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黒の奇譚 ~夜王転生録~  作者: アメフラシ
第一章 黒廼家
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第四話 作戦開始







 ――――霧夜考案の救出作戦は静かにその幕を開けた。



 俺はテロリスト達に気づかれぬよう二階の渡り廊下へ静かに移動し、一階にある二番線ホームに続く連絡通路のちょうど真上の位置まで辿り着く事に成功した。



 渡り廊下の転落防止用手摺から静かに身をのりだして真下を覗いてみると、連絡通路入口の周囲には武装したテロリストが三人。辺りを警戒しながら入口を守っているようだった。



 「……兄貴、聞こえるか。こっちは指定された位置に着いたぞ」



 俺は左手に持った魔導器に向かって小さく声を発した。



 『聞こえているぞ。了解だ……首尾は上々のようだな』

 「今のところは……ね」



 俺の発した声に応えるように魔導器から霧夜の声が返ってきた。



 『ムタと名乗るリーダー格の男は依然として同じ車両にいる……やはり人質として利用価値の高い者からは目が離せないようだな』

 「羽柴 宗一郎か……」



 あの騒動の中、一階の一番線ホームは瞬く間にテロリスト達に制圧されてしまった。

 出入り口の防護壁も閉じられてしまい、二番線ホームに続く連絡通路も見張られていて、展示会場は完全に孤立してしまった。



 来ていた観客は新型魔導列車の車内にテロリストの監視付きで監禁されてしまい、羽柴 宗一郎も食堂車両にてリーダー格、ムタの監視の元、身柄を押さえられていた。

 車両の外では敵の手に堕ちた三体の機械人形と、約二〇名程のテロリストが見張っていて近づく事の出来ない状態だった。



 羽柴グループは日本が誇る大企業。そしてその会長ともなると……言い方は悪いが、ここにいる誰よりも人質として一番価値がある人間だな……



 「それじゃ兄貴……そろそろ始めるぞ」

 『了解だ。携帯電話は電波妨害で使うことができないから何かあれば魔導器の通信機能を使ってくれ……では、武運を祈る』

 「ああ、ありがとう……そっちも気をつけて」



 俺はパーカーのポケットに魔導器をしまった後、緊張した気持ちを解すために深く深呼吸をした。



 大丈夫だ……落ち着け……実戦を想定した訓練は入学する前、母さん相手に散々やらされた……あの人に叩き込まれた戦闘技術を信じろ……



 「よし……行くか……!」



 右手に持った短剣をもう一度強く握り直し、俺は転落防止用の手摺に足をかけ真下にいるテロリストに目標を定め、意を決して飛び降りた。



 「うん………………っ!?」



 周囲を警戒していた三人のテロリストの内の一人が、二階の渡り廊下から飛び降りた俺に気がついた。

 咄嗟の出来事で呆気にとられていた男だったが、ハッと我に帰り持っていたアサルトライフルの銃口を俺に向け、急ぎ引き金に指をかけようとする。



 ……遅いっ!



 着地寸前に振り下ろした俺の短剣が、引き金を引くよりも速く、男が構えていたライフル銃を真っ二つにした。

 銃が破壊された際の衝撃によって体制を崩した男は、その場で尻餅をついてしまう。



 「ひ、ひぃいいい!?」



 身を守る術を失なった事に気づいた男は、顔を恐怖一色に染め、地を這うようにしてその場から逃げていった。



 「…………え?」

 「…………な、なにが?」



 他のテロリストの二人は目の前で起こった出来事が信じられないといった様子で、二人揃って口が開いたままの無様な面を晒していた。



 ……奇襲に対応しきれていない……いける……!



