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三度目の人生、好きに生きる!  作者: クラリス
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第三話『二人の王子様』

いよいよ“花の祝福”です。

シャロンはどのような結果を聞くことになるのでしょうか。

 

  「なぁ、兄上」

  「なに? クロード」


  ワクワクとした表情で馬車の窓から外を覗いていた弟が、こちらに振り返った。


  「神殿って、どういうとこなんだ?」

  「神殿は、多くの人が祈りを捧げる場所だよ。僕たちの“花の祝福”は大神官が行ってくれる」

  「綺麗なとこなのか?」

  「うん。外見はドーム型に柱が立っていて、そのなかに神殿がある。白い壁と壁画から古い歴史を感じられるところだ。そこで魔法属性を見るわけだが……クロードは何がいい?」


  先ほどから、数分に一度は同じようなことを尋ねてくる、誕生日は数ヶ月しか違わない異母弟にニッコリ笑って質問を返す。

  この問いが、これ以上質問されるのが面倒くさいからという兄の冷めた一面から出てきているとは夢にも思わない純真な弟。彼は、目をキラキラと輝かせた。


  「俺は、火がいいんだ! 絵本の騎士がな、剣に炎を纏わせて闘ってたんだ! それで人を救うんだぞ!」

  「魔剣使いになりたいの? そうか……僕はね、水がいいな」

  「どうしてだ? 水は剣に纏わせることができないぞ?」


  明らかに魔剣のことを基準とした考えに、あははと苦笑を溢す。


  「……水なら、土地を潤わせることができる。魔石に魔術式を刻んで魔力を込めれば、誰だって使える水源になるだろう? もしものときに大事だ」

  「そっか! 兄上はやっぱり立派なんだな!」

  「はは、ありがとう」


  (……単純で扱いやすいな)


  話し相手としては楽だが、第二王子としてはどうなのだろうか。

  若干、弟の未来が不安になったところで、ガタンと大きく揺れて止まり、馬車が目的地に着いたことを表した。


  「国王陛下並びに第一王子殿下、第二王子殿下のおなーりー!!」

 

  神殿に入った途端、わぁああ!と歓声を挙げながら集まってくる貴族たちにニッコリと優しい笑みを顔に張り付けて対応する。


  「王子殿下! 殿下と同い年の私の娘にございます。まだまだ拙いところはありますが……」

  「そうですか。可愛らしいご令嬢ですね。また機会があれば」

  「王子殿下! こちらは我が息子……」

  「剣が上手と聞いております。励んでください」

  「王子殿下、私の娘はーーー」

  「王子殿下、ーー」


  “花の祝福”が始まる合図が神官から放たれる30分間、このような貴族たちがすり寄ってくるのは止まらなかった。クロードもすっかり怯えてしまい、馬車の中とは打って変わって大人しく椅子に座っている。

  子どもたちは前列の席に、親たちは後方の列の椅子に座り、父上である国王陛下だけは祭壇の椅子に座っている。


  「……ではこれより、“花の祝福”を始めさせていただきます」


  開会の合図の次に祈りを唱え、聖書の話を聞く。

  その長い話がやっと終わり、魔法適性値と魔力属性を一人ずつ測ることになった。

  魔法適性値と魔力属性では大きく異なる。

  魔法適性値はつまり体内の魔力量。努力によって向上していくが、魔力属性は変わることがない。体内の魔力がどの属性に当たるかということだけだ。


  「これより、魔法適性値と魔力属性の測定を行います。第一王子クリストファー・アルメリナ様。祭壇にお上がりください」


  頑張って、と言うようにクロードがギュッと拳を握って振ってきたのを見て、クスリと笑う。

  そしてスタスタと祭壇の神官の目の前まで歩き、右にある紫がかった紫水晶に右手を、左にある測定器らしきものに左手を置いた。


  「おおおっ! 素晴らしい!! 魔法適性値4130!! 魔力属性は土、風、水の三属性にございます!」


  大神官の大きな声に、ざわりと親たちが反応した。


  「適性値が4000超え? 久しく見てないぞ!」

  「王太子はやはりクリストファー様ね」

  「三属性もあるだなんて……」

  「王家は安泰だな!」


  正式な礼を父上に取り、席へと帰る。

  すると、隣のクロードがすぐに呼ばれた。


  「第二王子クロード・アルメリナ様。祭壇にお上がりください」


  緊張した面持ちで進んで行くのを見ながら席に座った。


  「おお! 魔法適性値3360! 魔力属性は土、火でございます!」


  先程よりはいくらか抑え気味の大神官の声に、またもや親たちが反応する。


  「すばらしいが……クリストファー様ほどではない」

  「王太子はクリストファー様だな……」

  「だが、クロード様も未来の王弟殿下だ……」


  後ろから聞こえてくる終わりのない賛美に、少しだけ気分が上がる。戻ってきたクロードも、念願の火が魔力属性にあり、嬉しそうだ。

 

  (……王家が安泰だと、印象づけられた)


  「では、次から侯爵家のご子息様、ご令嬢様の祝福に移ります」


  ふふ、と込み上げる笑いを噛み殺す。

  魔法適性値とはだいたい身分で決まっている。例外もいるが、平民が500前後、下流貴族が1000前後、中流貴族が1500前後、上流貴族が2000前後だ。

  よって、公爵家と侯爵家の子どもの測定が終わりかけている今、自分たち王子以上の適正値を持つ者は出てこないだろうと考えていると、伯爵家の祝福に移る神官の声が耳に入った。


