使者使い
微かな振動に揺さぶられ瞼に光が射し込む。少しずつ脳が冴え、鼻にツンとした獣臭が…んっ?獣臭?ハッと目を覚ます。正装のスーツは着ているポケットにスマホの重みはあるがしかし何かがおかしい、そう思い周りを見渡す。そこにいたのは…
「えっ?犬?」
「アォーン!」
「アォン!」
「いてっ、急に手を離すなよ!」
二足歩行の犬が居た。荒々しく粗雑な服を着た犬。俺はこの犬に担ぐ様に運ばれていて急に動いた俺に驚いたのかがっつり頭から落ちてしまう。
えっ?えっ?何この犬?なんかこの見た目どこかで見たことある気がしなくもなくも…あっ。
「…コボルト」
思い出した、ガチャバトルで出てくる最低ランクモンスター『コボルト』題名通りガチャを回して強くなるゲームだからこそ最弱モンスターは大量に出てくる。あれ?こんな説明してるけどおかしくない?カプッ
「ア゛ア゛ア゛ア゛頭がぁぁぁぁ」
「アォーン!」
犬の魔物『コボルト』肉と骨が好物って説明に書いてたよな、よく考えなくても俺肉と骨だよな、食べられる!?てか食べられてる!?に、逃げなきゃ…
「ぃぃぃやぁぁぁああああ!」
それはもう全力で逃げた、走って走って走りまくった後ろからは俺を運んでいたコボルトが勿論追いかけてきている四足歩行でまさに獣と言った走り方、ここで止まると俺、死ぬ!
息が途切れ途切れになっても走り続け肺が潰れそうになるほど走った結果。
「コボルトの棲…家…」
そこはコボルト達の集落だった。えっ?え?詰んでない?ダメじゃん!俺死んじゃうじゃん!
「アォーン!」
後ろから追いかけてきていたコボルトが「追い詰めたぞ」とでも言うように勝利の雄叫びをあげる。それに共鳴するようにコボルトの棲家にいたやつらも雄叫びをあげる。逃げ道が…無い。頭に鈍い痛みがはしり意識が飛んでいく。
「いや…だ…」
パチパチ
パチパチ
パチパチ
パキ パキ
パチパチ
何が焼ける音と熱気で目を開く。この状況、俺、焼かれてる。謎の悟りを開いた俺は何故かとても冷静だった。炎が弾け着ていたスーツに届きそうになる。そんなことも気にせず俺は周りに使える物を探していた。死ぬつもりで死んだつもりが俺はまだ死にたくないらしい。いや、死ぬつもりで死んだってなにかおかしい気がしなくも…ん?あれは?
「人骨…」
俺が起きたことに気付いたコボルト達はキャッキャと焚き火の回りを踊っている。いくつもの骨が乱雑に焚き火の近くにばら蒔かれている。おそらくここで焼いて食べた人や動物の骨だろう。しかし今はこんなものに興味は無いとでも言う様に踊るコボルト、俺はこんな物に成り下がるのか。また1つ大きな火種が舞い上がるそれは吸い込まれる様に黒いスーツに入り込み、熱が肌に伝わる。冷静だった心は途端に、熱を帯びた。
「こんなとこで…こんなところで死ねるかよ!」
矛盾しているのは分かっている人生に、会社に疲れて死を選び何故か生き返った世界で理不尽な死。許せるか?俺は許せないこんなことをこんなところでこんなときに。先程までの冷静だった姿はそこには無く、生きる理由が怒りだとしても。カタ
「アチッィほどけ!こっの!」
民族特集テレビで動物を丸焼きにする為に棒に手足を縛られているのを見たことあるが、その縛り方をされている俺はただ暴れることしか出来ない、ガタガタガタ、揺らしすぎたか、それともコボルトの作りが悪いのか手足を縛られ俺の全体重を支えていた木が折れた、炎の中に勿論俺は落ちていく。
「クッソォ!テメェら許さねぇ!ぜってえ許さねぇ助けろよ!」
口だけは豪胆な俺が死ぬことを楽しむ様にキャッキャと騒ぐコボルト「アォーン!」「アォーン!」と雄叫びをあげるコボルト勿論コボルトが助ける訳もなく、刻一刻と火が体を包み込む。様々いるがコイツらが考えていることは1つ。いや、なにも考えて無いかも知れないこれはコイツらの中の日常で俺が死ぬ事に意味は無くただの食事の為の料理。カタカタカタカタ
ひょいっと俺の体は持ち上げられ雑に投げ飛ばされる。今まで気付いて無かったがこれものすごい、アッチィ!ゴロゴロと体を地面に擦り付け火を消す。少し馬鹿っぽいのは仕方ない、仕方ない…
「助か…った?でも、誰が…」
「カタカタカタ」
骨が動いていた。
「えっ!?骨!?」
「カタカタ」
声とも言えない骨同士が擦れあい音を鳴らす。何故かわからないが仲間という感覚がある。だが今こんなことを考えるより。
「コボルト…お前らぁ…」
メラメラと消したはずを炎が怒りと言う薪にファイヤーしだす。きっと俺の背後には般若に似た何かしらの悪魔が現れていたと思う。
「誰のか知らんが骨借りるぞ!」
「アォーン!」
「あっ!逃げんな犬っころ!」
鬼の形相でコボルトを追いかけ回す。逃がさん!逃がさんぞ!