 この機を逃すわけにはいかない。

 俺は他のテロリストが持つ武器を破壊するため、すぐさま次の行動に移った。



  「う、うわぁあああ!?」



 突然迫ってくる敵対者に恐れおののいていた事もあってか、二人目の男は慌てるだけで何の抵抗もしてこなかったので、容易く銃を破壊することが出来た。



 「……っ……くそぉおお!」



 搬入口にいたテロリスト三人目、最後の一人。

 流石に冷静さを取り戻したのか、その銃口は完全に俺を捉え、何の躊躇いもなくその引き金は引かれる。



 展示会場の一番線ホーム中に轟くアサルトライフルの連射音。

 発射される銃弾の雨を掻い潜り、射手の懐にまで潜り込む。



 ……温い……!



 距離を積めてしまえばこっちのものだ。

短剣を振り上げ、風を斬る音と共に銃器を斬り裂く。

 武器を失ない、無防備になった男を強く蹴り飛ばし壁に打ち付けると男は「ぐぅ」と小さな呻き声をあげて気絶していった。



 「……連絡通路前の制圧は完了……と。さて、次は……」

 「――貴様! そこでなにをしている!?」



 ……増援か。まぁ、あれだけ騒いでれば当然か……だが……



 「……予定通り、だな……」




 ◇◇◇




 「……二手に分かれる?」



 作戦が始まる少し前、ホームの二階に隠れていた俺と栞奈は、霧夜が考えた戦術プランについて、話を聞いていた。



 「そうだ。今回立てた戦術プラン……制圧も視野に入れて考案したものだが、このプランの大目標は人質にされた人達の安全を確保することだ。だがその為にはテロリスト共の注意を別の所へ引く必要がある…」



 ……それで二手……救出班と陽動班に分かれて行動するって訳か……



 「それで配置なのだが……幸い連中はホームにいた人間を全員拘束したと思い込んでいる、だから私達がいるこの二階に上がってくる事はまず無い。その思い込みを逆手にとり、私は列車周辺を見渡せるこの場所に残り作戦の指揮をとる」



 ……となると実質、動くのは俺と栞奈の二人……なら……



 「……だったら連中の注意を引く役……俺がやるよ、兄貴」

 「っ! ヤト兄!?」



 相手はムタというリーダー格を含めたテロリストが二〇人弱に、機械人形が三体……そいつらの注意を引く陽動班の方が圧倒的に危険度は高い……



 「ダメだよ! ヤト兄じゃ危険だよ!」

 「妹の言う通りだ、夜斗君。敵のリーダー格は魔導師だ。言い難い事だが魔導器が使えない夜斗君には荷が重い役目だぞ」

 「それでもやらせてくれ……俺はできるだけ家族を危険な目に逢わせたくないんだ……頼むよ兄貴!」



 俺の必死の頼みを聞いた霧夜は「フム」と一言唸り、暫しの間考え込むと……



 「……指示には必ず従ってもらう。私が無理と判断したら直ぐに退いてもらうぞ……」

 「ちょ、ちょっと霧夜!?」

 「無駄だ妹よ。身内が絡んだときの夜斗君は誰よりも強情だ……お前だって知っているだろ」

 「……それは……そうだけど……」



 ……悪いな、栞奈……でもこんな危険な事、お前にはさせたくないんだよ……



 「……では続けるぞ。夜斗君の役目だが、まず最初に二番線ホームに続く連絡通路前を制圧してくれ。その後、騒ぎを聞きつけて奴等の増援が来るはずだが、そいつらも無力化してもらって構わない……それを続けていけばいずれ、痺れを切らして本命がそっちに向かうはずだからな」

 「あのムタって奴か……」

 「恐らくだが……機械人形を操っているのはあの男だ。あの男が使っていた魔導器は雷系統に特化していた。それを使って機械人形の操作機器を操っているのだろう。あの男と機械人形を車両から離さない限り、観客達の安全を確保することはできない。だから夜斗君、君の役目の大目標は三体の機械人形とそれを操るムタを二番線ホームまで引き付ける事だ。とても重要な役目だが……できるか?」

