炎夏が灯すたまゆらの怪し火
街角で夏の日の残り火がつぶやきだす
火の雨のような旱天の下で
油蝉の合唱にそっと掠れ声を重ね合わせて
灼け果てた道を影法師がやって来る
無言で此岸への旅路を歩み
地を覆いつくす蛍を迎え火にしながら
誰かの煤けたモノクロ写真が写し出す
命を弔う送り火を待つ子を
切り取られたフレームの外側は見えない
行李の古びた新聞紙が金切り声を上げる
埋み火のような疼きに耐え
借りを清算できる日を待ち焦がれつつ
なくした祖父母の忘れ形見が語りだす
惑いの海に浮かぶ漁り火へ
うろうろして誘われることのないようにと
言い訳を焚き付けに胸の火が吹き上がる
世間体も建前も爛れ落ちて
焼尽の炎夏の末に干からびた抜け殻を遺して