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プロローグ


 すべてを失い、青年はその世界に目的を失っていた。



 先日行なわれた、唯一の肉親であった祖父の一周忌が終わったからであろうか、いつもより心に空白が生まれて、自らの存在意義まで否定してしまいそうなそんな精神状態だった。


 彼には、幼少の頃から既に家族は無くそう呼べるのは祖父のみであった。

 

 普段は、そういう考えを持たないよう皮肉気にそして褪めたように世界を見ていが一周忌が終わってすぐだからだろうか、感情のコントロールが上手くできていなかった。


 街の明かりは、その日も変わらず周りを明るく照らしている。青年は、その喧騒の中を今夜の食材を求めるべく大型量販店へと向かっている、顔立ちを見るとやや女性的でありそれなりに整った顔立ちをしていたが、右側の額から右目の端まで、大きな刃物傷がありそれを台無しにしていた。

 

 しかし、青年はその傷のおかげで女性的に見られる事が無いためその傷を気に入っていた。


 その青年の名は、水無月 奏と言い17歳で高校2年生である。 

 

 奏は、高校には通っていたが同級生とは馴染めず浮いた存在で、奏自身も人付き合いは苦手で友人関係を築く気は無かった。

  

 憂鬱な考えを少しでも払おうと、首を振ってため息をつき交差点を曲がったところで不思議な違和感を感じた。

奏は、何事かと周囲を見回して驚いた。

「人が……居ない?いったい何が?」

 さっきまで、喧騒に包まれていた街は一瞬で凍結されてしまったかのように人の姿は無くまるで、ゴーストタウンのようであった。


 奏が、暫く呆然と立ち竦んでいると少し離れた場所から大きな破砕音が聞こえてきた。

何かに、惹かれるかのように音がした方に向かっていくと何か黒い大きな動物のような物と

煌びやかな装飾のされた長剣を持つ一人の女性が対峙していた。

その女性は、西洋人形のように整った顔と透き通るような金髪をしていて奏は目を離す事が出来なかった。

そして、その女性から発せられる大きな力を感じて助けると言う気は起こらずなぜか身を隠してしまった。

 

 奏が、身を隠して暫くするとその女性は洗練された動きで動物のような物の攻撃をダンスのような華麗なステップで右に左に避ける。避ける度に、腰まである美しい髪がたなびいて奏は目を奪われてしまう……。

 

 何度か攻撃をかわしていると、動物のような物に一瞬隙が出来る。女性が何か言葉を発すると手に持っていた長剣が輝きだし女性は対峙していた黒い動物のような物を袈裟切りにする。

当に、一刀両断されたその動物のような物は青白い炎に包まれ1つの宝石のようなものへと姿を変えていた。

「これで、終わり……」

純水で出来た氷の様な透き通った声でそうつぶやくと何か呪文のような物を唱え立ち去っていった。


 気づくと、いつもの街中に立っていて行き交う人たちは呆然とする奏を不思議そうに見ながら脇をすり抜けていく。


「何だったんだよ?今のは…?」


 奏は頭を振ると、不安定な精神が白昼夢でも見せたのかと思い当初の目的を果たしに人ごみの中に消えていった。



 奏は夢を見ていた。

 


 それは、家族が生きていて明るい日差しが注ぐ家の庭が舞台の一枚の絵画のようだと思った。しかし、その絵は何者かに焼かれてしまい……光あふれる日常は突如銃声に奪われてしまう。

 

 奏は、叫んでいた何度も何度も自らの大切な物を奪っていく物を憎むようにそして願わくば取り戻したいと……。しかし、その願いはむなしくすべての情景はガラスが砕けるかのように粉々に砕け散っていった。

  

