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買い物という名のデート?

 林間学校一週間前の土曜日の夜のことだった。

 俺がいつものように自室で勉強をしていると、スマホがピロンと鳴った。



 スマホを開いて見てたところ、お馴染みの西澤からのメッセージだった。



『やっほ〜!突然だけどさー、明日あたしバイト休みになったから一緒に買い物行こ〜』



 ものすごくフランクな買い物のお誘いだった。



 友達との買い物。まだ俺がやったことのない体験だ。初体験してみたい気は少なからずある。

 だが申し訳ないが俺にはすでに予定があるんだ。中国四千年の歴史を学ぶという壮大な勉強の予定が……!



 そして俺はメッセージを送った。



『ごめん。俺、明日も勉強する予定あるから無理』

『勉強なんていつでもできるじゃーん!それにあたしと買い物行けるのは明日しかないかもしれないんだよー?次はいつ土日にバイト休みになるかはわかんないんだよー?あとあたしがテストで勝ったらキョーミ持つって約束もう忘れちゃったのー?』


 確かに土日にバイトが休みのときでないと西澤とは遊びに出かけたりできないよな。

 それに俺には西澤に興味を持つという約束があるんだった。男として、友達として約束は守らねばならんよな。



『わかった。買い物に行く。で、どこで待ち合わせすればいいんだ?』

美味谷(びみや)駅のポチ公前に来て!時間は午前10時!』

『了解した』

『ありがとー!じゃあ楽しみにしてるねっ!』



 メッセージはこれで終わった。



「美味谷駅のポチ公前、午前10時。楽しみにしてるね、か」



 メッセージの内容を声に出してみる。



 俺と買い物に行くことを楽しみにしてくれているのか。なんか嬉しいな。頬が緩んでしまいそうだ。



 よし、買い物に行くとなればさっそく明日の準備をしないとな。


 服、靴、バッグ、腕時計、水、ハンカチ、ティッシュ、絆創膏、他には……金か。母さんから金をもらわないといけないな。



 我が家はお小遣い制ではないので、遊びに行ったりするときは母さんから金をその都度もらう必要がある。

 それで真鈴が母さんに金をもらっている姿は何度か見たことがある。


 しかし孤高のボッチだった俺は家族以外の人と出かけることなんてあるはずがなかった。だからこれまで一度も母さんから金をもらったことがない。


 母さんに友達と買い物に行くことを言うと、根掘り葉掘り聞かれそうでなんか嫌だが、しょうがない。金をもらいにに行くとしよう。


「母さん、ちょっといい?」


 リビングで真鈴と一緒にソファに座ってテレビドラマを観ていた母さんに声をかけた。


「ん?マサくんなあに?」

「金をもらいたいんだけど」

「お金?」

「そう、金」

「どうしてお金が必要なの?」

「と、友達と明日一緒に買い物に行くから」

「あらあら、まあまあ!」


 俺の話を聞いた途端、母さんは目をキラキラさせてきた。そしてなぜか真鈴も興味津々な様子で俺を見てきた。


 なあ、そんなに俺をまじまじと見ないでくれよ。頼むからテレビドラマに夢中になっててくれよ。



「お兄ちゃん、せいぜいヘマしたりやらかさないように頑張ってね!」


 なぜか真鈴からガッツポーズ付きの冷やかしっぽい応援をされた。


 ただ友達と買い物に行くだけなのに何を頑張るってんだ?



「真鈴、応援するのはマサくんのほうじゃなくて、西澤さんのほうよ」

「あっ、そうだったね。西澤さん頑張れ……!」



 おい、母さんは真鈴に何を吹き込んだんだ?



「はいマサくん、お金よ。とりあえず今回まとめて3万渡すわ。今後の分も含めてのお金だから、無駄遣いせずにね。あと初めてのデートなんだから、西澤さんをちゃんと楽しませるのよ」

「ありがとう。無駄遣いせずにちゃんと西澤とデートを……って、デ、デ、デ、デートゥ!?」


 いかん、なんか変な声が出てしまった。


 てか母さん何言ってんの?

 ちょっと予想だにしない急なワードだったので俺の脳の処理が追いつかない。



「そうよ。だってお友達って西澤さんのことでしょ?西澤さんは女の子なのよね?だからデートじゃない」



 デート、デート、デート……。

 ズシンとデートという言葉が心にのしかかってきた。



 いや、デートなのか?

 俺たち、だって友達になったばっかりだぞ?

 友達同士はデートじゃないだろ?

 付き合ってからがデートだろ?



「母さん、俺と西澤はただの友達同士だ。だからデートじゃない」

「うふふ。マサくんに母さんから一ついいアドバイスをあげるわ」

「アドバイス?」

「そう、アドバイス。それはね……。『男と女の間に友情なんかない』ってこと。心に深く刻みつけなさい」

「は、はい」



 うわー。アドバイスを伝えたときの母さんの眼光がものすごく鋭かった。正直怖かった。いやもう説得力半端ないって。



 だって母さん、それが理由で七年前に離婚せざるを得なかったんだもんな。

 元父さんと母さんの女友達がまさかの恋愛関係になって、やがて関係が判明して母さんは離婚して……。


 まあなんか、「養育費はガッポガッポもらってるからウハウハよー」とか母さん前に言ってたし、今となっては離婚して良かったのかもしんないけどさ。でも当時は落ち込んでたからな。


 で、そんな元父さんと母さんの状況を俺は幼いながらに知ってたからこそ、恋愛は大人になっても上手くいくものじゃないんだなあと思ってたわけで……。

 だから高校生のうちに恋愛は早いという考えに至ったわけで……。


 ちなみに我が家のルール『嘘はつかない』ができた原因は、元父さんが嘘を付いて母さんの女友達と会っていたことに由来する。



「お兄ちゃん、西澤さんって人とプリクラ撮ってきてよ!絶対に!私がお兄ちゃんの相手に相応(ふさわ)しい人かどうか判断するから!」



 真鈴が意気込んで俺に頼んできた。

 たぶん真鈴がプリクラ見たらビックリ仰天するだろうなあ。だって西澤、至高のビッチだもの。



「真鈴、俺と西澤は明日買い物に行くの。プリクラ撮るような遊びに行くんじゃないの」

「マサくん、母さんが予言してあげる。明日はあれよあれよという間にプリクラを撮ることになるわ。間違いない。ということで母さんはプリクラを撮るに50万ピリカ」

「じゃあ私は60万ピリカ」

「む、母さんは70万ピリカに上げます」


 なんか母さんと真鈴で競りみたいなのが始まった。

 ピリカってのが何なのかは知らんが、まあ漫画とかドラマとかそういうので出てくるワードなんだろう。


 てか、俺が西澤とプリクラ撮ることは間違いないことなんですね……。


 なんか予言を断言のように言われるとそうなる未来しか考えられなくなってきた。

 俺が西澤となんやかんやでプリクラを撮る未来しか想像できん。



 ということで俺は明日、買い物という名のデートに行くことになるのか……?


 なんか急に緊張してきた。

 少なくとも俺は高校生のうちに恋愛は早いと思っている。思っているんだが……。


 西澤のほうはどう思っているんだろうか……。


 まあ、至高のビッチだからほぼ間違いなく恋愛脳だろうな。うん。

 それに前に告白まがいの宣戦布告も言ってきたし。



 とりあえず服だけはちゃんとしたのを着ていくべきか。

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