描写練習『カタユデ卵』
灼熱に照り返すアスファルトは靴裏を焼いて、風なくゆらめく蜃気楼に喉を鳴らした。流れる汗はよれたYシャツを濡らし、ノンアイロンのはずだったスラックスさえヨレヨレでくたびれの様。カッコつけのネクタイもだらしなく伸びて、弛緩した精神に俺はあくびをした。
とある依頼人の娘らしき女性がここに攫われていると聞いて、やってきたのはいいが正直やる気がしない。夏の北海道は思う以上に暑い。
北海道すすき野。かつて山口組系が支配した風俗街は今やチャンク共に占められていた。
日本人女性が幾人も管理売春に強制労働させられているのに、警察さえ動かないのは、もはやそこが治外法権となっているからだ。 拉致問題と慰安婦問題がごちゃまぜになった案件だ。正直手に負えない。それでも情報をとってくるだけでそれなりのカネが入る為、つまりは安全よりもカネをとったわけだ。
「あんときにお願いして生活保護を申請してもらうべきやったなぁ」
かつて公明党の幹部から依頼を受けたことがあったのだ。ろくな報酬はなかったけど、生活保護ならいつでも通してやるぞ? といわれて、きっぱりと断った。俺はカルトと共産主義が大嫌いなのだ。 とはいえ、お金は大好きである。悩んだ末断ったのだ。まぁ、創価学会くらいデカくなるとヤバイ事はしなくても組織が維持できるからむしろ安牌なんだろうけどな。
「あー、いたヨー、ユーサクさん オマエが探すムスメいたネ ドーする? おカネないと教えないヨ?」
小柄で黒髪ロングで色白のチャイニーズ娘は、細長の眼をさらに細めて作り笑いで話しかけてきた。 彼女もすすき野ではたらく風俗嬢である。 まぁ、好みではあるがどこぞの説教おじさんみたいに商売女にのぼせ上がるような事はしない。
しかしまぁ、松田優作にあこがれて探偵なんてやってはみたものの、正直人間のクズがする仕事だ。 とはいっても、俺は個人事業主ではなくて、全国に展開する探偵フランチャイズの雇われ店長でしかないけどな。
古びた雑居ビルが立ち並ぶその界隈は、いかにも怪しげな立ちんぼのお姉さんと、客引きのスーツマンがうようよしていた。
北海道へのチャイニーズの入植は順調に進んでいて、中部から北部にわたる過疎地帯に巨大な集団農場を出現させた。綺麗な水が万年不足し安価な野菜がない大陸に向けて輸出するための拠点である。 またこれらの一部は日本市場へ輸出されており、皮肉な事に日本の胃袋を支える北の食糧拠点は、日本共産党ではなくて、中国共産党に侵食されていた。
「赤い大地ってか」