教室
……人生は不思議な体験の連続である。
例えば、始まったと思った講堂での挨拶が一瞬のうちに終わっているなどである。
率直に言おう。
寝てた。
仕方なかったんだ。校長っぽい人が美人なら聞いていたかもしれないが、おっさんだったし……諸君!って言われた瞬間に眠りについた。
「ちょっと、何寝てるのよ。今から教室に行くのよ!」
「お、起きてください。ライアスさん!」
目を開けると、そこにはゆっさゆっさ揺れる二つのワンピースがあった。
ごめんよルフィ、俺が先にワンピースゲットしちまうぜ。
顔を上げて目の前のワンピースをつかもうとすると、不意に顔を見てしまう。
するとそこにはリーリエがいた。
おお!美人だ!
あんだけ話しといて、おっぱい……いや、彼女のメロンちゃんをおっぱいなんて俗称で呼ぶのはダメだ。ここはツーピースと言おう。
ツーピースしか見ていなかったのは不覚だった!
おっとりした目にピンク色の髪、やはりというかなんというか、原住民っぽい人だった。
ふむ、これはあれだな。両手にフラワーってやつだ。同級生見てるか〜?すまんが美女二人を独占しちまってるぜ〜??お茶の間冷えてっか〜???
「で、なんだっけ?」
「教室に行くのよ。もうみんな行ったわよ。私たちは先生に貴方を起こす係を任されたの」
「それ普通に職務怠慢じゃね?」
「うちの学校は結果が全て。貴方みたいに実力もないのにまぐれで入ったような人に先生たちは構ってられないのよ。先生が起こせって言わなかったら私は貴方を起こしてなかったわ」
「い、言い過ぎですよ!たしかにお話中に寝るのはダメだと思いますが、それはあんまりです!」
これはあれだな。側から見ると修羅場だな。俺知ってる!こういう時はこういうんだよな!
「やめて二人とも!俺のために争わないで!」
「はぁ、馬鹿馬鹿しい……もう行くわ」
なんだろう。何故か怒らせてしまったようだ。
「ほら、行きますよ」
「ほーい」
なんだろう。袖引っ張られているからなんかデジャヴを感じる。
教室はこの馬鹿みたいにでかい校舎の馬鹿みたいに高い7階に存在する。
エレベーターとかついて欲しかったんだけど、どうやらそんな便利なものはないらしくて……
「俺は、ここまでだ。すまないリーリエ、先に、行っててくれ」
「そんな!?嘘ですよね、ライアスさん!まだ……まだ……
4階ですよ!?」
4階だとか言っちゃってるが、このアホみたいに長い階段は普段使っていない俺の足を酷使するんだ。
ほら見てくれ。俺の足を。
おそらく生まれたての子鹿の方が上手く立てているだろう。
「明日は筋肉痛確定だな」
「まだ3階あるんですけど!?」
「……魔法使っていいかなあ……校則にもそれらしいこと書いてないよね?よっしゃ使おう」
「書いてありませんが、魔法等での器物破損はより罰が重くなると……」
「大丈夫!壊さなければいいだけだから!」
「そういう問題でしょうか?」
そういう問題でしょ。
ふわふわしながらいざ進めー。
「う、浮いてる……なんですかその魔法」
ふふん、驚いているだろう驚いているだろう?
これは昔歩くのに疲れた俺が開発した歩かなくても済む魔法のような魔法だ。
「楽ちんやデェ〜」
ピューとリーリエのペースに合わせて階段を上って行く。
「1-5、ここですね」
中々に立派なドアだった。
「ここが俺の教室かぁ……帰ろうかなあ……」
「えっと、そんなに嫌いなんですか?みんなと仲良くしたいとか思わないんですか?」
いや、嫌いというわけじゃないんだ。別に友達作ったり彼女作ったり、色々して見たいことはある。
ただ……
「やる気が起きない!」
「威張れることじゃないですよ! ?」
まあ、そんなこと言ってもしょうがないよね。
「いこっかーはぁ」
ガラガラ〜オープン!さて、俺の席はどこだ?
