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ボッチとビッチの昼休み

 高校生になって最初の中間テストで学年総合順位1位の成績を取ってからだった。急にこいつが俺に関わってくるようになったのは。


 昼休みの図書室。

 生徒の利用も少なく、静かに勉強ができる格好の空間だった。心地よい時間が流れていた。

 つい三日ほど前までは。


「ねーねー聞いてよ〜。昨日の深夜のテレビがマジ面白くてさ〜」


 至近距離で話しかけてきてるこいつは、俺と同じクラスの西澤(にしざわ)彩香(あやか)

 俺の勉強の邪魔ばかりをしてくる忌々しいビッチだ。


「うるせえぞビッチ。あっちに行ってろこのビッチが」

「あー!二回もビッチって言ったー!ボッチのくせに〜!このっ!」

「おうふっ」


 脇腹を小突いてきた。おかげで変な声が出ちまった。

 ていうか、わざわざ椅子から立ち上がり俺にちょっかいを出すな。そんなことしたら同じテーブルにいる他の人たちの迷惑になるだろーが。


「そこの仲良しお二人さん、ここは図書室よ。静かにしなさい」


 ほら、言わんこっちゃない。近くにいた上級生のおねーさんに怒られてしまった。


「おい、ビッチのせいで注意されたうえに仲が良いと思われちまったじゃねーか」

「注意されたのはキミがあたしの話を聞いてくれないからでしょ。それとさっきからビッチビッチうるさいのよ、このボッチ」


 周りの人たちの迷惑にならないように小声で罵りあう。


 俺たちの相性は最悪だ。磁石でいうところの同極。反発せざるを得ない関係だ。

 そんな俺たちが仲が良いはずがないし、これから仲が良くなるはずもない。


 なのに、どうしてだ。

 通常だったら関わるはずがない俺たちが、なぜこうやって関わり合うようになってしまったんだ。


「ただ遊びに来ただけなら帰ってくれ」

「ちっ、しゃーない。そろそろボッチにガン無視されそーだし、真面目にいきますかね!ってことで数学教えて!」


 再び椅子に座り、俺に密着してきた。

 鼻先をほのかに漂う甘ったるい香り。

 明るめの茶髪ロングの髪がちらりと視線に飛び込む。着崩した制服は目のやり場に困る。


「貴重な昼休みの時間だ。集中してやるぞ」

「うんっ」


 ビッチこと西澤(にしざわ)彩香(あやか)は、いわゆるギャルだ。

 噂によると、大人の男と夜遅くまで遊びまくってるとか、経験人数が既に2桁行っているとか、子どもがいるとか、色々と言われている。


 そんな西澤に陰ながら付いているあだ名は、至高のビッチ。


 子どもがいるかどうかはさておき、その見た目の派手さと可愛さから、いくつかの噂は本当なんじゃないかと思わせるほどだ。


 対して俺はそんな浮ついた噂は一切立たない完全無欠の優良生。

 なぜなら俺はボッチ。しかも幼稚園年少組の頃から男友達すらいない孤高のボッチだ。


 これは母さんから聞いた話だが、俺は幼稚園年少組の頃の時点で既に勉強にのめり込んでいたらしい。常に児童用の教科書とペンとノートを持ち歩き、いつでもどこでもノートに覚えたことを書き込む。そんな幼稚園生だったとか。


 周りの子たちには目もくれず、日々教科書とノートとにらめっこ。

 話しかけられたとしても「今勉強してるから話しかけないで」と冷たく突き返す。

 そしてそのまま成長した結果が現在の俺だ。


 そう、俺は勉強を楽しむことに夢中で、周りの人間には興味が湧かないのだ。

 おかげで勉強ばかりしているため学校のテストの成績は毎回1位。


 そんな俺の孤高のボッチ道に、勉強を教わるという口実のもと、三日前から至高のビッチが迷い込んでいる。


「そこは昨日も教えただろ?解の公式を使うんだ」

「解の公式……。『にーえー分のマイナスびープラスマイナスルートびーの二乗マイナスよんえーしー』ってやつだったよね」

「正解だ」

「さっすがあたし!そしてさすが学年総合順位1位の坂本くん!教え方が上手い!」

「褒めてくれてどうも。だが一つ言っとくとだな、これは中学で習う範囲だ」


 西澤は理系科目がとことん弱い。恐らく頭の中で整理ができていないんだろう。


「あたし文系は得意なのになー。この前の中間テストで国語は学年順位8位だったし。でもどーして数学はできないのかなー」


 数学ができない自分の不甲斐なさに嫌気が差したのか、ぶぅーっと頬を膨らませて不貞腐(ふてくさ)れてしまった。西澤はすぐ集中が切れる。


 これは俺の見解だが、西澤は基本的には頭がいいと評価している。

 なぜなら頭が良くなきゃ国語で学年順位8位なんて成績を取れるはずがないからだ。

 だからやり方さえきっちりと覚えれば、数学も理解できて得点が伸びると俺は睨んでいる。


 そしてあれだ。数学がある程度理解できたら俺の孤高のボッチ道から立ち去ってくれ。さっさと旅立ってくれ。

 俺は孤高のボッチ道を極めたいんだ。独りで静かにゆったりと勉強を楽しみたいんだ。


 というか、だいたい何で毎回冷たくあしらい続けてるのに懲りずにしつこく話しかけてくるんだ?

 ビッチは心が折れない性質なのか?


「ふっ」

「うわっ!」


 な、何しやがんだこのビッチは!

 突然耳に息を吹きかけてきやがった!


「お前なあ!」

「きゃはははっ!いい反応〜!あ〜おもしろ〜い!」

「このビッチが……!」

「あれ?もしかして今ので感じちゃったの?勉強だけが取り柄のボッチさん?」


 小悪魔のようなイタズラな表情を見せる至高のビッチ。やはり最悪だ。

 孤高のボッチと至高のビッチが関わりあって上手くいくはずがない。

 一刻も早くこの昼休みが過ぎてほしい。そう思わざるを得なかった。

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