1話 双子への転生
どうぞよしなに。
夏休み初日、蝉の声がうるさく、夏という季節を強く感じさせるようなそんな日。僕は家族と一緒に旅行に向けての買い物に家から近くのショッピングモールに出かけていた。今は父、母、姉、妹と家族全員で買い物に来ている。
「はい、太一これもよろしく〜」
「もう美希お姉ちゃん、太一兄に荷物持たせすぎだよー。太一兄、やっぱり私の分は自分でもとっか?」
僕に荷物をもたせて来たのが姉の柊木美希。そして、僕からいま自分の分の買い物袋を一つとってくれたのが妹の柊木美緒である。
「相変わらず太一に甘々ねー美緒、太一は男の子なんだから荷物ぐらい持てるわよ」
「いやいや、いま何個袋持ってると思ってんだよ美希姉、8個だよ、8個。美希姉もちょっとは持ってよ」
「もぉほんとに情けないな太一わ。あっ、じゃあおねえちゃんがエネルギー注入してあげるわ!」
会話のために一度袋を置いていた太一に対して、そう言って美希は頬に軽いキスをする。周りにいる人は少し驚いた様子だが、柊木家ではよくある光景である。
太一たち家族は中2までアメリカで暮らしていたので、家族での軽いキスくらいは普通のことだと思っていた。日本に来てからは太一は人の目があるときは家族でもキスはしないようにしていたが美希はそこらへんをあまり気にしないので、度々人の目を集めてしまう。
「はぁー、全然エネルギーなんて入ってこないんだけど」
「まったく美希お姉ちゃんはちょっとは気にしてくれないとこっちが周りから見られて恥ずかしいのに」
文句を垂れる美緒の頭を撫でながら、それでも美希姉や美緒の快適なショッピングのために荷物を持ち続ける太一であった。
あまり交友関係が広くない太一は家族愛が強く、少々シスコンなところがあると自覚している(周りから見たら異常なほど)。
家族でショッピングモールで買い物をし終えて、歩いて帰っていた。
「それにしても太一はいつも姉妹に囲まれて大変そうだな〜」
「そうね、もう少し男の子っぽくなってもいいとおもうんですけどね」
「そんなこと言う余裕があるんなら、僕が持ってる荷物、少しは持ってよ父さん」
「バカだな太一、そんなことしたら母さんと手をつなげないだろ!」
「もぉお父さんったら、照れるわよ」
「はっはっは、照れてる母さんもかわいいなぁ」
こんな子供の前でいちゃいちゃしているのが僕の父さんの柊木直人と、母さんの柊木美紅である。
そんなおしどり夫婦から目を背けた太一。
「もー、おいてくよ太一」
「姉ちゃんと違って、俺は荷物持ってんだよ。流石に疲れてきてんだかんな!」
俺の叫びを無視して美希姉はさっさと歩いていってしまう。そして、俺だけが十字路の信号に止められてしまった。
「「置いてっちゃうぞー」」
美希姉と美緒が声を揃えてこちらに手を振って待ってくれている。
信号が変わるのを待っている間、太一はなんとなしに十字路の左側を見た。すると、急に向こう側から猫が飛び出してきた。黒くて目が輝いて見える可愛い猫だった。ノラ猫だろうかとみていると、ちょうどその時視界の外から大きな走行音が聞こえてくる。音のしている方向を見てみると、トラックが右側から走ってきていた。
はっ、となり猫を見る。
そこには音に驚いたのか、動けずに縮こまった姿の猫がいた。トラックの運転手が気づいているような素振りはない。とっさに体が動いた。太一は両手の荷物を投げ捨て、猫を助けようと駆け出す。自分でもなぜこんな行動に出たのかわからなかった、ただ体が動いた。
猫を抱えた太一はなんとかトラックを避けようとするが、目の前にはブレーキ音を大きく鳴らしながら迫ってくるトラックが見えた。音が消え急に時間がゆっくり動いているように感じる、トラックの運転手の驚愕した顔がはっきりとみえる。交差点の先には絶望したような家族の顔が一瞬だがしっかりと見えてしまった。次の瞬間、太一はトラックに轢かれ、大きく飛ばされる。地面に強く叩きつけられ、自分の体から血が出ているのがわかる。抱えている猫を見ると自分の手を必死に舐めている、遠くからは家族が大きな声を出しながら駆け寄ってきている。しかし太一にはもう夏のうるさい蝉の声も、家族がなにを言っているのかわからない。