 「ああ、大丈夫……問題ないよ……」



 この作戦……俺が上手く立ち回らなければ成功しない……自分で名乗りを挙げておいてなんだけど、けっこう責任重大だな。



 「……ねぇヤト兄。ホントに無理だけはしないでね……お願い……」

 「……心配しすぎだ、栞奈……俺は大丈夫だからさ」

 「……でも……」



 俺の事を気遣う栞奈の表情は、逆にこっちが心配になるくらい不安に沈んでいた。



 「そんな顔すんなって……これくらいの事、なんて事ないさ……だって――――」



 …………だって…………



 「――――だって俺は栞奈や兄貴と同じ……『黒廼』なんだからな……」




 ◇◇◇




 「――――こりゃまた……随分とまぁ、雁首揃えてくれちゃって……」



 連絡通路前での騒ぎを聞き付けた複数のテロリスト達が、俺の周囲を囲むように配置につく。



 ……六人か。さっきの倍だが……これくらいじゃ何の問題もないな。



 「……貴様、何者だ! どうやって駅の中に侵入した!」



 ……その口ぶりからすると、俺達が最初から中に居たことには気づいてないみたいだな……今のところは予定通りか……



 「おい貴様! 聞いているのか!」

 「そんな怒鳴んなくてもちゃんと聞こえてるよ……ってかさ、それを素直に言うと思ってんのか……馬鹿かアンタ」

 「なっ!? 貴様ぁ!」



 俺は手の中で短剣をクルクル回しながら、テロリストの神経を逆撫でするような言動をとる。



 言い感じで連中の注意を引けてるな……あともう少し暴れればいずれ、あのムタって奴も釣れるかもな。



 「さぁてと……オッサン達もさ、そんな所で突っ立ってたってしょうがないでしょ。だからさ――――」



 俺は回していた短剣を持ち直し、切っ先をテロリスト達に向け、そして――――



 「――――来いよ……まとめて相手してやるからさぁ……!」



 ――――宣戦布告を告げる。




 ◇◇◇




 「……随分と余裕だな。羽柴 宗一郎」



 新型魔導列車の食堂車両。

 豪華な内装で作られた広々とした一室に羽柴 宗一郎とムタはいた。

 本来なら豪勢な食事を食べ、話に花を咲かせる、乗客達の憩いの場となったであろうこの場所は、今やたった一人の人間を閉じ込めておく為の監獄として使われていた。



 「……余裕な訳ねぇだろ。凶悪なテロリストに囚われてんだぞ、俺は。どこをどう見たらそう見えんだよ……」



 掴み所のない飄々とした態度で話す日本最大企業、羽柴グループ会長の羽柴 宗一郎。

 すぐ隣には自身を捕らえた武装集団のリーダーが立っているにも関わらず、テーブルに肘をつき、足を組んで椅子に座るその不敵な態度は、どう見ても囚われの身には程遠い姿だった。



