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班決めはハーレムのままに

 俺と西澤が友達になった翌日。

 朝、教室に入って机に座ったところでスマホがピロンと鳴った。


 スマホが鳴るということは母さんか真鈴か西澤か、その3分の1の誰かがメッセージを送ってきたということだが、教室に着いた途端のメッセージだ。その情報だけで送ってきたのは誰か丸わかりだ。


『おはよっ』


 スマホを開いて見てみたところ、やはり西澤だった。


『ああ、おはよう』


 俺もすぐに返信する。


 クラスの男子は俺が隠れて西澤とこんなメッセージのやりとりをしているなんて知らない。


 なんか本当に西澤とイケない関係になったみたいだ。西澤はただの友達だってのに。


『昨日は夜遅くまで付き合わせちゃってゴメンね』

『ああ、メッセージのことか、あれなら気にすんな。俺は元々あの時間くらいまで起きて勉強するつもりだったからさ』

『そう、ならよかった。でも夜更かしばっかりしてたらカラダにドクだよ。勉強もほどほどにね』

『心配してくれてありがとな』

『へへっ、じゃあ今日も授業ガンバろーね!』


 最後に可愛いウサギが「ガンバロー」と言ってるスタンプが送られてきた。



 ふと西澤の机のほうを見てみると、ちょうど目が合った。すると西澤はニカッと笑い、そしてイケてるビッチ友達たちの元へと去っていった。



 なんだ今の。すごく胸がドキッとした。

 俺、やっぱり心臓の病気なのかな?




 ◆




 ゴリラみたいな担任の剛力先生から重大発表があった。

 なんと再来週の木曜と金曜で1泊2日の林間学校のイベントがあるらしい。


 林間学校といえば、あれだ。どっかの山の中で何かしらの活動をするやつだ。クラス内の仲良いやつらで班を作って料理とか一緒に作ったりするやつだ。あと肝試しとかもするかもしれん。山も登るかもしれん。


 そういえば林間学校は確か俳句の夏の季語だったはずだ。ということは林間学校の季語を使って俳句を作るという可能性だってある。


 俳句は小学生の頃に少しかじった程度しか知らないから、これから詳しくイロハを学ぶべきだろうか。となれば勉強せねばいかんな。とりあえずは松尾芭蕉を調べてみるか。夏草や……。



「ということでまずは班決めだー。みんな、5人か6人のグループになるんだぞー」


 松尾芭蕉をまともに調べる間もなく剛力先生の班決め開始の合図がクラス内に響き渡った。その合図とともにクラス内がざわざわしだした。


 ところで、こういうイベントは通常のボッチならあたふたする事案なのだろう。

『俺はどこの班にも入れないボッチになるヤバい』とかなんとか思うのだろう。


 だが俺は孤高のボッチ。孤高のボッチはそんな些細なことは何も気にしない。

 俺は自ら最後の余り物になる。余り物には福があるというしな。俺は最後まで選ばれなかった余り物の福になるんだ。それが俺の孤高のボッチ道だ。


「坂本くん、あたしたちと一緒の班になろーよ」


 俺は余り物の福になるとか考えている間に速攻で西澤から班に誘われた。こっそりと耳打ちで。


 そうだった。俺はもう孤高のボッチではなく、元孤高のボッチになってしまったんだった。西澤という友達ができたせいで。……いや、友達ができたおかげで。


 ちなみにこういった班決めのような授業中のイベントではスマホを扱えないため、メッセージじゃなく直接会話せざるを得ない状況だ。なので教室で西澤と話すのは致し方ない。


 つまり西澤と話す俺は必然的にクラスの男子たちからジトっとした目で見られることになる。これはもう覚悟するしかない。


 でも、そもそも西澤は俺と同じ班でもいいのか?


