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2DネトゲにTSテイマーとして転生した俺  作者: ディーバ=ライビー
3/11

003:発動しなければ魔力不足にならなかったのに

「そうだ、あなたで試そう」

 

 軽く握った右手の杖を前に出し瞼を閉じると、自然と頭の中に呪文が浮かんでくる。

 その精緻な魔術の理論は脳内の電気信号と化し、数多のニューロンとシナプスの繋がりを通り抜けて、増幅・変化を続けて行く。


 腹が立って仕方がない。こんな世界に飛ばされたことも、安眠もできずにオーガに襲われている現状も、なにより、()()()()()()()()()()()()()()自分自身の愚かさに。


 わかってたはずだ。俺はこのゲームの廃人プレイヤーだったんだぞ。ここがオーガの縄張りだって知ってたんだ。そして、オーガに馬が勝てるわけがないこともだ。

 しかし、不思議だ。そんないらだちを俯瞰してみている自分がいる。

 淡々と呪文を詠唱しているのが自分だとは思えない。

 そう、まるでMintが自分ではないようだ。そんなバカな。


 そうこうしているうちに、呪文が完成する。

 1つめ。

Rest()raint()

 ()()()が発した力ある言葉は、オーガの巨体を足止めすることに成功した。


 2つめ。

Explode(爆発)

 今度は何も起きない。だが、わたしはかまわず詠唱を続ける。


 3つめ。

Energy(叩き) Strike(つけ)

 魔力を対象に直接叩きつける、威力は高いが燃費の悪い連発には不向きの呪文。だがこれも発動しない。


 4つめの詠唱開始。

 しかし、ここで直前に放ったEnergy Strikeが効果を発揮した。

 あの呪文は、発動までちょっとラグがあるのよね。


「ぐわあぅお!」


 オーガが苦しみの咆哮を上げるが、攻撃の命中と共に魔法の束縛から解き放たれたやつは、わたしを強敵と見なしたのか、全力で突進してきた。


Flame() Javelin(の槍)


 だけど遅い。吠える時間があれば突撃してくるべきだったよ。わたしの4つめの呪文は狙い通りにオーガの胸板に深々と突き刺さっていた。


 しかし、まさかにオーガはこれに耐えた。

 わたしにもわかるよ、その表情。笑ってるんだね「どうだ人間ごときが」とでも思っているんでしょう?

 あとは、その丸太のような棍棒をわたしの頭に叩きつければ終わり。


「……って、あなたは思ってるんでしょう?」

「?」


 ぼむっ!

 鈍い爆発音が聞こえた。


「ごめんね、Explodeって発動がめっちゃ遅いんだ」


 どどーん。何かが倒壊する音。

 視線を向けると、そこには、頭部を失った巨人が横たわっていた。

 

「って、ホント? オーガってこんな強かった? てっきり……ハァ、Explodeは……ハァ、発動せずに終わると思ってた。ハァハァッ」


 もう立っていられない。膝を落として四つん這いになりながら息を荒げて咳き込む。魔力を一度に使いすぎたのだ。危なすぎた。

 勝ったのはたまたまだ。あんな戦い方じゃ命がいくらあっても足りないよ。


 反省点しか見つからない。最悪の初戦闘だった。


 でも、ゲームで効果的だった魔法コンボも使えるじゃない。この世界は。



 ☆★☆★☆★☆★☆★



 翌朝、食事を終えて考える。

 やはりどう考えても、昨晩のオーガ戦は自分で戦ったような気がしないのだ。まだこの世界になれていないせいかな。あるいは女キャラなもんだから、魂かなんかの同一性に拒否反応があるとか?

 それで完全に別れてしまったとしたらどうなるんだろう。俺の意識が消えるのか? それって死ぬって事だろうか。


 いやまて、そもそも今は俺どうなってるんだ?


「カラダはぜんぶ、思い通りに動くよね」


 そう言いながら、両手をわきわきさせてみたりする。

 Mintかわええってマジ。何をやっても天使過ぎるがな!


「そんなキモいこと考えるから、拒否反応が生まれるんじゃないのかな」


 え、そうかな。そういうコトもあるかもしれない。

 って、俺いま誰と会話したんだ? いや、両方自分で考えて話したよな。


「これは、深く考えるといけないパターンだ」


 そうだよ、それだ。ひとまずこれは置いておく。

 それより、俺はもとの世界でどうなってしまったんだろう。死んだのか?寝てるのか?


 ふむ。とにかく。


「あ、お馬さんだ。やっぱり徒歩じゃ無理だよね、あの子に乗せてもらおう」


 2頭目の馬をテイムして、俺は改めてケロキの村へ向かうことにした。


 今度は日中だったせいもあるのだろう、ときおり魔法一撃で倒せる弱いモンスターに出くわした以外にはこれといった問題もなく、無事に昼前には村にたどり着くことができた。


「お馬さん、ありがとー!いま、にんじん買ってあげるから」


 そういえばこの馬もがんばってくれた。ほとんど飲まず食わずで歩いてきたぞ。

 『Climax(C) Online(O)』では高位のテイマーが使役するペットは忠誠心が高く、命令に反発する可能性が低くなっていたはずだ。恐らくはこの世界でも同じなのだろう。


 雑貨屋で身の回りで必要なものと一緒ににんじんを買う。


「はい、お馬さん」

「ぶひぶるるるるるう♪」


 喜んでる喜んでる。やっぱテイマーのこういうところが好きなんだよ。


「さて、次は銀行へ行こう」


 MMORPGには必須と呼べる施設の一つが銀行だ。

 そういえば、CO内でなら()()遊べるくらいの金を銀行に残したままサービス最終日を迎えたはずだな。この世界にもそれが受け継がれているとすれば――いまやリアルで左うちわと言うことに?


「Bankbox Open」


 わくわくしながら銀行員に口座の開示を依頼する。


「Mintさんの口座残高は、28Gですね」

「え?」


 は?

 28G?それって一晩の宿代にもならない金額じゃ?


「あ、あの、なんかの間違いじゃ?」

「いえ確かです。当銀行に間違いなどありません」


 まあ、そうなんだろう。MMOの銀行はだいたい正しい。

 つまり、銀行の中身はまったくゲームと同期していないということなのか。


 考えてみれば、家の鍵も持ってないもんな。

 COと財産が一緒ならMintは砦レベルの広さの大豪邸を持っているはずだ。

 そうだな、その家の建っているはずの場所へ行ってみるか。ここからだとかなり遠いが、家は首都近くに建っていたからな。情報収集なら首都は外せないし、行くしかない。行こう。


 だが、その前に。


「そうだ!この村には厩舎があったっけ。みんな、いるのかなぁ」


 確か南西の方だったな。俺は、馬を引きながらのんびりと歩を進めた。



あとは明日、がんばりますっと。

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