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逢魔外道  作者: 名藤える
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一章 寄生3

 副担任の北岡に同行したのは誠を含めて五人。北岡が澄華の母親と挨拶し彼女の様子を尋ねたあと、六人は澄華の部屋に通された。

「へぇ」

「ほぉ」

「ふ〜ん」

『あんたらねぇ〜』

 男三人のデリカシーの無い無遠慮な反応に女子二名の殺気の籠ったツッコミがハモった。間髪いれずに北岡のゲンコツが三馬鹿の頭を軽く小突く。

「女子の部屋を眺め回すなんて失礼だろうが」

 そーよそーよ!と捲し立てる女子二名。しかし、北岡はまたも間髪いれずに、教育的指導を突き入れた。

「お前達もだ。病人の部屋で騒ぐんじゃ、な・い!」

 連れてきたのは間違いだったかも知れない、などとやや後悔したものの気持ちを切り替えて、北岡は澄華に見舞いの言葉をかけた。慌てて五人も澄華を見舞う。

「ありがとう」

 当の澄華本人は、むしろ思わぬコントをみせられたかのように、クスクスと笑いながら礼を返した。ある意味、堅苦しい見舞いよりも良い影響があったのかもしれない。

「心配かけてすみません、北岡先生。それに奈々ちゃん、恵ちゃん、秋山くん、城戸くん、く、日下部君…」

「いいよ、気にしないで。僕達が会いたかったから、お邪魔したんだし」

 澄華の様子に若干妙な『間』があったのは気になったが、誠は彼女の気遣いをほぐそうと笑顔を浮かべる。

 それから改めて澄華の顔を見ると、頬の辺りが妙に赤らんでいた。

「まだ、熱があるんじゃない?顔、赤いよ」

 真剣な表情で気遣う誠の周囲で、二男二女が盛大に突っ伏し、それを見やった北岡が何かを察したように小さくほくそ笑んだ。

「お、おまえなぁ〜」

「やめとけ、無駄だ」

 堪りかねたように口を開きかけた長髪の城戸の口を、秋山が右手で押さえた。短く切り揃えた髪型、やや掠れたような声と相俟って、一瞬怒っているように感じられたが、彼の場合、単に呆れ返っているだけである。

「けどよ〜」

 塞がれた手をどかし、尚も城戸が何かを言いかけるが、今度は止めない。城戸のおせっかい焼きを何度も止めるのは、時間と労力の無駄だと彼は悟っているのだ。

 言っても無駄。やっても無駄。と判断すれば即やめる秋山と、思ったことを説得力を伴わせることなく、ひたすらやり続けようとする城戸。いいコンビなのだが、何故にこの二人が上手くいってるのかを理解できている人間はいない。

「それより、お前の体調の方はどんな感じなんだ?須藤や芝浦は頭痛だの目眩だのと言ってるらしいが。それぞれ症状が違ってる。」

「うん…症状でいうと高熱」

 城戸を遮るように質問する秋山に、微妙な表情で澄華は答えた。

「あとはね、何だかずっと変な夢を見てるような感じでよく眠れないの。そのせいで、身体がずっと重たいっていうか、苦しいんだけど…」

 昨日の一件は『感電』などという、あまり経験できない事故であったため、各生徒が各々の無知故に、それぞれ異なる症状を発生させていた。所謂『思い込み』による身体の変調であるが、それを払拭させるというのは、ある意味どんな医術でも難しかったりする。

 どれほど過去の症例や医学知識を挙げて説明しても、本人が本当に理解しなければ、結局『ぶり返す』ことになるからである。

 澄華がそうであるかは断言できないが、『感電』という体験そのものが、彼女のトラウマになるほどのきょうふかんや衝撃を与えたなら、悪夢の形で彼女を苛むことはあり得た。結果、睡眠不足による体力低下を引き起こすことにもなり、身体の低迷はそのまま精神的にマイナス思考となって、さらに体調を崩すという悪循環を描く。

 だからこそ、北岡は誠達の同行を認めたのである。独りで鬱になる前に、友達と接することで、気持ちそのものを良い方向へと向けさせるために。

 その意味では、この面子はうってつけと言えた。

 それぞれの個性がバラバラで、それでいて上手く噛み合っているような関係だと、北岡は以前から評していたのだ。

 現に、澄華の表情は明るい。まだ若干の熱を残してはいるようだが、この分なら二・三日で登校してこれるだろう。

「さて、それじゃ次は霧島の家に行くが、お前達はどうする?」

 澄華の様子を特に問題無しと判断した北岡は、早めに武内家を出ることにした。あまり長居しても彼女の休養の妨げになる、と誠達も一緒においとましようということになった。

「みんな、今日はありがと」

 少し寂しげな声で澄華が言うと、奈々と恵がチラリと誠を見たあと、そそくさと澄華に近寄った。小さく含み笑いを浮かべながら、何事かを耳打ちする。

「クスッ」

 いったい何を言われたのか、澄華が思わず笑みを漏らし、おそらくは再度お礼と別れの言葉を言おうと思ったのだろう。その瞬間――


 ――バチバチバチィッ


 澄華を中心に不可視の、しかし確実に体感できる電気が疾走した。


「っああ」

「くぅおぉっ」

「ぅわちぃっ」

「きゃっ」


 四人の悲鳴が部屋中に響き、先に部屋を出ていた北岡が、慌てて戻ってきた。

「どうしたっ!」

 その問いかけに、悲鳴を挙げた秋山、城戸、奈々、恵は感電のショックに声も出せず、澄華は何か恐ろしいものでも見たかのように

 呆然とし、そして誠は――


「さ、さぁ?」


 一人、何が起こったのか全く解ってない顔で北岡を見返っただけだった。



 ――《着床》反応確認――《着床》サンプル『αー1』と識別


 ――同時に《潜伏》反応確認――《潜伏》サンプル『βー1』と識別


 声もなく、ただ喜色はらんだ吐息がその報告に反応していた。






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