表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千秋先輩と僕  作者: すたた
社会学もの
1/4

千秋先輩と僕(自殺編)

 

 ◇◆◇


 ――放課後 教室



「どうして自殺しちゃいけないのか考えてるわけだよ」


 突然、千秋先輩はそんなことを言った。


 千秋先輩はどこか不安定なところがある一つ上の女性の先輩で、今日の自殺を考える会(名前は日によって変わる)という非公認の集まりの会長でもある。


 そして、アブナイ人を見過ごせないところのある僕は何や彼やと千秋先輩の世話焼き係をやっている。


 もちろん今日の自殺を考える会は別に自殺したい人の集まりというわけではない。

社会悪とされる自殺という衝動に何故ヒトは囚われてしまうのかという問いについて真摯に議論を交わす(真似事をする)会というらしかった。

世事に疎い僕には分からないが、きっと何かワイドショーの影響を受けたに違いない。


 前述の通り千秋先輩が会長を務め、いつの間にやら僕は名誉会員一号という肩書きを貰っていた。

 もとい、押し付けられていた。


「どうして自殺しちゃいけないのか考えてるわけだよ」


 千秋先輩は繰り返した。


「聞こえてますよ」


 面倒臭そうに僕が言うと、


「ならばなぜ返事をしない?」


 と先輩は不機嫌そうに言った。


 僕は肩をすくめる。


「何を考えてるかじゃなくて、どう考えてるかを言ってくれないと議論にならないじゃないですか」


 先輩はむむっと眉根を寄せる。


「そうだな…」


 と呟き一息ついて窓の外を見た。


「私はむしろ自殺については肯定的だな。自己決定権のひとつに含めてもいいとさえ思っている。生き方ばかりに縛られて世の中随分窮屈じゃないか…」


 僕は憂いを帯びた窓辺の横顔を見た。


 先輩が時折見せるこういう大人びた表情に僕はいつも心密かにドキドキしていた。


「先輩は……窮屈なんですか?」


 我ながら際どい質問だと思う。


「あくまで一般論さ……」


 先輩は振り向いて笑った。


 からかわれているのかも知れなかった。


「何を見たか知りませんけど、クローズアップされた部分を見て全体を語るのは良くないですよ」


 僕はつい逃げ道を塞いで話を先輩の事情に戻そうとしたが先輩はあっさりとした態度で、では部分として語ろう、と引き下がった。


「そういう人もいるという話さ。死にたい、自殺しよう、そんな風に考えた人でも死んじゃいけないよって言うだけの理由を私は知らない」


 先輩に唐突に視線を向けられて僕は慌てて目を逸らす。


「僕だって知りませんよ。というかソレ、理由要ります?」


 見とれていた焦りからか自分でもちょっとどうかと思う投げやりな返答をしてしまった。


「理由も要らないとは随分乱暴だな、キミは……」


 今度は先輩が肩をすくめる。


「自殺したい人の事情なんてケースバイケースでしょう?ソレを止める万能なコトバなんて正体の掴めないオバケみたいなものでしょうに。探すだけ無駄ですよ」


「探すだけ無駄か……。議論の前に結論を迎えるとは流石の私も言葉が無いよ」


 と言って先輩は苦笑した。


「じゃあ次善策として最大公約数的な理由をつけてみますか?」


「いや、その前にキミ自身が自殺についてどういう印象を持っているか聞きたいね」


 と先輩は歩み寄ってきて僕の机の上に腰掛けた。


 僕は額に手を当てて目を瞑る。


 たっぷり10秒ほどの沈黙。