 すべては、無になり奏は暗闇の中でうずくまっていた。

どれくらいの時間そうしていたのだろうか、何処からとも無く微かにだが声が聞こえてきた。


 そして、奏の目の前には小さな蛍のような光が生まれる。


 奏は、その光に手を伸ばし指先で触れると直接意識に映像が送られてきて其処には見たことも無い場所が広がっていた。

その場所は、自然が多く街を見ると石造りの家が多く西洋のような建物が並んでいた。その町の側には美しい水を湛えた湖がありその中央の島には純白の石で組み上げられた見るからに堅牢な造りの白く輝く城があり、その一帯が切り取ればそれだけで名画になりうる美しさだった。

    

 奏は、ただ見ていたいと思ったそしてこの世界であれば、今居る世界を捨てて住んでみたいとすら思った。

絶望しか存在しないこの世界には奏は既に、興味が失せている。

暫くすると、視界が暗転し元の暗闇の支配する場所へ戻って来た。

すると、さっきは小さくて聞こえなかった声が今度ははっきりと聞こえる。

  

   − 絶望ヲ抱キシ者ヨ −

   − 我ハ汝ヲ見付ケタ −

   

   − 是ハ天ノ気マグレデ有ル −

   − 起キ得ル事象ヲ受ケ入レヨ −

   − サスレバ道ハ開カン −

   

 光はそう告げると、あっという間に消えていく、光が完全に消えると奏の意識も闇の中へ落ちていった…。


 何処にでもあるような目覚まし時計の音で目覚める。不思議なことに、昨晩の夢で見た情景を写真でも見るかのように覚えていた。そして、不思議な声の言っていた事も……。  

「これはどうなんだ?、よほど精神でも蝕まれてきたか……。」

 

 苦笑しつつそうつぶやいて、通学の準備を始める。実質、祖父が亡くなってから学校にも興味が無くただ、惰性で通っていた。


 お節介な教師が何度か、私生活に踏み込もうとしてきたが興味すら沸かなかった。 その教師も、何度か無視を続けていたら諦めた様だ、その程度で諦めるなら最初から踏み込んでくるなと思うが既にどうでも良かった。

 そう、もうどうでもいいのだ……この世界も、この空も宇宙も人でさえも既に守るべき物すべてを失った奏にとっては…。

「俺は、もう居なくてもいいかい……亜衣…母さん…父さん……爺さん。」

そうつぶやきため息を一つ吐くと、もう今日は学校へ行く気が無くなっていた。

  

 何もやる気が起きなかったが何故か街中を彷徨っていた、意識の何処かで街に出ていれば昨日の女性に出会えるのではと思っている。しかし、その思いとは裏腹に街が薄暗くなる頃になっても会う事は出来ずただ悪戯に時間だけが過ぎ去っていく。


「いい加減、どうかしちまったかな……。」


 家に帰ろうと、ベンチから立ち上がった瞬間昨日と同じ違和感を感じる。引き寄せられるかのように、その違和感の発せられる場所へ走っていた。

「ハッ……ハッ…ハァハァ……。」

息を切らせる程急いで、たどり着いた場所は、建設途中のマンションだった。そこからは何か感じたことの無い大きな力が溜まっていて、引き寄せられるように中へ入っていった。

中に入ると、ロビーのような開けた場所の中央で蒼い六芒星の描かれた魔法陣の中央に祈るように手を合わせて昨日の女性が立っていた。

その女性は、何かに集中しているようで奏の存在には気づいていないようだった。

ゆっくりと、荒れた息を整えつつ奏はその魔法陣のような物に近づいていく……そして、そっと魔法陣に触れた時だった何かの力が爆発するように眩い光が溢れその女性は驚いた顔をして奏を見たがその瞬間、奏は意識を失った。


   − 絶望セシ者ヨ扉ハ開カレタ −

   − 己ガ望ム道ヲ行クガ良イ −


   − 与エラレル物は更ナル絶望カ −

   − 大イナル希望カ其レハソナタ次第ダ −


   − 秩序ト混沌ハソナタヲ迎エヨウ −



初投稿作品となりますが宜しくお願いします。

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