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 決意表明したあの茶会の後、アレクは以前より頻繁にデートに誘ってくれるようになった。


 冒険者になりたかったと話したからか、王都近くの森にも連れていってくれて、ローゼンハイム家には内緒で弱い魔物と戦わせてくれたり、刃を潰した剣で護衛の騎士と稽古をしたりと、およそ王子と貴族令嬢のデートとは思えないこともさせてくれた。




「アレク様、以前より踏み込みが速く深くなっておいでですわね。やはり体重移動の仕方がお上手ですわ」


 前よりも深く懐に潜り込んでくるアレクに咄嗟に剣を薙いだが、キィン、と高い金属音がして私の剣はアレクの剣に弾かれる。


 やっぱり幼い頃から鍛えているからか、基本的な戦闘技術はアレクの方が高い。真っ直ぐな性格のせいかフェイクを仕掛けるのは苦手らしく、また私のフェイクにもよく引っ掛かってくれるが、結局ほとんど避けられてしまう。


「イザベラこそ、鋭い突きに磨きがかかっていて何度かかわしきれない程でしたよ。お忙しいのによく訓練されているのですね」


 妃候補の公爵令嬢として覚えなければならないことはたくさんある。

 ダンスに礼儀作法、宝石や絵画の知識から他国の言語や風習のことまで幅広いジャンルの勉強をしなければならない。だが、王子も同じような条件だろう。むしろ、私と同じもの以外に女性は学ばない兵法や軍事関係のことまで学ばなければならないのだからアレクの方が時間がないはずだ。

 騎士達と稽古をする時間は私より取れるかもしれないが、それでもやはり彼の素質と努力は素晴らしい。


「ふふ。アレク様に良いところを見せたくて必死なんですのよ」


 交差する剣越しに笑いかければ、アレクも笑みを浮かべる。


「そうですか。私も実はイザベラに負けないよう無理を言って訓練の時間を増やしているのです」


「まぁ、そうでしたの。いつも涼しいお顔をなさっているので気付きませんでしたわ」


 いや、彼の手を、彼の立ち振舞いを見れば、どれだけ努力して腕を磨いているのか分かる。

 だが、やはり男の子は努力の跡など知られたくないだろうから、私は気付かないフリをした方がいいのだろう。


「私もイザベラに良いところを見せたいですから」


 一際強く振られた剣に、ついに私の手から剣が弾かれる。

 まいった。降参だ。

 両手を顔の横に挙げ、戦闘の意志がないことを示せばアレクはふぅと小さく息をついた。


「アレク様はいつも素敵ですわ」


 クスクス笑って言えば、アレクは少し頬を赤くして照れたように笑った。

 可愛いな。


 アレクは私に好意を持ってくれているようだ。

 言葉の端々に、表情に、仕草に表れる感情に悪い気はしない。私達は政略結婚の婚約者同士だが、その中ではいい関係を保てていると思う。

 剣や魔法、魔物との戦いについてなど、彼としかできない話は多いし彼と過ごす時間は楽しい。きっとアレクも良い友人のように思ってくれているだろう。


「また護衛の方に余裕がある時に東の森へ参りましょう」


 護衛の騎士達も私達の世話ばかりしていられない。

 一国の王子と公爵家の娘が魔物狩りに行くのだ。どちらに何があっても彼らの首が飛ぶ。ついでに彼らの家族も犠牲になるかもしれない。それは私もアレクも望まない。万全の状態でしか狩りに出掛けられないのだから、余裕のある時にしないと迷惑だろう。

 幸い今は周辺国との戦争もないし国内も安定している。機会は割とある方だ。


「そうですね。調整しておきましょう。湯あみの用意が整っているようですので、どうぞお使いください」


「お気遣いありがとうございます。では後ほど」


「えぇ。ではまた後で」


 私と打ち合いをするようになってから、以前よりも更に剣の稽古に取り組むようになったとかで、騎士団の中ではアレクの評判はうなぎ登りだそうだ。

 元々の素質に加えて努力家なので上達は速い方だったが、最近は成人前だというのに騎士団の新人より強いらしい。

 アレクに負けていられないと他の団員も頑張っているようで、そのきっかけとなった私は騎士団長から感謝されているらしい。アレクの話によると、魔物狩りに行くために騎士団から人員を借りるのが前より楽になったとか。


 風呂を借りた後、薄く化粧をしてもらってから客室に戻り、お茶を飲みながら魔物の話で盛り上がった後、次回の約束をして別れた。




「お嬢様、最近は以前にも増して楽しそうですね」


 帰りの馬車で、侍女がにこにこしながらそう言ってきたので、慌てて顔を押さえる。


「そんなに分かりやすいかしら?」


「えぇ。殿下にお会いになった後は特に。本当に仲がよろしいですわね」


「そうね。アレク様とはとても有意義な時間を過ごせるもの」


 冒険者になりたいなんて兄以外誰にも言えなかった。

 公爵家の娘として、お淑やかで優美な女性にならなければならなかった。

 本格的に剣を持つことも魔物と戦うことも、アレクがいなければ出来なかったかもしれない。


「今、アレク様にお会いするのが一番楽しいかもしれないわ」


 ふふ、と抑えきれずに笑えば、侍女も微笑ましげに笑った。

 彼女の考えていることとは違うが、その間違いを訂正してしまえばアレクに会うのを止められてしまうかもしれないので黙っておこう。




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