 結論らしい結論を迎えられないまま僕は口を開いた。


「なんでしょうね、余裕なかったんだなぁとしか……。善悪とは関係ないところにありますね」


「それは自殺する人への感想だろう。自殺という行為に対する表現としては妥当じゃないね」


「でも自殺という行為性がヒトと不可分なわけで、人から離れて自殺を捉えるのは難しくないですか?」


「そうかな?感情移入してしまうなら記号化すれば良い。梁に縄が垂れていて、そこに「へのへのもへじ」の案山子が下がっていると考えたらどうだ?」


「案山子ですか?」


「案山子だ」


 シュールだ。


「案山子は生きてないですよ?」


「誰だって死んだら死体さ。そう変わらない。記号化するっていうのはそういうことだよ」


 そう言われて僕はまた目を瞑って、今度は頭を抱えた。


イメージで案山子をぶら下げてみる。


何もない。


案山子の足を持って揺すってみる。


不謹慎だが所詮は案山子である。


足を二、三度下に引っ張ると急に反発する力がなくなりゴトリと床に首が落ちた。


そっと縄の方をみると落ちたハズの首が掛かってこちらを見ていた。


脳裏に浮かんで背筋にゾッとするものを感じながら目を開ける。


罪悪感からか少し怖い思いをしたが、記号化された自殺という行為自体――案山子が縄にぶら下がる事――には特段これという感想もない。


 そういう事があったんだなぁ、という淡々とした事実を越えて胸に迫る感情は何も浮かばなかった。


「やっぱり何も浮かばないですよ」


 僕は静かに首を振る。


「全く何もか?」


 珍しく先輩が食い下がった。


「過度に記号化されると本質を見失う気がします」


「ほう、キミの追求する本質とは何かね?」


 僕が分かったような口振りをしたので先輩はイタズラな笑みを浮かべた。


「よく分かりません」


 正直にお手上げする。


 僕の返答を聞いて先輩も押し黙って何かを考え始めた。


 確かに、自殺の本質ってなんだろう。


 華美な脚色をするならそれは自己表現の一種と言えなくもないかも知れない。


 ソレは救いであったり、居場所の喪失であったり、復讐であったりするのかも知れない。


 あるいはもっと存在と認識の限界を超えた解脱へ至るための通過儀礼として死の経験を………。


 いや、これは飛躍しすぎだ。


 これらは自殺という行為の外部、他者から見た解釈の違いに過ぎず、こういう自分なりのレッテルが成立するなら、僕がさっき経験した無感動を説明出来ないのはおかしいような気もするし……。


 つまり、えーっと、悼む対象がいなければ自殺という行為を僕は息をするように受け入れてしまえるということか……。


 こう言っちゃうと人非人みたいなニュアンスになっていやだな。


 きっと僕は自殺という行為を情を排して構造的に捉えようとして、でも抽出した意味内容が記号化されていることに空虚さを感じているに過ぎない。


 先輩は自殺という行為をどこか肯定的に捉えていて、社会は否定的だ。


 本当にそうだろうか。


「あれ?そもそも法律的に自殺ってどうなんですか?」


「ん?あぁ、自由意志に基づく限り特に問題はない。自殺者の多くは精神に異常をきたしているので責任能力がない、したがって法的責任を阻却される、つまり自殺者には自殺の罪を問えない。また自殺によって他者が不利益を被った場合には契約上の連帯保証人となっていない限り遺族などには直接は責任を問えない。ただし自殺者の相続人は賠償責任を相続する可能性がある。賠償額の方が多ければ相続放棄する場合もあるだろう」


