあれよという間にプリクラを撮ることになるわ。間違いない』だったか。
それにしても、なぜ人はプリクラを撮りたがる?
撮ったものを人に見せて自慢するするために撮るのか?
それとも一緒に過ごした楽しい時間を楽しく残したいから撮るのか?
プリクラを撮りたくなる真意、謎だ。
などと考えている間に俺は西澤とプリクラ機の中にあれよあれよと入ってしまっていた。
『モードはどれにしますか?』と、女性の声の機械音が俺たちに尋ねてくる。
モードは、『ノーマル、ヨガ、カップル』の3モードがあった。
「さて、どれにしよっか」
「いや、ここはノーマルだろ」
「えー、それじゃフツー過ぎるよ〜。ね?カップルモードにしよ?」
だよなあ。西澤、恋愛脳だしなあ。それにこれまでの言動からして、そう言われる気はしてましたよ。
でもここでカップルモードを選んだら、それは、その、つまり、もうカップルってことじゃんか。
「俺たち、まだカップルじゃないぞ」
「えーいいじゃん!一回だけ!ね?お願いっ!あたしとカップルになって?」
あたしとカップルになって?
破壊力抜群すぎて頭がクラクラしそうだ。
『あと10秒で選んでね』
てか機械音が無駄に急かしてくる。
あと10秒しか考える余地がないじゃないか。
「か、カップルじゃないのにカップルモードを選ぶのは……いかがなものかと俺は思うわけでして」
「そんなのノリでどうにかなるって〜」
「ノリって言ったってなあ……」
「ねっ、お願いだから〜」
『5・4・3・2……』
ちょっ、機械音!
待たんかい!
「ああもう時間がない!俺が押す!」
そして俺はボタンを咄嗟に押した。
『ヨガモードに決定したよ』
あ、ヨガモード……。
「もう〜!ヨガモードとかいうワケわかんないヤツになっちゃったじゃない〜!」
「し、しょうがないだろ!時間なかったんだからさ!ほら、それより始まるぞ!」
『はじめに、画面の見本を参考にして、立木のポーズをやってね』
「立木のポーズ?こんな感じか?」
「違うでしょ?こうだよ!足を斜めにこう!」
俺たちは言い合いながら立木のポーズをやった。
『次に、画面の見本を参考にして、半魚王のポーズをやってね』
「半魚王のポーズってなんなんだよ!てか半魚王って誰だよ!」
「知らないよ!もう、ほんとなにこれ〜!」
もう俺たちは半ばヤケクソで半魚王のポーズをやった。
『最後に、画面の見本を参考にして、英雄のポーズをやってね』
「ああもう!俺は覚悟を決めたぞ!俺は英雄になりきる!アーサー王よ降りてこい!」
「あ、あたしも!英雄になる!えいっ!」
そして最後は会心の英雄のポーズをやり切った。
こうして俺たちのヨガモードが終わった。
それから落書きモードに移り、ペンで落書きしていき、プリクラが完成した。
一緒にできあがったプリクラを見てみた。
そこには不安定なポーズをした立木の姿、変なポーズになってる半魚王の姿、そしてクソ真面目な顔をした怪しいポーズの英雄の姿があった。
「ふふふっ、くくっ、あっははははっ!なんだこれ!」
「ぷっ、くくく!ひいっ!ひいっ!いやこれマジヤバ!チョーウケる〜!あっはっはははは!」
俺たちはしばらくの間、笑いが止まらなかった。俺がこんなにも笑ったのは生まれて初めてだった。