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剣と魔法の世界に憧れていた。
生まれ変わったら異世界で冒険者となって世界を巡り、魔物を倒したり、見たことのない景色を見たり、異種族と友達になったりするのが夢だった。
青信号で道路を渡ったのに信号無視の車にはねられて死んだ私は、どうやらまだ死ぬ予定ではなかったようで手違いの迷惑料としてカミサマに願いを叶えられて俺Tuee!!!する予定だった。
だがしかし、異世界に生まれ落ちて自分の名前と国の名前を知った瞬間、私の願いは半分しか叶えられていないことに気付いた。
「……私が…イザベラ・ローゼンハイム、だと…!?」
室内に誰もいないのを確認してから、安心してorzの体勢で絶望したのは3歳の時だった。
ローゼンハイム公爵家といえばこの国でも1、2位を争う有力貴族である。
王族の次くらいには大金持ちだし権力もある。例えば、何かムカついたからと人を殺しても罪には問われないくらい。
いや、そんなことはウチの人誰もしないけど。
着る物も食べる物も一級品で、食事の世話も身支度も勉強の用意も全てメイド達がしてくれる。
勉強や習い事さえきちんとこなしていれば、残りは悠々自適なセレブ生活を漫喫することができる。
だが、イザベラ・ローゼンハイムはダメだ。
イザベラ・ローゼンハイムといえば、私が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの悪役令嬢だからだ。
魔力値が高く、戦闘パートにおいて圧倒的な強さを誇るハイスペック美少女だが、彼女にはヒロインを虐め倒した罪を断罪されて処刑される最期が待っている。
いやいやいや。それはない。
そもそも、虐めなんてクソ面倒くさいことを何故やらなければならないのか。
そんな暇があったらベッドでだらだらするか魔法の練習でもしたいわ。
だが、前世で読んだ悪役令嬢モノの小説では“強制力”というのが働いてシナリオ通りに進められてしまうことが多い。
それは阻止しなければ。
イケメン王子との結婚も王妃の座もどうでもいいが、大好きな家族や使用人達のためにもローゼンハイム家没落は避けたい。
私には優秀な兄がいるので、普通にしていれば我が公爵家は安泰だ。婚約者のメアリー様も美人で優しい素敵な人だし。