「26歳成人男性の脚力舐めんなよ!うううおおおお!」
それはそれは俊敏に空を翔るかの如く飛び上がり。それはそれは豪快なフルスイングで骨を武器にコボルトに殴りかかる。
「キャオン」と小さな叫びをあげて崩れるコボルト、こんなことあそこでやってたら動物愛護団体になに言われるかって、そんなこと考えてる場合じゃない!なんかノリと勢いと気合いでやっちゃったけど回りのコボルト達の目がヤバイよ、ヤル気もとい殺る気満々だよ!けどまだここで死ぬわけには…
「グルルルゥ」
「いっちょまえにラスボスっぽい声だしやがって!あぁ待って!そんなに急に来られると心の準備がッ!」
「キャインッ」
「なーんてね☆」
またまた骨を武器にカウンターふふふ、犬っころの頭で人間様に勝てるわけなかろうて!まだまだ俺の怒りはこんなもんじゃないと転けた犬っころにのし掛かり攻防一転ぼこすかと殴りかかる。しばらくするとピクピクと痙攣するばかりに動きが鈍くなる、それを見ていた他のコボルト達を見ると「お前が行けよ」「嫌だと先にお前が行けよ」と言わんばかりに小突き合いをしていた。
「ふっははは!見たか俺の勇姿!お前らなんかに負けたりしないんだよ!」
スポーツはあまり見たこと無いが相手を煽るかのように骨を片手にホームラン予告のポーズを向ける。意味は分からぬとも馬鹿にされてるのは気付いたのか鼻息を荒くしてコボルト達が一斉に襲ってくる。
「ちょっ、そんな一気に来るとか聞いてないって!いやぁぁぁぁ」
「カタカタカタ」「カタカタカタ」
コツンと心地のいい音と共に聞き覚えのある音が聞こえ2体の骸骨が俺を守るようにコボルト達の前に立ち塞がって居た。
「えっ?骨って動けるの?」
先ほどは自然に無視してたけどあれ?これ幽霊とかそういうやつじゃない?恐くない?というか増えてない?なんか知らないけど味方っぽいし。
「いけっ、骨!犬っころ達を殺せ!」
「カタカタ」
ポキッと肩の付けねから片腕を外し2体はコボルト達に向かうブンブンと少し楽しそうに言葉通り腕を振り回しバッタバタと敵をなぎ倒し…てはないな。子供の喧嘩かのように振られた骨に噛みつくコボルト。いやはやしかしこうやって見るとコボルト案外かわいいのか?と少し考えながらコボルトの後ろに回り…
「んなわけないだろ!」
「キャイッ」
骸骨に夢中のコボルトの脳天に渾身の一発を叩き込む。一匹また一匹と骸骨を盾に気絶させていく。故意ではなく偶然気絶にすんでる訳だがふらふらと千鳥足で倒れるコボルト達を一ヶ所に纏めて縛る、縄はコボルト達が作ったのか俺を縛った物と同じ様な縄を使い動けないようにする。
「ふう、一仕事完了っと」
「カタカタ」「カタカタ」
「えっ?」
気絶していたコボルト達を骸骨が殴る。いつの間にか外した腕をはめていて両手でコボルトの顔を無表情に殴る。骸骨に表情があるかはおいといて。
「まてまて!止まって!止まって!」
「カタ?」「カタ?」
2体はピタッと動きを止めるがその表情には疑問が浮かんでいた。コボルトと達は怯える様に耳を伏せ少しでも逃げようと無駄に足を地面に擦らせる。そこには最初の時の様な野生で狂暴な生き物の姿はなく。いつも俺がしていた様な媚び諂う形相が浮かんでいた。
「よしお前ら、これから俺がお前達を教育する。わかったか?」
「カタカタカタ」
「それとお前らコボルト、お前達もだ」
「「「きゃいん」」」
_リンク_
_種族_コボルト_パートナー化_
_完了_