「すみません、遅れました」
「ああ、リーリエさんありがとう。さて、ライアス君、貴方何かみんなに言うことは無い?」
お?美人じゃん。
金髪で胸もそこそこ、身長も高い。理想の美人教師だ。
ん?言う事?
……?
あ、そう言うことか。
「俺の席ってどこですか?」
「謝りなさい!」
あ、謝る?
この俺が?
屈辱だ!でも感じちゃうビクンビクン!
「何に?」
「クラスのみんな、及びに貴方を起こしてくれてここまで連れてきてくれたリヴィアさんとリーリエさんによ」
成る程、わかった。
「リーリエ、リヴィア……ありがとう!俺は、俺は!こんなに嬉しいことは無い!君達が俺を見捨てないでくれて!俺は!とっても嬉しかったんだ!」
「ラ、ライアスさん! ?」
「こんな感じでいいですか?」
「ライアスさん!?」
あ、今のリハリハ、よっし!完璧に言うぞ!
「はぁ、もういいです。軽い自己紹介をしてください。貴方の席はここです」
お?リーリエの隣だ。やったぜ。
「ホイホイ、ライアス・ヴォルフでーす。趣味はゲーム、憎んでいるのは体育。そんな規則正しい生活を送ってきました。よろしくお願いします」
ふふふーん〜自己紹介おっわり!
さて……
帰りたい。
休み時間、それは自由な時間だ。つまり、この時間で家に帰っても問題ないのではないだろうか?
やはり俺は天才か!
「おいお前!」
この声、男だな?
ほう、俺に声をかけてくるとは余程死にたいらしい。
「聞いてるのか!おい!」
「あー聞いてる聞いてる。ミーアキャットが立つ理由でしょ?腹あっためてるんだよ腹」
「そうなのか?って違う!」
「え?違うの?」
「そう言う意味じゃない!俺の話を聞いていなかっただろう!」
こいつ、俺のことを見抜いただと!……只者じゃないな……
「そんなに驚いても意味ないからな?丸分かりだったから」
「えー、じゃあなんですか?短めにお願いします」
「お前、この学校やめろ」
ん?
辞める?
「仕方ありませんね、では今日辞めると言ってきますよ」
「そうだろう、いきなり言われてもってええええええ!!!!??」
「ええ!!辞めちゃうんですか!」
おっと、隣で友達?と話してたリーリエまでもが入ってきた。
「いやだって、ほら、俺別に来たくて来たわけじゃないし〜眠いし〜ぶっちゃけここに居ても何にも得るものないし〜今なら先生にこのよくわからんやつが辞めろって言ってきたって言えばいじめられた可哀想な子って事で注目浴びれるかもしれんし」
「な、な、お、お前!得るものがないだと!それは学長を馬鹿にしているのと同じだぞ!」
学長……?
「誰?」
「ええええ!知らないんですか! ?あのクレイジャー学長ですよ!ギムテット最強の魔法使いと言われている……あ、最強は賢者様でした」
賢者ついでかよぉ……あ、って今。やっぱ賢者って影が薄いのかな?
「へー……で、どうすれば辞めれる?」
「お、お前!嫌だといえば見逃すてやったのに!これ程までの屑だとは知らなかった!もういい!決闘を申し込む!」
(΄◉◞౪◟◉`)?
どう言うことだ?
こいつが辞めろっていって→俺が了承して→決闘
「その顔を辞めろ!お前が気にくわない!だから決闘で少しくらいはお前の性根を叩き直してやる!俺が勝ったらお前は学校に行ってもらう!お前が勝ったら好きにしていい!」
「なんだその不利な条件!?」
まあいいけどさあ。
「OKOK〜受ける受ける〜」
「あとお前俺の顔を見て話せ!」
っち。
どんな不細工か拝んでやろうじゃ……あああああ!!!!!!貴様あああ!!!イケメンだとぉ!?許せない!許せない!