 議題についての一応の下調べはしてきたらしい。


 というか、やけに詳しいな。普段からこんな事ばかり調べていやしないだろうか、この女性は。


「つまり法律で禁止されてるとかはないんですね」


「ないな。その動機が自己のみから生ずる限り自殺は禁じられていないのさ。まぁ、法律も人が決めるんだ。無闇に死者に鞭打つような事はしないよ」


 中世ヨーロッパでは実際に死者に鞭打っていたらしいがね、と先輩は愉快そうに笑った。


 なるほど、罰を与える方が罰当たりな事をするということですね、と僕が返すと先輩はつまらなそうな顔をした。


 ……なんでだよ。おかしいだろ。


「えーっと、じゃあ、自殺を否定する論拠ってなんなんですか?自殺対策がどうのってよく報道されてるじゃないですか」


「テレビも観ないキミからそんな言葉を聞くとは驚いた」


 先輩は大袈裟に眼を見開く。


「失礼な。僕だって晩餐の時くらいは茶の間に居ますよ 」


 先輩はそうか、悪かったな、と僕の頭をぽんぽんと撫でた。


「自殺は社会悪という事だったな。何故か?簡単さ。自殺はその要因を醸成する社会そのものの失敗と考える人がいるからさ」


「いじめや過労ですか……」


「とも限らない。不治の病だってケアクリニックをしよう……、穏やかに死を迎える為の準備を社会が整備しようといった意見もある」


「どんどん大事になっていくような……。個人の自殺という一事がそこまで拡大される必要があるんですかね。突き放す言い方で悪いですけど、当事者達の失敗が社会に転嫁されてません?」


「個々人の失敗というには酷な場合もあるさ。人の死が絡むまでの事態だからな。その全てが当事者の手に負えた筈だというのは軽々な意見だろうね」


「負えないんですか……」


「負えないとも。不幸な行き違いというならまだしも、自殺率の高い組織というのはそれだけで問題なんだよ。自殺は新たな自殺を誘因するという説も支持されてるし、そもそもそういう組織には自浄作用が期待できないからな」


「それは確かに……」


 人死にが出た、という結果は人が死ぬまで問題を解決できなかったという過程の裏返しだ。

 それは組織の問題解決能力の低さを示している。となれば同様の問題が起きた時に即応できるか?

 そんなわけがない。人はそんなに直ぐに変われない。

 責任者が更迭されても、後任が体制を固めるまでに幾分の時間もかかるだろう。その時、事情に詳しい当事者たちはほとんどいなくなっていて、ナレッジが蓄積されないなんてことになれば最悪である。


 ……だからイジメは無くならないのか。


「自浄作用が働かない。じゃあどうするか?中がダメなら外。つまり外圧を利用するのさ。外から締め上げれば逃げ場のない相手には効果的だからね。これが一事が大事になる理由さ。そして一番即効性の高い外圧がマスメディアなんだよ。キミが報道でよく耳にする理由が解けたかな」


「だとすれば『社会悪』なんて物言いは当事者の都合で持ち出されてることになるので巨視的なのか微視的なのか判断に迷いますね…。論理展開は正しい気配はありますが、こう、しっくりこないんですよね。先輩が自殺を肯定してるのとも繋がってきませんし……」


「そのしっくりこない二面性を世間じゃ本音と建て前ってよぶのさ。この場合は巨視性が建て前で微視性が本音だな。でもこのふたつは私から言わせると自殺者の視点から出た言葉ではないから、自殺という行為性を語る上では不純だね」


「不純ですか」


「不純だよ。動機が外生的要因なんて自殺と呼びたくないよ。周囲が危害を加えて当人が鬱病に罹り最終的に自殺しました、なんてのは他殺に分類したいくらいさ。法の構成的には難しいけどね」