 「まぁいい。お前にはもうしばらくの間、ここにいてもらう……政府との交渉が終わるまでな……」

 「……なぁ、交渉が終わったら俺や会場に来ていた連中はどうなるんだ? やっぱり皆殺しか?」

 「それは政府の対応しだいだ。奴等が我々の要求を呑めば観客達は全員解放する」

 「……本当かよ?」

 「私は、嘘をつかない主義なのでな」



 嘘をつかない。

 凶悪なテロリストであるムタのその言葉を聞いた羽柴は、皮肉な笑みを浮かべて「ハッ」と笑い飛ばす。



 「……嘘をつかない、ねぇ。そりゃいったいどの口が言ってんだか……」

 「言っておくが貴様は別だぞ、羽柴 宗一郎。政府との交渉が終わったあとも、貴様は我々と共に行動してもらうからな」



 ムタは目の前に座る羽柴を見下ろしながら釘を刺すように伝える。



 「あ? なに? 俺だけ別……?」

 「当然だ。貴様にはまだ人質としての利用価値が大いにある……もう少し我々に付き合ってもらうぞ」

 「……今度はウチの会社から身代金でも要求するつもりかよ……」

 「それは貴様の知る必要のない事だ……大人しく我々に従っていた方が身のためだということを……覚えておくんだな」

 「あ~ハイハイ、わかりましたよ。ふーん、そうかい。俺だけ駄目なのかい。へ~……」



 羽柴は座っていた椅子の背もたれに背中を預け、体を少し後ろに反らしながら何かを考えている様子で天井を仰ぎ見ていた。





 「それも――――『指示通り』……ってヤツなのかねぇ……」





 指示通りと言う羽柴の不意をついた発言にムタは眉をピクリと動かし反応を示した。



 「……何だと……?」

 「手並みが鮮やか過ぎんだよなぁ~。今回の展示会、護衛役として完成されたばかりの機械人形を出す事はマスコミやら各メディアには伝えてなかった……なのにもだ、それを一介のテロリストでしかないお前さんはまるで最初から知っていたかのようにあっさりと自分の制御下に置きやがった……というより、知ってたんだろ。あらかじめ、誰かさんから聞いてさぁ……」

 「……………………」



 ムタは何も喋らなかった。

 先程反応を示した時と打って変わり、顔色ひとつ変えずに終始沈黙を貫いていた。



 「さて、お前さん達はいったい……誰に雇われているのかな……?」



 天井に顔を向けながらも羽柴はその視線は隣に立つテロリストに向け睨みつける。その視線に臆することなくムタも無言で羽柴を睨み返す。



 両者の間に暫し流れる沈黙。

 しかし静寂に包まれた空間を最初に突き破ったのはこの場にいる二人ではなく……突然の伝令者だった。



 「――――ムタっ!」



 列車の貫通扉が大きな音を立て勢いよく開かれる。

 慌てて食堂車両に入ってきた男はムタの仲間であるテロリストの一人だった。



 「何だ、騒々しい……」

 「す、すまない……だが、問題が起きて……それを知らせに……!」

 「……問題?」



 息を切らし血相を変えて現れたその顔は、何か深刻な事態が起きているということが安易に窺える表情だった。



 「じ、実は……二番線連絡通路前に武器を持った民間人が……」

 「……民間人だと? この会場にいた人間は全員拘束したはずだろ……」

 「俺達もそう思ってたさ! けどソイツ、突然現れて……!」

 「……まぁいい。武器を持っていたとしても所詮は民間人、たかが知れている……すぐに取り抑えろ」

 「そ、それが……」



 ムタの仲間は何かを思い出したかのように急に口を噤んでしまい、先程の慌てようが嘘のように静まり返ってしまう。



 「どうした? ……何を黙っている……?」

 「……ソイツ、あまりにも抵抗が激しかったから……魔導列車の周りを警戒をしていた同志……二四名を集めて拘束に向かったんだ……け、けど……!」



 そして……体の底から絞り出すようにして告げられたのは……






 「――――全滅してしまった……たった……たった一人の民間人の手よって……全滅してしまったんだっ!」






 ……驚愕の出来事だった。



 「なっ!? 全滅……だと……!?」



 それはムタにとって、とても信じがたい報告だったようで、彼の顔はその驚きを隠せないでいた。



 「……たった一人に……」



 同時にそれを隣で聞いていた羽柴にも衝撃が走っていた。



 「いったいどういう事だ!? こっちは銃を持っているのだぞ!? それなのにたった一人に遅れを取るだと……貴様等はいったい何をしていたんだっ!?」



 男の胸ぐらを掴み、締め上げるようにムタは問いただす。



 「そ、そんな事言ったって……ソイツ普通じゃないんだ! 銃を向けても全然怯まないし、おまけに撃っても全部躱して、まるで当たらなくて……気がついたらソイツに銃を破壊されてて……もう俺だって訳がわからねぇよぉ……!」