「いいだろう!お前との決闘を受けてやる!絶対お前のその顔をボコボコにしてやる!」
「いやぁ、学長。今回はとても成績のよい子が入って来てくれて嬉しいですか?」
「そ、そうじゃな!」
なんか言ってるのは副長とか言うわしのお零れやろうじゃ。
こいつ早くどっか言ってくれんかノォ……
「学長、呼び出しがかかっております」
「おお!そうか!ではな、わしはちょっと野暮用じゃ」
……さてと、今年は本当に天才が来てくれたのぉ……
「来ましたか」
「ねむい〜」
「少しは我慢しろ」
「……」
「あ、このお菓子うまい」
部屋を開けるだけでここから逃げたくなるのはわしだけじゃろうか?
ここに集まっているのは国数英理社、そして魔わし。今年のテストを作った人間じゃ。
「まあ、鬱陶しいことは抜きにして本題に入る。……まず聞きたいんじゃが、ライアス・ヴォルフという名前に聞き覚えは?」
その瞬間、全員がピクリと反応する。
「やはりか……貴様らが同じタイミングで会議を開きたいと言ってきたからまさかとは思ったが……」
「ということは、学長の方も?」
わしは持ってきた紙を机の上に置く。
すると、全員同じように紙を置く。
紙は答案用紙。
回答者はライアス・ヴォルフ。
点数は
120点。
「全員か……」
やはりか。
「ありえねえよこのライアスってやつ。思いっきり大学の知識フル活用して簡単な問題解いてやがる。これ、そこいらの教授じゃ解けないのもあるぜ?」
そう言うのは数学担当キルス先生。
「この子の文字はとっても綺麗で、言葉遣いも美しいです〜これは120点ですね〜」
そう言うのは癒し担当……もとい、国語担当、オーラス先生。
「英語、完璧」
無口なのに今日は喋る。そんな英語科担当シュース先生。
「まさか絶対に解けないと思って出した大学物理を解かれるとは思っていなかった。私の完敗だ」
そう言うのは、理系担当ニクス先生。つうかこいつ何してんの?なんで高校受験にそんなもん出してんの?馬鹿なの?
「なんでこんな地名覚えてるのか?答え見たのかとも思ったが、推敲問題が僕の回答よりも美しい。悔しいが僕の負けだ」
悔しそうにしてるのはお菓子を食べてたリオン先生。
「……魔法科の方はどうでした?」
全員の目線がわしの方に集まる。
「……わしはな、そこそこの年月をかけて作ったまだ公開していない魔法があったんじゃ。それを出したらな……添削されて帰ってきたよ……この魔法の及ぼす効果が少しでも書いてあれば丸にしたのに、これでは効率が悪いだとか、無色をここで使う意味がわからないとか……まるで、わしがテストを受けている様じゃった」
この魔法、かなりの自信作で機械に対抗できる魔法じゃったんだが、完膚なきまでにボコボコにされた。
「……もう、わしは疲れた。もしかしたら彼が賢者様なのかもしれんな……」
「この事、副長には?」
「言えるわけがないだろう。あんな俗物で親の七光りだけであの地位にいるやつに」
そんな時、ドアがノックされる。
「大変です!学長!決闘が一年生の中で行われることとなりました!」
噂をすれば影とはこういう事を言うんだろうか?副長が慌てた様子で中に入ってくる。
「なんじゃ、確かに入って直ぐは珍しいが別にわしらがどうこうするわけじゃあるまいに」
「決闘する人物が問題なんです!あのアクレス家の長男ですよ!」
アクレス家か……あそこはそこそこ大きい家だな。まあ、こいつも自分の派閥を作りたいにだろう。わしとしては別段どうでも良い。
「あの平民!ライアスとか言った奴が学校をやめるとか言い出したんですよ!」
「は?」
え?
学校を?
やめる?
待って?
待ってくれ。
お前、それはないだろう?
よく見ると、周りの先生もわしと同じ様な顔をしておる。
「それをアクレス家の長男様が止めようとしたのです!素晴らしい人格ですよ!」
「そうじゃな!これは是非ともアクレス家の長男に勝ってもらわないとな!」
……やべえぞ?
ここでこの人材との縁を切るのはわしとしてはかなり痛い。
これは直接会うのも手かもしれんのう……
「?学長、他の先生方がどこかに走っていったんですが?」
あいつら先越しやがった!?