 俺もとりあえず耳打ちでこそこそ話すことにしよう。


「西澤、俺なんかが同じ班でいいのか?」

「もっちろん!だってあたしたちもう友達だよ?あたしの友達もいいって言ってるし」


 なるほど、イケてるビッチ友達たちも許可済だったってわけね。


 こうして俺は余り物の福になることはできず、西澤の班に組み込まれた。


 西澤の班には俺の他にイケてるビッチ友達たちが3人いらっしゃった。

 名前は確か、茶谷、白川、金山、だったかな。


 茶谷さんは明るくも暗くもない普通の茶髪。

 白川さんは基本黒髪だが、前髪のちょい横に縦の白色の髪が混ざっているという不思議な髪。

 金山さんは茶髪と金髪が混ざったような色の髪。


 3人は髪で見分けがつきやすいから、他人には特に興味がない俺としてはありがたい。


 そしてもちろんイケてるビッチ友達の皆さんはメイクもバッチリとキメている。制服もオシャレに着崩している。校則違反なんのそのって感じだ。


 とりあえずこれでメンバーは5人。俺と西澤とイケてるビッチ友達たち3人。もうすでに5人揃ってしまった。だがまあ、個人的には男子が1人でも欲しいところだ。

 ということで俺は男2女4の6人班を希望したい。


「なあ!俺を班に入れてくれよ!」


 そのとき、ちょうど声をかけてきた男子が1人。


 こいつは確か……富田だったな。

 いつだったか前に俺にグイグイ西澤のことを聞いてきたやつだ。ワックスをつけているのか髪がツンツンしている。ズバリ言って面倒くさそうなタイプの男子だ。


「西澤。富田が班に入りたいらしいんだが、いいか?」


 とりあえず班のリーダー西澤に、富田を加えるかどうか聞いてみた。


 すると西澤は富田を椅子に座らせ、刑事ばりの質問攻めを始めた。


「キミ名前は?」

「富田です」

「普段は何やってんの?」

「あの、高校生やってます」

「それは知ってる。部活は?」

「一応帰宅部です」

「期末テストの順位は?」

「187位です」

「キミの中でこれは一番だ!と誇れることは?」

「あ、あなたのことを一番、あ、あ、あ、愛し」

「別の班へどうぞ」


 富田よ、なんというかそれはダメだろ……。

 そして富田はとぼとぼとどこかへ消えていった。南無。


「俺たちと一緒の班になろーぜ」

「ごめーん、私たちもう班決まっちゃったのー」

「そ、そんなあ……」

「本当にごめんねー」


 一方、よその班でもさっきの富田のような感じで、誰が誰と一緒の班になるかでそれぞれ交渉し合い、悲しんだり喜んだりしていた。


 そうしていつの間にか班は決まり、あとはいわゆるボッチだけが残っていた。本来は俺がなるはずだったラストボッチの枠だ。ああ羨ましい。孤高のボッチに戻りたい……。


 そのラストボッチは女子だった。

 確か名前は、渋田さんだったか。

 見た目はまあなんというか、暗めな感じで前髪を目の位置まで垂らしているメガネちゃんだ。

 いかにも大人しめな女子で、本とかアニメとか好きそうなイメージだ。


 たぶんボッチになってしまったのは、自ら他の人に声をかけられなかったからとかそんな感じだろう。

 俺のように自らボッチになりたくてなってるって感じじゃない。


「おーい、まだ6人班になってないとこに渋田を入れてやってくれないかー」


 剛力先生が声をかけるも、他の5人班はアクションを起こそうとしない。


「うーん。渋田さん暗いから班に入ったら話弾まなそうなんだよねー」

「俺たち男だけの班に入れるのもなあ……なんか申し訳ないしなあ……」

「私たちの班はこれで確定だし。もぅマヂ無理だし」


 などといった声が先生には聞こえないくらいの声のトーンでひっそりと聞こえてくる。


 ふん、どうやら他の班はわかっていないようだ。余り物には福があることを。きっとあの渋田さんは何か能力を持ってる系の女子だ。恐らく。


 それにほら、渋田さんも剛力先生も班が決まらないから困ってきているじゃないか。ああもう俺は見てられんぞ。


「西澤、渋田さんを俺らの班に加えようぜ」


 俺は西澤に提案してみた。


「渋田さん?まああたしはいいけど、みんなはどう?」


 それから西澤はイケてるビッチ友達たちにすぐに相談した。


 すると、「モチOKっしょ!」と茶谷さんが言えば、「人数は少ないより多い方がパーリーできるかんね!イイよ!」と白川さんが言い、そして「イイに決まってんじゃ〜ん!」と最後に金山さん。


 即決だった。

 もしかしてビッチって懐深いのか?

 俺の中のビッチの概念がちょっとだけ変わりそうだ。


 ということで、俺たちの班に渋田さんが加わり6人班となった。つまり俺は完全ハーレム状態となった……わけで……。



「坂本め……いつの間に西澤さんの班に入っていた……」

「おのれ……闇討ちするぞ……」

「滅!坂本!滅!」


 なんかクラスの男子たちに林間学校で殺されてしまうんじゃないかという気がしないでもないが、もう班は決定した。決まったことは決まったことだ。


 あとは俺が林間学校期間中に耐え忍ぶだけだ。

 男子たちの殺気と、あと西澤のイケてるビッチ友達たちの圧倒的な威圧から。


 そしてどうか、俺が被害者の林間学校殺人事件だけは起きませんように。

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