「つまり先輩の指す自殺は、そういった……、変な呼び方ですけど外生的自殺とは違うってことですよね」


「全然違う。私が問題としたいのは目的の為に自殺を許容するという合目的的論理背景であって、でもそれを語る前に今度は宗教の話に軽く触れておこう」


 そう言って、先輩は教壇にあがり大袈裟に教卓に手をついた。


「そこまでいくと話の出口が見えてこないんですが。宗教の話もゴールじゃないわけですよね」


「ああ。だが、触れずに済ませるというのもムシのいい話じゃないか。今日の議題からしても画竜点睛を欠くようで嫌なのさ」


「今さら地獄に落ちるだの、非論理的で検証不能な言説も嫌ですよ」


「心配せずともそういう話をするつもりはないよ。私が 前提としている宗教はそういうオカルトじみた哲学が主題ではないんだ」


「というと?」


「なぜ宗教が出来たのか、キミは分かるかい?」


「どうですかね。パッと思いつくのは、指導者の都合の良いように言説を裏打ちする神という外部装置が必要だったから、とかそんなんですね」


「陰謀史観だな。であれば宗教は上から与えられたものという事になるが、階級社会でなければ宗教が興らないということになるのかな?原始社会には宗教はなかったと?」


「そう言われると……。うん、いや、興りえたでしょうね。小規模で原始的な集団でも宗教を持つ集団はありそうな話です」


「私も同感だ。規模の大小、古代、近現代問わず人が集まればなんらかの形で宗教が興ることは信じるに難くない。宗教が勃興する理由はもっと根源的なものさ……」


「根源的……」


「それが人の"死"だよ。自然状態の集団が破綻を避ける為に社会を形成し、成長していく中で死をどう扱うべきかというのが大きな課題となった。社会が成長するにはある程度の人数がいる。人の数が増えればそれと同じだけ社会は成員の"死"を経験することになる。効率よく社会を成長させる為には必然、損失を最小限に抑えながら死者という存在を社会から切り離す方法が模索される。資産的な意味でも残された者達の心理的負担を軽減する意味でもね。そうして社会の中に醸成されていく"死"を迎える為の哲学。それこそが宗教さ……」


「あぁ、それで今日のテーマに繋がっていくんですね……」


「そう、しかしそうなれば社会に特有の物になる宗教はそれぞれの社会風土に応じた通俗的な思想を展開するので、人口の伸びに余裕のある社会では人を殺すべきではない、自殺すべきではないという理屈を語り、人口に伸び代のない厳しい環境における社会では自殺やむなし、自殺すべしなどという教義もでてくる」


「自殺やむなしというのは分かりますが自殺すべしなんてあり得るんですか?無茶苦茶じゃないですか」


「勿論、自殺すべしなんていう教義が実在したかは不明だが、自殺が奨励されるなどは全く有り得ないというものでもないんだ」


「例えば中米ユカタン半島あたりに遺るマヤ文明の神話では死者を導く女神イシュタムは首吊り女性の姿で描かれる神で、当該地域において首吊り自殺は高貴な死に方だと考えられていたのではないか、という論文も発表されている」


「ま、もっとも、首吊りであれば自殺だとも限らないし、犠牲(いけにえ)文化の根深い文化圏である事も考慮すれば、どの身分の人がどういう動機で首を吊るか分からないまま自殺が奨励されたと断ずることは論理の飛躍を伴うがね。それに私の考えからすればやはり自殺すべしなんて教義から自殺を迫られるようじゃ不純さ」


「……そういえば即身仏とかいうのも宗教的な自殺じゃないんですか?」


「あぁ!キミは話の一番オイシイところを!!!」


 先輩は勢いよく歩み寄ってきて僕の両頬を左右に引っ張った。


「いらいれす(痛いです)」


「罰だ。しばらくこうしていろ」


「んな無茶な…。あ、離した」


「キミの頬はベタベタするぞ。私の制汗スプレーでも顔に掛けてやろうか?」


「失礼な。そんなことしたら女の子特有のいい匂いのする僕が出来上がってしまう」


 先輩がいつも脇とか胸元に使っているスプレーを顔にしてもらえるんじゃないか、という僕の期待は直ぐに裏切られた。


 先輩は嫌そうな顔をして僕のネクタイで手を拭くと教卓に寄りかかって肘をついて話を再開する。


「さて、即身仏の話だったな。あれは仏教の中でも密教系の奥義だ。正確には入定(にゅうじょう)というのが行為の名称だな。物を知らないキミに簡単に説明するなら、密教系は釈迦の説いた法から解釈を進め本来なら三劫という途方もない時間が掛かる仏に至るまでの道に抜け道となる修行法を構築して今生のまま仏になろうとする一派だ」


「即身仏はそのうち極まった考え方でな、厳しい食事制限を行い身体から肉と脂肪と水分を削ぎ落とし、漆で体内の防腐加工を行なってミイラ化すれば不滅の肉体となり、あらゆる苦しみから解放され涅槃から戻されることがないという理屈らしい」


「あの、なんかスピリチュアルでオカルトな話になってませんか」


「これも罰だ。キミが話を振ったのだから報いを受けなくてはな……」


 まだ根に持ってるのか…。


「結論からすると即身仏は"死"の経験それ自体を目的とせず、自我と結びつきのある状態で不滅の肉体を獲得したかったんだ。明治時代には禁止されたらしいが、今であれば全てを独力で完遂するのであれば実行することは可能だな」