とりあえず、猫を助けれてよかった、それだけを思い太一は意識を手放し、冷たい死を受け入れる。
次に目が覚めた時、そこは真っ暗な空間だった。
なにも見えず、困惑する太一の前に、小さな光が現れる。
「私の名はユリア。一応、女神と呼ばれるものです。柊木太一さん、あなたは前世で亡くなってしまいました。しかし、あなたに私は転生の機会を差し上げましょう」
小さな光もとい、女神様が話しかけてきた。
「なぜ僕なんかが選ばれたんですか。僕は別に自分が何か特別な人間だとは思いませんけど…」
「確かにあなたは特別な人間ではありません。この世に他の命を救って亡くなってしまう人は大勢いるのですから」
「だから僕はなぜか聞いてるんですが?」
「なんとなくです」
「はい?」
「だからなんとなくですよ、たまたま人の世界を見ていて目について、あ〜、この子転生させてみよっかな〜、って思ったからあなたを転生させることにしたんですから」
太一は呆然としていた。
(はあー、なんだそれ!え、じゃあ神の気まぐれで僕は転生させられるのか、いやおかしいだろ、ちょっと僕がなにか特別な力でもあるのかとか思っちゃったじゃないか!)
そんな心の中の叫びが聞こえているのか、女神様はにやにやしながら太一を見ている。
「それでは次の世界でも頑張ってくださいねー」
「ちょっと待てー」
まだ会話が続くと思っていた太一は急な展開に抗議しようとする。しかし、体は光だし浮遊感が体を包み込んでいく。
「バイバーイ」
そんな女神の気楽な言葉とともに太一は異世界に放り込まれた。
ーーーー
僕が目を覚ますとそこには二人の男女がいた。日本ではあまり見ない。しかし、太一は少し懐かしいような気がした、そこには西洋風の顔立ちをした人たちがいたからだ。元々アメリカに住んでいた太一にはよく知った感じだった。
その二人はとても幸せそうな顔で僕のことを見ている。
(誰だこの人たちは?なんで僕のこと見てんだ?)
手を伸ばしてみると、そこにはとても短く可愛らしい手が見えた。驚いて顔を動かしてみると鏡が見えた。
その鏡には1人の赤ん坊の姿があった。そこで太一はやっと自分が赤ん坊として転生したことを知る。
見上げるとこの世界での両親の顔がわかる。
父親は髪はダークブルー、瞳はブラウン、体型はがっしりしており、よく鍛えられているのがよく分かる。男らしく、頼り甲斐がありそうだ。
母親は髪はライトブラウン、瞳はブルー、体型はすらっとしているが、子供を産んだ後だからか少しお腹が出ている。かなり美人だとおもう。
「エミールありがとう、元気な子を産んでくれてほんとにありがとう」
「私もあなたとの間に子供ができて嬉しいわ、ベル。
この子達を産むのは難しいとお医者さんに言われた時は不安になったけどね」
夫婦がとても幸せそうに話している。しかし、太一は母親が言った"この子達"という言葉を聞き逃さなかった。
太一が鏡をもう一度見ると自分の体の奥には赤ん坊用のベットがあることがわかった。
そちらをみてみると、そこには寝転んでいるもう1人の赤ん坊がいた。そう太一が転生したのは双子の弟だった。
side愛里
わたしは病院のベットでいつも目を覚ます。
普通の子は外で遊んでいる時も、病院のベットの上で本を読んだり、アニメを見たりしか出来ない。
わたし木村愛里は小さい頃から体が弱く、運動も得意では無かった。しかし、体を動かすのは好きで、よく外で遊んでいた。しかし、学校では体が弱いことをからかわれることもあり、学校に行かない日がドンドン増えていった。
そこでわたしはゲームやアニメ、マンガなどの2次創作物に興味をもった。ゲームの中では私は勇者にもなれたし、スポーツもできた。
たまに行く学校でも、同じ趣味をもつ友達を見つけて、色々なことを話し合っていた。やっと学校に行くのも楽しくなって来た頃から少し体に違和感を感じるようになってきていた。毎日体調が悪くなっているような気がした。
