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心のままに

「で、買い物って何を買うんだ?」

「んーとそうだねー。今日は服とかじゃなくて、アクセとかかなー」

「アクセねえ」


 俺には縁のないアイテムなのでなんとも言えん。管轄外だ。


 てかアクセだったら俺よりもイケてるビッチ友達たちと買い物に行けばよかったじゃん?

 てかそもそものお誘いをイケてるビッチ友達たちにすればよかったじゃん?


 と、口からつい出そうになったが、なんかそれは言っちゃいけない気がしてぐっと飲み込んだ。


 しかしアクセなんて俺、全然詳しくないぞ?

 どんなブレスレットがいいとか、どんなネックレスが流行りだとか、何も知らないぞ?


 他にも指輪?首輪?

 いや首輪って犬かよ!


 などとそんなくだらないことを考えながら一人ツッコミしているうちに、いつの間にか俺は美味谷(びみや)1109とかいうギャルしかいないギャルの巣窟(そうくつ)へ連れてかれてしまった。


 周囲を見渡せば全員ギャル。まるで四面楚歌だ。中国四千年の歴史ここにありってか。


「ねぇ〜!このネックレス可愛くない〜?」


 途中で立ち寄ったアクセサリー店で、西澤は俺にネックレスを見せてきた。

 チェーンが細めで中心に小さなハートがあしらってある、ピンクゴールドのネックレスだった。


 まあ可愛いかどうかと聞かれても、俺にはわからんというのが正直な答えだ。

 だから俺は西澤に似合ってるかどうかで考えてみることにした。


 うーん。まあ似合いはするかな。制服のボタンを空けた胸元に付けてたらオシャレ度も増すだろうな。ただその分ビッチ度も格段に跳ね上がりだけど。


「ああ、似合うんじゃないか?」

「ほんと?似合いそう?じゃあ買っちゃおうかなあ〜!」


 西澤は目をキラッキラさせて顔も一際明るくなった。まるでピンクゴールドのネックレスが西澤に乗り移ってるみたいだ。可愛い。



 って、俺は今一体何を考えていた?


 やっぱり俺はどこか西澤のことを強く意識してしまっている。

 それもこれも、母さんが余計なことを言ったばっかりに……。


 俺は、高校生のうちに恋愛はまだ早いと思っている。思っているんだ。





 そうして俺の助言も聞いたからか、ネックレスを買った西澤は、その後もウキウキと次々に店を巡っていた。

 そんな西澤の後ろを俺は荷物持ちになりながらついていく。


 そしてこのアクセは買うべきかどうかと何度も西澤から相談され、俺はアクセのことなんか知らないながらも西澤に似合うかどうかで判断して答えていった。


 そうこうしているうちに昼もだいぶ過ぎていた。俺たちはいったん休憩するために近くの『マケドナレド』とかいうファストフード店へと入った。


 ハンバーガーとポテトとドリンクをそれぞれ注文し、二人並んで椅子に座った。


「いやはや、歩きましたな〜!」

「そうだな、誰かさんが目に入る店ひとつひとつをくまなく巡るばっかりにな」

「むー。そんな言い方しないでよ〜。だってあたし楽しかったんだよ?キミと一緒に店を巡るのがさ」


 西澤はニコッと笑って俺を見てきた。


 やめてくれ、そんな輝いた瞳で見ないでくれ。

 咄嗟に俺は目を逸らしてしまう。


「俺はただ西澤の後ろをついていってただけたぞ?それなのに西澤は楽しかったのかよ?」

「うんっ。だって、あたしが色んなアクセを見て買おうか悩んでたとき、真剣にあたしに似合うかどうか考えてくれてたっしょ?だからそれだけでマジ嬉しかったし……楽しかった」

「そうか、よかったな」

「ねえ、キミはもしかして……楽しくなかった?」


 西澤らしからぬ不安そうな声だった。

 顔を見ると声と同じく眉をひそめて不安げな表情をしていた。


 キミはもしかして楽しくなかった?

 と来たか。

 どうなんだろうか。


 俺は楽しいと感じたのか?


 俺の心に尋ねてみる。

 すると浮かんできたのは西澤の笑顔だった。

 西澤が笑顔で楽しんでいる姿を見ることが、俺も嬉しかった。西澤の笑顔が俺の楽しみになっていたのだと思った。


 だが、西澤が笑顔で楽しそうだったから俺もその様子を見てて楽しかった、なんて言うってことは、その、なんだ。


 まるで西澤のことが……。


 いやいや、ダメだダメだ。

 そんなこと考えるな。


 俺は高校生のうちに恋愛はしない。しないんだ。



「お、俺は、普通だ」

「フツー?」

「可もなく不可もなく。まあ少しは楽しくもあったけど、歩いてばっかりで疲れたからマイナスなとこもあった。だから普通だ」

「フツー……。そう……そうだよね、あたしばっかり一人はしゃいで楽しんで浮かれちゃってたよね。なんかごめんね」


 俺の返答を聞いて西澤はしゅんとしてしまった。


 そして俺はすぐに後悔した。今の返答はするべきではなかったと。


 やっぱり西澤には悲しい顔は似合わない。西澤には明るく輝く太陽のような笑顔が一番似合う。



 だいたい今さっきの俺は何なんだ?

 少なくとも過去の俺は自分自身に正直に言動をしてきたはずだ。


 勉強が好きな俺は、勉強中に他人から声をかけられても「今勉強してるから無理」と冷たくあしらって、俺の心のままに生きてきたじゃないか。


 だが今さっきの俺は、心を偽ったままに発言をしていた。


 俺は、もっと心のままに、素直になるべきじゃないのか?



「西澤、その、あれだ。さっきはつい普通と言ったが、アクセを買って嬉しがっている西澤は、なんかよかったぞ。俺も見てて嬉しくなったというか、なんというか……」

「あ、デレた」

「で、デレてなんかねえ!」

「へー、まさかキミってツンデレだったんだ」

「ツンデレじゃねえって!」

「はいはい、まあそーいうことにしとくよ。ふふっ、でもなんかキミのことをひとつ知れて、あたし嬉しくなっちゃった」



 はあ……。

 心のままに言ったらコレだ。

 見事にツンデレ認定されてしまった。

 でもそのかわりに西澤はまた笑顔になってくれた。


 きっと、これでよかったんだよな。

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