子連れエルフ物語 ~森に捨てられていたウチの子、もしかしたら……天才かもしれない……!~
森の外れに私の家はあります。
私は同族から少し敬遠されており、集落からもかなり遠いです。
今日は日課の森のお散歩。
やっぱり、エルフは偶に森林浴しないと木になってしまいますね!
ちなみに、これは私の中で鉄板の『エルフ的ギャグ』です。
昔人間の仲間に言ったとき「意味が分からない。エルフにギャグセンスはないみたいだ」と言われたので、今は封印しています。(ぷんぷん!)
同族には、もう言いませんよ。
そもそも私は、同族には遠ざけられていますからね。
最後に言ったのは少し昔です。
……確か五百年ぐらい前でしたかね?
まあ昔のことはともかく、私は木にならない為にも森の中を歩いているのです。
「ああ……! うああ……!」
ん? どこからか何か聞こえてきたような……?
「うあああ! あああうあああう!」
これは……子どもの泣き声……!?
私は、すぐさま使い慣れた探索魔法の精度を上げます。
野生動物や、魔物を探索からはじくと、百メートルくらい先に反応が残りました。
おそらくこの反応が声の正体ですね。
自身の体に強化魔法をかけ、全速力でその場所へと向かいます。
「見つけました……!」
木の幹の穴に納められるようにして、その子はいました。
幸い近くに魔物はいなかったみたいですね……。
赤ん坊は私の姿を見止めると、泣きやみ、あどけない瞳を向けてきました。
「捨て子、ですか……」
この森の付近にはエルフ以外の人里はありません。
わざわざこんなところに置いたということは……それ以外に考えられませんね。
世の中には、子どもを育てたくても育てられない人がいるというのに……酷いことをするものです。
しかし、実際にはこの森に子どもを捨てに来る人間は多いです。
原則的に、エルフは人間を里に受け入れることはありません。
だからこういう捨て子は『見つけても放置せよ』というのがエルフの掟です。
ですが私には……見つけてしまった以上、命を見捨てることはできません。
「君のお名前は、なんというのですかぁ?」
私は猫なで声を出しながら、子どもに手を差し伸ばし、抱き抱えました。
「ううああううう」
嬉しそうに声を上げる子どもの首には、〈R・S〉と描かれたプレートが掛けてあります。
「……人間の文字で……アル……スー……?」
私は百年以上前の記憶を呼び起こします。
若干自信がないですね……。
「アル、アルス……! あなたの名前はアルスですね!」
とりあえず便宜的にも、名前は勝手につけさせてもらいましょう。
「それで、アルス君はどうしてここにきたのですかぁ?」
魔法でアルス君の思考を読んでみますが、やはり赤ん坊の思考は、かなり読みづらいですね……何も分かりません。
「とりあえず、家に行きましょうか?」
私は来た道を、アルス君を抱えながら歩いていきます。
私達はずっと笑顔のままでした。
その後は大変でした。
私は子どもを育てたことがありません。
ご飯もおしめも、何もかもが初めての経験で……。
でもその全てが私には楽しかったのです。
そういえば、あのときは気付きませんでしたが、名前の刻んであったプレートの裏には、人間の使う暦が刻まれていたのです。
そのプレートがこの子の誕生日だとすると、この子は一歳ということです。
ならこの子は間違いなく天才ですね……。
だって、この子はもう歩いているんです!
確か、昔エルフ友達に訊いた話では、『赤子というのは大体三年ほどして、つかまり立ちができるようになる』だそうですから、この子は間違いなく大天才です!
だって、三倍ですよ、三倍!
凄すぎます……!
まあ、魔法の才能は他の赤子とあまり変わらないようなので、魔法を尊ぶ『精神の存在』と呼ばれるエルフにとっては、さほど重要ではないかもしれません。
でも、このアルの可愛さだけでもいいですから、今すぐにでもエルフの里で自慢してあげたいくらいです!
でも……それはできません。
あの頭の固いエルフどもは、私がお願いしたにもかかわらず、『人間の赤子を捨てねば森を追放する』と言ってのけたのです!
分かりましたよ、出て行ってやりますよ!
どうせ、人間のアルスがこれから暮らしていくなら、ずっとここには居られませんからね!
そう決めてからは早いものでした。
私は、昔愛用していた黒いローブと、それに色を合わせた三角帽を引っ張り出し、旅装を整えました。
この格好は、昔旅の仲間だった人間に、「魔法使いと言えば、この格好だ」と言われてからずっと愛用していました。
他の仲間の一人には「幼児体型だから魔法少女みたいだな」と言われました。
意味はよく分かりませんでしたが、ムカついたので火あぶりにしました。
まあ、昔のことは良いです。
あいつらが気付く前に出ていかなければなりませんからね。
それから私は、ここ五十年ほどお世話になった家に、頭を下げて別れを告げました。
今考えると、この家に定住していた期間は、これまでの人生で一番長かったかもしれませんね。
「さあ行きましょうか、アル?」
私はニッコリと微笑み、高い高いをしながらアルスに尋ねました。
「あううああ、まんまぁ」
こ、この子今私のことをま、ま、ままま、ママって……!
て、天才です! 間違いなくこの子は天才です!
確か以前エルフの――(以下略)
私はアルを腕に抱えながら、森を抜け、近くの街道に至りました。
エルフの奴らは、なんのアテもない私が出ていくとは思っていなかったでしょうね。
でも、私にだってコネくらいあるんです。
さてと、最初の目的地は、昔の仲間が治めていた国に行ってみましょう。
アルと一緒ならどこへ行っても楽しいでしょうからね!
「楽しいですねえ、アルゥ?」
「あうあ、まんま、まんまぁ」
アルにママと言われる度に、私の心は満たされるのでした。
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