ぼっちの作物、あれはレモンとは言わない
タムさん視点です。
俺は行商人のドワーフ。
3年程前のあの日、俺はちょっと急いでいたんだ。
普段は迂回するこの森。
この森はめったに近付く者は居らず、迷いやすいらしい未知の森。
環境が全く解らない。
人が近付こうともせず、森の深くへ行くに連れて足元も悪い。時々何かが吠えるような鳴き声が聞こえ、気味も悪い。
噂では害獣がいる迷いの森とされ、危険区域にしていされている。
「だが、俺は行く!地図上では真っ直ぐ抜けられれば早く抜けられるはずだからな!」
そう自分に言い聞かせて森へと入っていった。
森の中は確かに薄暗くて鬱蒼としている。
道なんてないし、危ない獣達もいたから安全とは言い難い。
それでも木の上の大型の蛇や、毒々しい色の蜘蛛を気をつけて、足元の蔦や木の根を避けながら進めば、時々向かってくる害獣がいるくらいで、武器片手にであれば無事に進めた。
驚くべき事に数時間進むと森の様子がガラッと変わった。
相変わらず鬱蒼と生い茂っている天然の木々の屋根は変わらないが、怪しげな害獣や害虫は減り小型の動物達を見かけるようになる。足元と平らになってきた。
--そんな時だった。
『--いる。』
前方から何かが近付いてくる。
『黒い何かが--……………………人?』
驚いていると、目の前までやって来た黒髪の人が喋った。
「やあ!おじいさん何してるの?」
ゴンッ!!!
「--ッたぁ~~~~。」
伸びすぎた髪で顔が隠れた人--ミネだった。
「まだおじさんだッ!!!」
「あぁ、痛ッたぁー。初めましてで拳骨はどうかと思います。」
涙目でコッチを見て来た。
「ああ、悪かった。俺はタム--……。」
「あぁァァァァァ!!!!!!」
--シュタッ!
バサバサバサバサバサ!
「……………………は?」
俺が自己紹介していたのを途中でぶった切って、黒髪は俺の後ろへ走り抜けた。
呆けたまま目で追うと、後ろの茂みへ飛び込んだらしいと解った。
「--ッし!鳥肉!!!!」
「……。」
目が合うと、思い出したかのように言った。
「タムさんね!--ミネだよ、よろしく!」
後から聞くと狩りの途中だったらしい。
ちょっとイラッとはしたが、不思議と憎めない感じだった。
それからはミネの所へとちょっとずつ寄るようになった。
森も噂ほど対した事無かったしな。
だが、これは大きな勘違いなのである。
森は確かに危険なのだ。
タムさんが大丈夫だっただけで。
--あれから、約3年。
…………「レモンが一番だからね!元のレモンも好きだけど、レモンな野菜、レモンなお芋、レモンな新しい果物!何でもかんでもレモンって----いいよね♪」
なんか、楽しそうな声でレモンを語る黒髪の人、ミネ。
とりあえず目を合わせるとレモン話が続きそうなので目は反らしておく。
そもそもレモンベースとは言え、何だこれらの作物は?
美味いし買い手もいるから良いんだが。
だが、俺は思う。
だから言ってやった。
「当たり前だ、こんなレモン愛語られても困る。それによ----どこがレモンだよ?!」
「え?!?!」
ミネは凄い意外そうな顔で疑問符を飛ばしてる。
意外そうな理由が俺には解らんよ。
「--なあ、ミネ。それはレモンとは言わないぞ?」
俺はタムサルード。しかし、コイツにだけはタムさんと呼ばれている。