 精神的に追い詰められたのか、錯乱し喚き散らしていた男はムタの手を振り払い、その場に小さくしゃがみ込んでしまった。



 「……得物を失っただけでその体たらくとは……所詮は寄せ集めか。程度が知れたな……テロリストさんよぉ」



 羽柴の人を見下した発言に、顔を憤りに歪めたムタは羽柴に詰め寄る。



 「羽柴 宗一郎……! これは貴様の差し金かっ!?」

 「阿呆か。俺は今までアンタとずっとにらめっこしてたんだぞ……そんな事出来るわけないだろ……」

 「……くっ……!」



 自分は関係ないと言わんばかりの涼しい顔で話す羽柴に対し、ムタは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



 「な、なぁ……ムタ……俺はいったい……どうすれば……?」



 不安に沈んだ顔をしてしゃがみ込む男は、震える声でムタに助けを乞う。



 「ちっ! ……お前は別の車両にいる人質共の監視をしておけ。その民間人は私が始末する……羽柴 宗一郎。貴様の機械人形、有り難く使わせてもらうぞ」

 「……御自由に」



 「フン」と鼻を鳴らしムタは食堂車を後にしようとする。



 「ム……ムタ……」



 ムタの背後から自身の仲間の情けない声が聞こえる。



 「……役立たずが……」



 捨て台詞を吐きムタは食堂車から出ていった。

 その程なくして気落ちしてしまっていたムタの仲間も、項垂れながら別の車両へと移っていく。



 「……重要な人質を一人にしておくなんてな……やはり、阿呆の集まりだったか……」



 一人食堂車に取り残された羽柴は、回りに見張りがいないのを確認してから、左腕に付けていた腕時計のボタンを徐に押す。



 「さて……これで後は『アイツ』が迎えに来るのを待つだけっと……しかし……」



 羽柴は思い耽った様子で食堂車の窓の外へ視線を向ける。



 「……武装集団をたった一人でぶっ潰す謎のヒーローか……ゲームの主人公みたいだな、ソイツ……はは、おもしれぇ……!」



 窓の外を眺める羽柴の顔は笑っていた。

 その顔はとても無邪気で、まるで楽しそうに遊ぶ子供のような笑顔だった。



 「……連中を片付けちまうのは、颯爽と現れた名も無き英雄か、それとも『アイツ』か……早く来ねぇとお前の楽しみ全部奪われちまうぜ……『ソウジ』……」




 ◇◇◇




 「……なんだ……こんなもんか……」



 二番線ホーム連絡通路前。

 短剣を手の中でクルクル回しながら俺が立つ場所の周囲には、武器を失い戦意喪失をしたテロリスト達が虚ろな目をして呆然と立ち尽くしていた。中には腰を抜かして立てなくなっている者もいる。



 行動開始から早二〇分弱。

 ホーム周辺に居たテロリスト共は、あらかた無力化する事には成功した……残るは。



 「貴様等……たった一人になんてザマだ……!」



 辺り一帯に響く怒気を孕んだ重みのある男の声。

 三体の機械仕掛けの人形を伴い現れたその大男の名は……



 「……ム、ムタ……」

 「……どいつもこいつも……揃いも揃って役立たずばかりか! どれだけ私の足を引っ張れば気がすむのだ、貴様等はっ!」



 ……ようやく出てきたな……本命……!