「餓死は数ある死に方の中でもかなりツライって聞きますし、僕には無理ですね」


「実際ほとんどは失敗するんだよ。大体が食事制限で挫折。そこを乗り越えても筋肉・脂肪・水分を落としきれず死体が腐敗してしまえば失敗。成仏はならず普通に埋葬される。報われないな。でも死んでからミイラにしたのでは輪廻転生するので間に合わないから仕方ない」


「これが自殺すべしという教義ですか……」


「どうかな。医学的な見地から言えば死んでるから自殺なんだろう。だが、自殺すべしと解釈するのは違う話だ。そもそも仏教的世界観においては仏の手助け――加持が働くから輪廻転生を経て莫大とも思える時間の後に普通の人でも救済されることになっている。だから少しでも早く救済されるように悟りの境地に自我を置く、有り体に言えば努めて感情的にならず啓蒙的かつ理性に拠って生きていきましょう、という生の営み部分を本題とするんだが、密教系ではこの苦しみと過酷溢れる世界を延々と繰り返したくない、救済されたいという部分が本題になるから一部の人間は即身仏を目指すことになるのさ」


「それって受け入れがたい苦しみに耐えかねて自殺するのと違うんですか?」


「キミは本当に身も蓋もない言い方をする。まぁしかし、自殺という行為を外から見れば最後はそこに帰結するんだ。だからこそ主体的に自分がするつもりになって自殺という行為を見るべきだと繰り返し言っているだろう?さっきのキミの見方は自殺を他者の行為として外部からレッテルを貼っていることになるから自殺という行為を語る上では不純だとね」


「それはまぁ確かに」


「それにミイラ化というのは手段であって目的ではないんだよ。仏教では開祖である釈迦が生きながらにして悟りの境地にたどり着いた。つまり原理的にみて成仏するにしてもあえて死ぬ必要はない。だから、救済を得るためにわざわざミイラ化しなきゃいけないというのはある種独特の世界観としてとりあげられもするわけさ」


「自殺をする人はこんなこと一々考えたりしないでしょうけどね。自殺者の気持ちになって、なんて言いだしたらまずは鬱病にかからないといけないわけですから」


「浅はかな考えだ。たしかにほとんどが鬱病の状態にあるとは言ったが、例外はあるのさ。殉死という形で自殺することもある。たとえば明治天皇崩御に伴って殉死した乃木(のぎ ) 希典(まれすけ)や、憲法改正の情熱を胸に殉死した三島(みしま)由紀夫(ゆきお)なんかは好例だな。弘法大師 空海が本当に入定して即身仏になったかは議論の余地は残るが、今までの例から共通点はあきらかだ」




 ――人は信念のために死ねるんだよ


 声が空気を震わせる。


 先輩は双眸鋭く僕を見つめた。


 この議論を通してようやく結論めいた言葉にたどり着いた気がした。


「それが先輩が自殺を肯定する理由ですか?」


 先輩が僕に伝えたかったことを確かなものにしようと僕は尋ねる。


「さてね、ちょうど六時だ。部活の時間も終了だよ」


 云うや否や下校時刻を告げるチャイムが鳴った。


 僕は続く言葉を失って、かぶりを振って立ち上がった。


 結局、その日、その後、僕たちは会話をしなかった。


 ただ其処に居た痕跡を消して二人で教室をあとにした。


 日もだいぶ長くなった立夏の日だった。

短編集の一作目。

ヒネた高校生。いいですよね。青春です。

一応、○○と僕みたいなサブタイトルは短編集の中でちょくちょく書いていこうと思います。

哲学というよりも社会学寄りの話題が中心になるけれど、テーマによって主話者は変えていくかもしれません。

そのうち魅力あるキャラに育ってくれたらいいなと思ってます。


それでは、拙筆ではありますがここまで目を通してくださってありがとうございました。

感想・批評・アドバイス・質問等々なんらかのレスポンスがあると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