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江戸浪士隊血風録  作者: 川越トーマ
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 帰還

 俺たち江戸浪士隊の面々は、明け方近くまでかかって店にあった全ての阿片を隅田川に投げ捨てると、右近の屋敷に戻った。

 返り血だらけになった服を脱ぎ湯を浴びると、大広間で体に受けた傷を確認し、武器や鎖帷子の手入れを始めた。

「ちょっとズレてたら大ごとだったな。これじゃあ命がいくつあっても足らんわ」

 鉄心が大きな声でつぶやいていた。

 彼の鎖帷子に取り付けられていた胸の金属板には穴が開き、鎖の部分で辛うじて先端の潰れた銃弾が止まっていた。

完全被甲弾フルメタルジャケットではありませんが炸薬を増やして破壊力を増した特殊な弾丸のようですね。金属板にあたっていなかったら鎖帷子は軽く貫通されていたでしょう」

 銃に詳しいらしい鈴音が、さらっと、恐ろしいことを言ってのけた。

「着込みを着ていてよかったではないか」

 右近は結果的に無事だったことの方を素直に評価していた。

「正気か? もっと頑丈な防具は用意できないのか?」

「隼人の刀を作ったのと同じ特殊合金を使えば軍用の完全被甲弾でもはじくような鎧も作れますが、かなり重くなりますよ。目立ちますし」

「体力には自信があるんだ。いっちょ作ってくれるか」

「わかりました」

 鉄心と鈴音のやり取りを聞いていて、俺は矛盾という言葉の語源を思い出した。

 最強の盾と最強の矛、その二つが激突したらどうなるのかという話だ。

「あんた新しい刀の具合はどうだった? ちょっと重かったかもしれないけど切れ味は充分だったでしょ」

 俺がぼんやりと鈴音と鉄心のやり取りを聞いていると鈴音が視線を向けてきた。

「丈夫で切れ味も鋭い。相手の刀を断ち切っても刃こぼれ一つしていません。気に入りました。刀自身が重くなった分、斬撃の威力も増しているような気がします」

 俺の答えを聞くと鈴音は満足そうにうなづいて長刀の手入れをしている才蔵にも声をかけた。

「才蔵さんも隼人と同じ材質の刀を誂えましょうか? 実戦でも問題ないことが分かりましたし」

「今の刀より重くなるんであろう? 斬撃が遅くなる。このままでよい」

 才蔵は鈴音には眼を向けず、自分の刀についた脂を紙で拭っていた。

 途端に鈴音の表情が不機嫌そうになった。

「才蔵の刀は刃渡り三尺(約九十センチ)以上あるからな。比重が重くなるのはきつかろう」

 にべもない才蔵の発言をフォローするように右近が言葉を加えた。

 馬上で使用する太刀は三尺以上の長さのものも多かったが、戦国の世が終わり、侍の刀が常時腰に挿して歩くためのものになると、刀は短いものが好まれるようになった。

 そして、幕府により打刀(士族の大刀)の標準規格が刃渡り二尺三寸(約七十センチ)程度と定められるようになった。

 才蔵の刀はそうした規格品に比べるとかなり長かった。

 もしも俺の刀と同じ合金で刃渡り三尺の刀を作ったら、かなりの腕力がないと振り回すのがきついだろうと、俺も思った。

「おう、俺の刀も頼むな」

「鉄心様は先ほど鎧を注文したではありませんか」

 突然話に割り込んできた鉄心に鈴音は厳しい表情を向けた。

 『まったく、ずうずうしいんだから』と眼が文句を言っていた。

「いいじゃねえか。けちけちするな。特に刀身は分厚く丈夫に作ってくれよな」

 俺は鉄心の戦いぶりを思い出して、密かに戦慄を覚えた。

 鉄心の膂力で特殊合金製の青龍刀を振り回したら、それが何であれ周囲のものはすべて粉砕されてしまうだろう。

「わかりました。……右近様は? いかがなさいますか」

 鈴音は軽くため息をつくと、気分を入れ替えて右近に笑顔を向けた。

「とりあえず打刀の方をお願いする。脇差は今のままでよい」

「そうおっしゃると思いまして、すでに用意してございます」

「う~ん、手回しがよすぎるな。右近だけ特別扱いなような気がする」

 鉄心の時とはうって変わって愛想よく受け答えする鈴音に、鉄心がちゃちゃをいれた。

「気のせいです」

 鈴音は澄まして答えた。


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