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人間って便利だね

作者: 大橋 秀人
掲載日:2019/02/17

瞬くと、冬空の夕焼けに潜む冷酷なまでの闇が見て取れた。


「人間って便利だね」


並んで歩くクラスメートの一言に返す言葉が見つけられない。


「わかってたんだよ。私だって」


遠い目で今にも暮れそうな空を彼女は眺める。


「あいつが私のこと、大して好きじゃないってことくらい」


私は下がった眼鏡を押し上げ、応える代わりに一つ息を吐く。


吐息は白く、でも、一瞬で闇に飲まれてしまう。


「人間って便利だね―—―」


彼女は立ち止まり、挑戦的な視線を向けてくる。


「好きでもないのに、好きって言える」


そして私にそう告げた。



★★★★★★★



クラスメートは短いスカートに生足で、首には分厚いチェックのマフラーを巻いている。


髪を染めていて、見た目はクラスでも派手な方だ。


対照的な私とは、特段、仲が良いというわけではなかった。


だから、一緒に帰ろうと言われた時、愛想笑いを浮かべる他なかった。


「—――あいつはさ、私のこと利用してただけなのよ」


再び歩き始めた彼女は、自嘲気味に続ける。


「だけど、好きだったから……」


この子はどうして私なんかにそんなことを告げるのだろう。


そう思いながら、その返答に困る告白を聞いていた。


「もしかしたら付き合っているうちに好きになってくれるかもしれないじゃない?」


問われても、曖昧に頷くことしかできない。


もしかしたらそうなのかもしれない。


一緒にいるうちに、好きになってくれる可能性はあるのかもしれない。


無意識にその可能性を探っている自分に気づき、それを悟られないように俯いた。


ふいに、あいつ、の顔が浮かんでくる―—―。


「でも、私、きっぱりフラれたの」


そう告げられ思わず顔を覗くと、彼女はやはり、こちらに挑むような視線を向けていた。


「他に好きな人ができたんですって」


真っ向から見つめられ、私は受け止めきれずに目を逸らす。


夕焼けはとうに過ぎ去って、辺りは深い闇に覆われていた。


星が、闇に終わりのない奥行きをもたらしていた。


「あなた、あいつのこと、好きなの?」


立ち止まり、クラスメートはとうとうそう呟いた。


両手は制服のポケットに突っ込まれ、仁王立ちしている。


二人の吐く息が、しばらく闇夜に吸い込まれた。


「—――ううん」


首を振って、私は再び歩きだす。


明確に否定したつもりが声は思いのほか力なく響いた。


クラスメートは次の一歩を踏み出さない。


そして、


「好きじゃないの?」


と、念を押すように確認してきた。


私はその問いに、顎を浮かし、首を傾けながらも頷いて見せる。


すると、今までの緊迫した雰囲気がどこかで緩んだような声で彼女は私の背中に声を浴びせた。


「人間って便利だね」


皮肉めいた言葉にも私は歩を止めず、


「私もそう思う」


でも一言、そう告げた。


―—―人間って、便利だね。


好きなのに、好きじゃないって言える―—―


夜空に見える星を眺めながら、私は急かされたように歩を進める。


頬を刺す冷たい風が吹き、光が滲み始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 複雑な三角関係ですね。 クラスメートの彼女は私とあいつの事を知っていて声を掛けてきたのかな。 だとすれば私の答えを聞いてクラスメートの彼女はどう思っただろう。 それならそれでいいと思ったので…
[一言] 対照的な見た目から、対照的な心理状況。それが巧妙でした。 言葉で告げたことと、その裏にある本心。そして、その二人がいた情景描写が、ある意味での怖さも感じられました。 色々な仕掛けが巧妙でし…
2019/02/18 21:12 退会済み
管理
[良い点] 今回は、苦味成分多めな作品なところが良かったです。 [気になる点] く、口直しの作品が欲しいですー。 [一言] お忙しいかと思いますので、マイペースで構いません、次作ものんびりゆるりと楽し…
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