  「これより、伯爵家のご子息様、ご令嬢様の祝福に移ります。シャーロット・オリバティス様。祭壇にお上がりください」


  スッと中流貴族とは思えないほど優雅な所作で祭壇に上がった自分より幼い彼女のあるところに、パッと目が止まる。彼女の所作が子どもとは思えないほど美しかったのもあるが、黒い髪を見るのが初めてだったのだ。


  (黒髪は……そう。たしか、魔女の色)


  そう考えたとき、彼女がドレスと同じ白い腕を伸ばし、測定器に手を当てた。


  「……っ!!」


  その測定器を見ていた大神官が、ズサッとあからさまに後ろに後ずさる。

  親も、待っている子どもたちも、果てには国王陛下も不審な目で大神官を見る。

  その目線に気づかない、いや気づけるほど余裕のない大神官は、まるで、信じられないようなものを見るような目で彼女を見てから、恐る恐る口を開いた。


  「……魔法適性値、い、10000オーバー! 魔力属性は……土、風、水、火、雷、音の六属性!!」


  シンと神殿内が静まり返る。

  その一瞬の静寂のあと、一気に火がついたようにざわめき出した。親たちの話題も、子どもたちの話題も、王家から彼女の話へと変わっていく。

  容姿にしろ、所作にしろ、測定結果にしろ。

  彼女には、興味を引くものが多過ぎたのだ。


  (黒い髪を持つ人間など、この国にはいなかったはず。それに、魔法適性値が高すぎる。確か測定器は9999までしか計れなかったはずだが…………振り切れたのか。その上、魔力属性で音? 聞いたことがない)


  「魔力属性の音とはなんだ? 基本の七属性の中の属性じゃない。固有魔法……完全なオリジナルか!」

  「基本の七属性のうち、五属性も持っいてるだなんて! 天才よ!」

  「黒い髪って、魔女の色よね……」

  「なんにしても、魔法適正値が10000オーバーとは……! 最大値じゃないか!」

  「高い魔力に、黒髪。まるで魔女よ……!」


  ぐるぐると回転する頭には、親たちの噂話が耳に入る。その噂話は、褒め称えるのが四割、恐れるのと貶すのが三割程度だった。


  (……驚いた顔の父上は初めて見る……)


  いつも威厳に満ちた、国王陛下である父上を見上げると、自分の目の前で淑女の鑑とばかりに綺麗なカーテシーをする彼女を、目を見開いたまま座っている。


  (それほどまでに……彼女は!)


  いつも、自分が一番褒め称えられた。

  いつも、何一つ誰にも負けなかった。

  いつも、一番上にいたのだ。


  (なのに……っ!)


  自分のなかにあった何かがガラガラと派手な音を立てて崩れていくような気がした。

  その原因である彼女をキッと睨むが、果たして彼女は気づいたのか気づいていないのか。

  祭壇に上がるときと変わらない美しい所作で席まで戻っていった。



  一方で、第一王子様の反感を知らず知らずのうちに買っていたシャーロットといえば。


  (なんか魔力属性に音が増えてたぞ! 魔法適性も異常に高かった! ヤバいヤバいヤバいヤバい……ヤバすぎるだろ!)


  背筋を伸ばして優雅に腰掛け、ニッコリと上品な笑みの仮面の下では、後ろから睨み付けてくる父親とその愛人様の視線をイヤほど感じ取り、荒れ狂っていた。


  (私があの子より目立っちゃったからお怒りだ……っていうか、どうして愛人様が来てるんだよ!!)


  事の起こりは一時間ほど前。

  母様と初対面の父親が来ると思って馬車の中で待っていると、そこに来たのは私の父親らしき人とその愛人様。それに加えてバッチリ認知されてるらしい笑顔満開の私の異母妹。

  それはもう、三人だけで幸せそうな家族が出来上がっていた。


  (いたたまれないのは馬車の中だけで充分だよ!)


  来るときの数十分間の馬車の中なんて、いたたまれなさすぎて今思い出しても泣けてくる。

  何が悲しくて、幸せそうな会話をする三人家族の馬車に一人だけ部外者がポツンと乗ってないといけないのか。

  一応自己紹介はしたが、父親と愛人様の目は、異母妹に向けるのとは明らかに温度差があった。

  一歳年下の異母妹のベアトリスは私と違い、父の金髪に愛人様の紫の瞳を受け継いだ、花畑が似合いそうな愛らしい容姿の女の子だった。オツムのほうも花畑が咲いてそうだったが、良く言えば素直に育つよう、愛されているということだ。

  私の黒髪は両親のどちらにも似ていないし、深い青の瞳は、母の緑色の目とも違うし、父の赤目となんか見事に真逆だ。

  500年前の前々世、前世の私と全く同じ容姿。違うところと言えば、肌が日焼けを知らず、白く美しいことだけ。


  (……前々世、前世の私とおんなじ容姿なのは嬉しいけど……)


  できれば、親に愛されてみたかったなぁ、なんて。

  そんな、どうしようもないことを願った。



お読みいただきありがとうございます。

迷った末、前半を第一王子様視点、後半をシャロン視点とさせていただきました。

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