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そう、魔眼ならね

 あれから半年。ひたすら毎日左目に魔力を注いでいた俺だが、最近になってようやく見える景色に変化が起きた。


「ま、魔力が見える、だと......」


 高密度の魔力に長時間晒された俺の左目は魔力を捉える第六感覚器官に進化したのだった。


「空気中にも薄っすらと魔力が漂っているのか」


 おそらくだが色の濃淡が魔力密度を表しているのだろう。わからないことだらけだが、ともあれこれで魔法の研究は捗るはずだ。魔眼の利点は計り知れない。


「久しぶりに部屋の外に出てみるか」


 孤独を極めて独り言が増えた俺。ブツブツ呟きながら朝食の席に向かう。


「おはようザラム!」


「おはようございます、姉上」


「あら、こんな朝早くに珍しいじゃない」


「偶には日光浴でもしようと思いまして......」


「本当は毎日しなきゃダメなのよ?」


「なかなか気が乗らなくて」


「もう! ダメな弟なんだから」


 どことなく嬉しそうなエレオノーラ。彼女のオレンジ色の魔力に心が温められていく。


「あれ、俺の魔力は黒いのに......」


「いきなりどうしたの?」


「......い、いえ、なんでもありません」


「そう? なら良いんだけど......」


 引きこもりの弊害が出た。普段話し相手がいないため、ついつい独り言を漏らしてしまうのだ。

 それにしても、人によって魔力の色が異なるのか......。まだまだ知らないことがたくさんあるようだ。


「そういえば、セルド兄様とルクシア姉様はまだ一緒の食事を取れないのですね」


「ザラムがおかしいのよ。普通一歳じゃ離乳食なのに......」


「離乳食なんて不味くて逆に食べれませんよ」


「やっぱりおかしいわ......」


 不満げな彼女と共に食卓に着く。そこには既に両親とロマリオがいた。


「おお! ザラムじゃないか! 元気になったのか!」


「まあ! あなた、今日はご馳走が必要よ!」


「そうだな、そうだな!」


 俺が部屋を出るだけで大燥ぎする両親。うんざりして折角の上機嫌に影が差す。


「いや、別にいいですから」


「そ、そうか? ご馳走は嫌か、そうか......」


「ええ、まあ」


「なんにせよ朝からザラムと会えて嬉しいわあ!」


「はあ......もう早く食べましょうよ」


 ニコニコ笑顔の母親に毒気を抜かれ、使用人が運んできた皿に手をつける。

 白いパンに肉料理。今日の味付けはまあまあ美味しい方だ。


「今日の味なら毎日食べてもいいかもしれません」


「本当か?! おいコック! 聞いていたな? ザラムを満足させる料理を作り続けなければお前はクビだ!!」


「あらまあ、ちょっと厳しすぎるのではなくって? でもザラムのためだものね、仕方ないわあ」


 両親の笑顔とコックの絶望顔。

 コックさんごめんよ。俺の気まぐれの犠牲になってしまって......。骨だけは拾ってあげるからね!


「ところでザラムよ」


「なんでしょうか、父上」


 躊躇いがちに切り出す親父。こういう時は大抵込み入った話だ。

 俺に一体何の用だろうか? 親父にしては随分と珍しいことなので聞くだけ聞いてみる。


「いやなに、お前は頭が良いからな。そろそろ習い事を始めてみてもいいんじゃないかと思ってな? どうだ、何かやってみないか?」


「そうですね......面倒臭いのは嫌なのですが」


「しかしな......避けては通れない道だぞ?」


「そうよお。早く始めれば早く終わるわよ?」


 いつもより押しが強い両親。確かに魔法の研究はしようと思っていたので都合がいいとも言える。正直孤独に耐えかねて心が荒んでいたのでありがたさもあった。

 しかし俺は面倒ごとが嫌いでもあるのだ。この際だから一気に全部済ませることにした。


「......わかりました。全部やります」


「「はぁっ?!」」


 悲壮な決意を搔き消したのはロマリオとエレオノーラ。


「ザラム、いくらお前でも流石にそれは......」


「そうよ! あなたまだ一歳じゃない」


「でも......勉強とか稽古とか怠いですし。他にやることもないですから」


「やってくれるのかザラム! 流石私たちの子どもだな!」


「自慢の息子だわあ」


「 「............」」


 大喜びする両親。彼らに押し切られ黙り込んだ兄姉。

 俺は溜め息と共に自室に戻った。



 俺の魔法の家庭教師になったのは、引退した元魔道士団長だった。

 濃密な魔力密度、繊細な魔力操作。彼はその偉大さを讃えた人々から大賢者と呼ばれた英傑だ。現役時代の数え切れないほどの功績がその名を不動のものにしていた。

 そんな偉人がどうして一歳のガキの面倒を見ることになったのかというと......。


「お主、魔力で女を失禁させたというのは本当かね?」


 これである。この爺さん、あの事件の噂に釣られて両親に頼み込んだそうだ。心なしか鼻の下がゆるゆるに伸びきっている。


「まさかあんなことになるとは思わなくて......」


「魔力は人に威圧感を与えるからの」


「......そうなんですか」


「しかしお主一体どうやったのだ? それほど魔力量が多そうには見えんがの」


「よくわかりません。というか僕は教えられる側なんですが」


「ほっほっほ! 儂もまだまだ若いということじゃな!」


「ただの変態爺かよ。教える気がないなら失せろ」


「それがお主の素の姿じゃな?」


 急に真面目な表情になった大賢者。

 俺に探りを入れるとは食えない奴だ。


「俺に一体何の用だ?」


「ふむ。お主なら大丈夫そうじゃな」


「......」


「そう睨むな。身に余る才は破滅を招くということじゃ」


「肝に命じておこう」


 ひとまず忠告をありがたく受け取る。厄介事など御免だし。


「それで? お主、儂から学ぶことなどあるかの?」


「ちっ、俺は一歳だぞ? 少しは手加減しろよ」


「ほっほっほ! それを聞いて安心したわい! 釘を刺す必要もなかったようじゃの」


 油断も隙も無い。つくづく恐ろしい爺さんだ。


「聞きたいことがあるのも事実だしな」


「ほう? 何が聞きたい?」


「人間って魔力密度はなんとなく感じられるだろ?」


「そうじゃな。それこそお主がよく知っておるはずじゃ」


「他に知覚方法はないのか? 例えば目で見えれば圧倒的に有利だろ?」


「うーむ、儂でもそんな話は聞いたことがないのぉ......」


「そうか、残念だ」


 どうやら魔眼を持つのは知る限り俺だけらしい。未成熟な体であるが故に突然変異を起こしたといったところだろうか。


「他には何かあるかの?」


「特にはないな。基礎を一から教えてくれ」


「不毛だと思うのじゃが」


「そうするように言ったのはあんただろ?」


「ふん、可愛げのないガキじゃわい」

レポート等忙しくてここで一旦区切ります

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