しかし、わたしはそこで病院へ行くと今の楽しい学校生活がまた遠ざかってしまうのではと考え、無理をしながらも学校に行く回数を増やしていった。このときいち早く病院へ行っていれば、わたしの運命は変わっていたのかもしれない。
そんな日々が続き、体調はドンドン悪化していた。最後には倒れてしまい、わたしは病院に運ばれた。
病院での検査の結果は末期のガンだった。医者からは余命は3ヶ月ほどだと知らされる。それを聞いてもわたしはあまり実感は沸かなかった。自分があと3ヶ月で死ぬなんて信じられなかったし、信じたく無かった。親の泣いている姿を見てやっと実感が湧いてきた。死ぬのが急に怖くなり体が震えた。
月日の流れを感じないように、自分の楽しいと感じることだけをやった。小説を読み、アニメを見る。昔は好きだった、外で遊ぶこともした。好きなことをしている間は時間を忘れることができるから。
しかし、現実はわたしの気持ちなど関係なく進んで行く。3ヶ月という時間はあっという間に過ぎて行く。次第に体は動かなっていき、3ヶ月後、わたしは家族に見守られながら息を引き取った。
次にわたしが意識を取り戻したのは、真っ白な空間だった。
「ここどこ?わたし確かに死んだよね」
周りを見渡してもなにもないただの広い空間にわたしはいた。すると愛里の前に小さな光が現れる。
「私の名はメシア。転生の女神と呼ばれています。私は世界を観察し、私の目に止まったものを転生させ、新しい世界に送っています。今回はあなたが選ばせていただきました」
「転生きたーーー!え、わたし転生できちゃうの、いやーもしできたらとか考えてたこともあったけどほんとにきちゃったか」
「え、えーと話し続けされていただいてもいいですか?」
「あっ、すいませんテンション上がっちゃって、それでわたしが行くのはどんな世界ですか!剣と魔法の世界ですか!」
「は、はいあなたがその様な世界を望むのであれば、
剣と魔法の世界に転生させましょう」
(あれ、こんな感じの人だったの?いきてる間はすごい大人しそうな子だったのに…)
愛里はとても興奮していた。自分が読んでいた小説やゲームでもよくあるものだった転生。それを自分ができるという高揚感が体を包んでいた。生前とはまるで別人のように興奮していた。
「それでは転生に移ります。あなたの次の人生に幸多からんことを祈っています」
そんな女神からの送り言葉を聞きながら、愛里の体が光だし、浮遊感が体を包み込む。
(憧れの異世界、楽しむぞー!)
気合十分、愛里は異世界に送られた。
ーーーー
わたしが目を覚ますとそこには二人の男女がいた。
二人はとても幸せそうな顔でわたしをみている。
(この人たちがこの世界でのわたしのお父さんとお母さんなのね。顔も整っていて西洋風の顔立ちをしているわね)
自分の姿を確認するために愛里は周りを見渡してみる。近くに鏡があり、自分の姿を見ることができた。
「エミール、見てくれ可愛い女の子だよ」
お父さんの呼びかけにお母さんは少し辛そうな顔をしながら答える。
「はあ、よかった。元気そうな女の子ね。うっ」
お母さんはまだお腹がいたそうな顔をしている。お父さんはわたしを横にあった赤ん坊用のベットに寝かせて、お母さんに駆け寄る。
「頑張れエミール、もう少しだけ頑張ってくれ」
「ベル、手を、手を握ってくれるかしら」
お母さんの綺麗な顔を歪ませながらお父さんに手を握ってもらっている。お父さんも額に汗をにじませながら、お母さんを励まし続けている。
(へー双子とはまた珍しいわね、前世では姉妹はいなかったし、少し新鮮かもね)
私の弟はすぐに生まれた。お父さんもお母さんもすごく優しい笑顔で観ている。生まれた直後は大きな声で泣き生命の誕生を感じさせる、泣きやんだ後は頭を動かして周りを見ている。わたしとも目があった。そこにはなぜか知的な輝きがあるように私は感じた。
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