 「……貴様か……我々の邪魔をする民間人というのは。どんな奴かと思えば……ただの餓鬼じゃないか……こんな奴に遅れを取るとは……!」



 ……兄貴の予想通り、頭に血が昇った状態で出てきやがったな……なら……



 「ガキだからって舐めない方がいいぞ、カミナリ野郎……あんま下に見すぎると、俺に負けた時に格好がつかねぇからな……」

 「……っ……貴様ぁ……!」



 ……お~お~。怒ってる怒ってる……俺って意外と人をおちょくる才能があんのかも……



 「小僧……我々に楯突いた事を後悔させてやろう……機械人形っ!」



 ムタの呼び掛けに答えるように三体の機械人形はムタの前に出て臨戦態勢にはいる。



 「捕らえるなど生温い……貴様はこの機械人形で嬲り殺しにしてくれるっ!」



 ……そっちから機械人形を出してくれるとは好都合だ。それじゃあ……最後の一押しだ。



 「御託はその辺でいいからさ。さっさとかかってきなよ……遊んでやるよ、糞テロリスト」



 左手の人差し指を立て、自分の方へ招くように指をふる。



 「――っ! ゴォォォォォォレェェェェェェムッッッッッッッ!」



 機械人形に送られる咆哮と化した出撃号令。

 それに応えるように、機械人形は右腕の電磁銃を構え突撃を開始する。



 掛かった……! なら次は……!



 俺はすぐさま背後にある連絡通路に向かって駆け出す。



 薄暗い通路の中をある程度走り、自分が駆け抜けた後ろの道を見てみると三体の機械人形が一列になり、重量のある足音を立てながら迫ってくる。

 そして列の最後尾にいる機械人形の後ろには、前にいる機械人形を盾のようにして走り進むムタが俺を追いかけてきていた。



 連絡通路を抜け一番線ホームと同じ構造をしている二番線ホームに到着した。

 背後を振り返りムタ達が二番線ホームに入ったのを確認してから俺は魔導器を取りだし霧夜に連絡をする。



 「兄貴! こっちはうまくいった……やってくれ!」



 その瞬間、一番線ホームに通じる連絡通路のシャッターがゆっくりと閉まっていった。



 「っ! なにっ!?」



 シャッターの閉まる音に感付いたムタが背後を振り向き異変に気付く。



 「まさか……クソっ!?」



 一連の行動が自身を誘い出す為の罠だと気づいたムタは、慌てて踵を返し来た道を駆け戻る。



 「……くっ!」



 ……だが時すでに遅し。

 ムタがたどり着く前にシャッターは閉じられた。一番線と二番線を繋ぐ道はこの連絡通路のみ。作戦通りムタと機械人形を人質から切り離すことに成功したのだ。



 「クソっクソっ……クソォォォォォォォ!」



 シャッターを殴りながら怒りをあらわにするムタ。

 機械人形の制御を忘れ、感情に飲み込まれて取り乱している今が――――








 「――――あんまりよそ見しない方がいいんじゃない?」








 ――――俺にとって絶好の好機だ。



 「――っ!?」



 制御を失いその場に立ち止まった最前の機械人形に飛びかかり、短剣を横へ一閃。機械人形の首をはねる。



 自律神経機能であるヘッドを失った機械人形の胴体は、膝から崩れ落ちるようにその場へ前のめりに大きな音を立てて倒れていった。



 「……まずは一体だな……これ以上こんなのを使われても困るんでね……全部破壊させてもらうよ」



 不安要素は出来るだけ取り除いておかないと……後で、何かあってからじゃ遅いしな。



 「小僧……! 貴様……一人じゃないな!?」

 「……御明察。けど、気づくのがだいぶ遅かったな……今頃は俺の仲間がアンタの連れ共をふん縛って観客達を逃がしてる頃だろーさ」



 俺は短剣を手の中でクルクルと回しながら、ムタの言葉に答える。



 「くっ……! 貴様は……貴様はいったい何者だ!?」



 俺は短剣を回すのをやめて、ムタの方へ体を向きなおして名乗る。



 「……凪之市魔導師士官学校の……生徒だよ」

 「士官学校? ……っ! 魔導師候補生かっ!?」

 「当たり。さて……自己紹介も終わった事だし……続きといこう……」



 兄貴達が観客を全員避難させるまで時間を稼がないとな。それじゃあ……



 「……もうしばらく俺に付き合ってもらおうか……テロリストさんよぉ……!」






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