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ラブコメ少年菅原くん  作者: choir
第1号  『菅原くん』
2/4

1話  『菅原君の漫画』


―――いちよう単行本も出てるぞ


「って菅原君は言ってたけど私をモデルにして書きたい漫画っていったい何なんだろう。」


 家路についた私は帰りの電車の中でふとそんなことが頭に浮かんだ。


 彼によるとずっと前から私をモデルにした漫画を描いてたらしい。でも実際に本人を見て描かないとキャラに感情移入できなくなったというわけで、今日から私をしっかりと見て描きたいとある意味告白されたわけだ。つまり、もう私がモデルとして描かれた漫画は世に出回っているっていうことなのだ。

 だから菅原君が私をモデルにしないでほぼ想像で描いた漫画がどうなっているのかとても気になる。


「それなりに仲が良かったからうまい具合に私の性格とかわかってくれてそうだけど。」


 少なくともオレオレ系やメルヘン系の性格じゃないし、どちらかというとどこでもいる女子高生なんだと思うけど。

 そわそわしながら、かなり菅原君の描いた漫画が気になる水城陽加里であった。

 


      ※



「ただいまー。」


 家に帰るとまっすぐ自分の部屋へと向かった。


 私の家にはお父さんにお母さん、それに私と中学二年生の弟。家族円満という言葉が似合うのは確かなどこにでもいる普通の家族だと思う。

 親の方はちょっとしたレジャー気分でよくキャンプとかにつれて行ってくれるし、弟の方は反抗期をこじらせてただのツンデレみたいになってるし。この十六年間、家族が嫌いだと思ったことは一度もなかった。


 部屋につながる扉を開けるとそこには大きな二段ベット。弟が下で私が上。何回もじゃんけんで勝負して上か下を取り合ったのを覚えている。


 そんな懐かしさを感じながら部屋へと入り鞄を下した。

 そのまま制服のリボンを外しながらスカートを下す。そんな時だった。


 ふと目に映ったのは学校の教科書が乱雑に置かれた弟の机の上にあった一冊の漫画本だった。


「へぇ、泰地もこんなの読む年ごろになったんだ。」


 表紙を見るからにラブコメなのはわかる。が、ただそれだけではない。ヒロインらしき少女の服がきわきわまではだけ、お色気ポーズをかましエロさ全開のものだったのだ。

 明らかに話の中でラッキースケベやらお色気イベントやらがたくさんありそうな少しエッチなラブコメ、そんなものが想像できた。


 確かに弟の泰地は中学二年生で思春期真っただ中だからこういう本が読みたくなるのはわかる。けど、いつか『お姉ちゃーん!』って言いながら襲ってくるんじゃないかな。いや、まあ私の弟に限ってそこまで大胆なことはしないに決まってるだろうけど。

 そんなことを思いながら表紙をもう一度見つめた。


「あ、これ一巻だ。」


 弟もどうやら今はお風呂に入っているようだし、ちょっとだけ読んでやれ。後でお風呂からあがってきたら色々と言ってやろう。

 小悪魔的な考えをめぐらせながら私はページをめくった。


「ここ鳴海高校は日本有数の権力者たちの子供が集まる学校である。そんなところで私『水城陽加里』はある男子生徒に出会った・・・・って、え?」


 変な違和感を覚えた私はもう一度朗読した言葉に目を見いやる。そのまま今度は目を疑いながら黙読した。

 『ここ鳴海高校は日本有数の権力者たちの子供が集まる学校である。そんなところで私『水城陽加里』はある男子生徒に出会った』


「水城陽加里って・・・ええ⁉」


 大声で叫びながら思わず本を机に投げ捨てその本から何故か知らずに反射的に距離をとった。

 まるで猫のように素早い動きで。


「いやちょっと待って⁉」


 いまいち理解が追い付かない自分をよそに弟の漫画の表紙が目に映る。その表紙のヒロインは先刻作中で自分のことを『水城陽加里』と称していた女の子と同じ子だった。


 え、つまり、え、もしかしてこの子って、私⁉

 この漫画ってもしかして、菅原君が描いてるの⁉


 確かに私のことをしかっりとモデルにして描きたいとは言ってたけどそれはキャラに感情移入できなくなったからというわけで、もともと私をモデルに描いていたとは言っていたけど!


「いやいやいや、それはさすがに自意識過剰すぎるでしょ。たまたまヒロインの名前が自分と一緒っていうのは普通にあり得そうな話だし。」


 そう思いながらもう一度漫画を手に取る。パラパラ読みをしてみたところ、やはり脳裏に焼き付くのは所々描写されているエッチなシーンだ。


 ヒロインの女の子がお風呂に入っていたところ主人公が間違えて入ってくるというお決まりのイベントや、少しギャグを交えながら主人公がヒロインの着替えシーンを凝視するなどと言った奇想天外なシーンも等々、ラブコメらしからぬお色気イベント満載な漫画だということはわかった。


 そして追い打ちをかけるように目に映ったのはあとがきのコーナーだった。


「どうも『菅原拓人』です。僕の描いた漫画をお手に取ってくれて本当にありがとうございます。このような表紙でレジに持っていくのはとても恥ずかしかったでしょう笑。そしてこの本は―――。」


 くそっぬかりない!

 ペンネームが菅原君の名前と同じときたよ。本当にこの本は菅原君が描いたんじゃないかっていう推測が大方固まってきちゃってるよ。


 あわあわと状況をうまく理解できずに慌てふためく体に対して着々と頭の中ではこの少しエッチなラブコメを描いてるのは菅原君なんじゃないかと思い始めている。

 そんなことを思いながらもう一度漫画を読んでいると何故か涙腺がうるっときた。


「お風呂あがったぞー。姉貴も家に帰ったんなら早くはい・・・って。」


 開いていた扉から弟が濡れた髪をタオルで拭きながら登場した。そんな弟が目にしたのは下半身パンツ一枚で自分が買った本を手にしながら目からは少し涙がにじむ姉の姿だった。


「たいち~~!」


 菅原君が漫画で私をモデルとして描いてくれていたから私のことをよく見てくれていたんだ、という嬉しさと漫画の中にいるヒロインが自分なんだと思うと少し複雑な気持ちになって涙がにじんでいたのが分かった。

 そして私はお風呂上りの弟に泣きながら抱き着きに行った。


「なんて格好で部屋にいるんだよ!ってか抱き着いてくんな!」


 拒まれながらも私は弟の腹に顔をうずめながら泣き叫んだ。


「だってーだってー、何でかわからないけどこの漫画のヒロインが私と同じ名前だし作者の名前が菅原君と同じ名前でぇ!しかも主人公が何故か菅原君似なのが少し嬉しい自分がいるんだもん!」


「はぁ何言って。」


 弟がふと目に映った漫画に目を向ける、姉が持っていたのは正真正銘自分が勇気を振り絞ってレジに持って行ったラブコメ漫画だった。


「ってその本俺が買った本じゃねえかよ!何勝手に読んでるんだよ!」


 弟の言っていることなんてそっちのけで私は泣き続けた。嬉し涙と、よくわからない気持ちが混在した気持ちによっての涙と共に。



 その夜菅原君に電話してみたところ、この漫画の作者本人でした。


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