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黒の奇譚 ~夜王転生録~  作者: アメフラシ
第一章 黒廼家
3/9

第三話 展示会、そして……

思いつきや、ノリで書いていきます。





 「はぁ~やっぱり人多いなぁ。始まってから結構時間経ってるのにね」

 「それだけ注目されてるって事だろ……あの新型魔導列車ってのはさ」



 凪之市ターミナル駅

 今日、新型魔導列車の一般展示会場となっている一番線ホームは大勢の人達で埋め尽くされている。



 世界初の水陸両用ということもあってか会場にいる人達は日本人だけではなく海外から見学に来ている人もそこかしこにいた。



 大型列車が展示されているホームは千人が入る規模の広さにも関わらず、会場は

既に殆んどの容量が埋まっている様子で、とてもじゃないが近くまで行くことはできなかった。



 展示会が始まったのが午前十一時。そして現時刻は午後の十四時前。



 のんびり昼食を取ってたのが仇になったか。ターミナル駅についた頃には会場入口に人だかりが出来ていて中に入るのもやっとだったからな。



 「しかし……ここからではやはり、少し遠いな」



 霧夜がそう言うのも無理もない。

俺達が今いる場所は列車が展示されている吹き抜け天井の頭端式ホーム一階ではなく、展示物を遠目からしか見ることのできない二階から会場を眺めているのだから。



 会場内に入ったまでは良かったが人が混雑していた事もあり、一階のホームからは列車の上の部分だけしか見えなかったのだ。それも辛うじて。



 これじゃ何もわからないという事で、列車からは離れてしまうが仕方なく俺達は一階から二階へと泣く泣く移動することにした。

 案の定というかやっぱりというか、二階へ行くとそこは人が一人も居ない、まるで貸しきりのような状態だった。やはり皆、できるだけ近くで見たいんだろうな。



 「いいじゃん別に。それよりもさぁ、二階にいるのアタシ達だけなんだよ……貸しきりみたいでなんかテンション上がんないっ!?」



 あーなんかそれ、わからなくもないかも。誰もいない体育館で開放的になっている感じ。



 「子供かお前は、全く……しかし夜斗君、君はこの場所で本当に良かったのか? もっと他にも選択肢はあっただろうに……?」

 「ああ、それなら大丈夫。特別行きたいって所はなんも浮かばなかったしさ……それに……」

 「……それに?」



 俺は着ていたパーカーのポケットに手を入れて、『ある物』を取り出した。



 「俺が目指している物のヒントになるかも……って思ってさ……」



 取り出したのは手のひらサイズの小型の機械端末。スライド式で端末の中心には青色に淡く光る小さな石がはめられていた。



 「……魔導器か」



 俺が取り出した物を見て、霧夜は小さく呟いた。



 魔導機関によって造り出された産物、現象発現機『魔導器』

 この機械を使えば古代の記述に記された、魔法使いと同じ、自然界の力を自由自在に操る事を可能にする、正に魔法の道具だ。



 だが、所詮は人間が作ったもの……人工物に絶対なんて物はない。一見、万能にも思えるこの魔導器にも欠点が二つあった。



 一つは魔導器の中枢とも言えるコア、『魔核』が決定的に不足しているということ。

 魔導器は魔核に秘められているエネルギーを原動力にしている動力機械だ。無論、魔核が無ければ魔導器は動かない鉄屑も当然。



 魔核は文献に記されていた魔法使いゆかりの地で行われた遺跡発掘の際に偶然にも発見された古代遺物だ。現代の科学技術をもってしてもその製造方法は確立されていない貴重な物になる。

 希少価値ゆえにその殆んどが政府に管理されていて、一般市民個人の手に渡る事もなく、軍人や政府関係者にしか出回ってないので、誰も彼もが魔導器を持っているわけではないのが現状になる。



 そして二つめ……これが俺にとっても特に重要な欠点だ。

 魔導器は扱う人間によっては、引き出される力に差異があるということだ。



 例えば、一つの魔導器を二人の人間が交互に使って水を生み出す実験をしたとする。最初の一人目は精々コップ一杯分の水しか生み出せなかった。だが二人目はそれを凌駕するコップ十杯分の水を生み出す事が出来た。

 何故そうなるか理由はわかっていないが、恐らく人によって魔核の力を引き出す適正というものがある、というのが政府の見解だった。



 人々はこれを『魔導適正』と呼んでいる。

 魔導適正が高ければ高いほど魔導器と魔核がもたらす現象発現能力を比類なく操る事ができる。そういった適正が高い才能ある人間は国からも特に優遇されていた。



 世間では魔導適正というのは人間誰しも持っているというのがあたりまえになっているが……実際はそうじゃない。

 ごく希に、この魔導機関が普及した現代において、その技術の恩恵を授かれない人間も確かに存在した。

 彼等は他の人達が産まれながらにしてあたりまえのように持っているものを持ち合わせていなかった……彼等は産まれた時から魔導適正が無かったのだ。



 『不適正者』

 魔核の力を引き出す事が出来ない人間に付けられた無能のレッテル……かくいう俺もその一人だった。

 今の時代、不適正者に対する国からの風当たりはとても酷いものだった。

ただ魔導器が使えないというだけで正当な扱いはされず、職にもつくことができず路頭に迷う者も山程いた。



 「そっか……そうだったね。魔核を必要としない、適正が無い人達にも使うことが出来る魔導器を作る……それが、ヤト兄の夢だもんね」

 「ああ……こんな機械と小さな石で人の価値が決められるなんて……そんなの……」



 ……そんなのおかしいだろ。

 適正が無い。たったそれだけの事で人の人生が左右されるなんて絶対に間違ってる……だから……



 「……必ず完成させる。正直どこまでやれるか俺にはわからない……けど俺は……諦めたくない……」



 その為に俺は魔導師士官学校に入ったんだ。

 学校に入れば軍属として魔導器と魔核の一式が生徒達に支給され、魔導機関研究用ラボの使用許可もおりる。この二つは俺の目指している物に必要不可欠だ。

 だが魔導師士官学校は魔導適正が高い者と、魔導器と魔核に精通した知識を持った者しか入学することは許されない。



 不適正者の俺が入学するには後者しかない。

 だから死ぬほど勉強した。

 過去に発表された論文も最新の研究論文も全て頭の中に叩き込んだ。

 その成果もあって俺は去年、晴れて魔導師士官学校に入学することが出来た。



 今はまだ遠いけど目指している物に一歩ずつ確実に近づいている……いつか必ず実現さてみせる。



 「大丈夫だよ。ヤト兄がここまでずっと頑張ってきたのアタシ知ってるもん。だから大丈夫、ヤト兄なら絶対に出来る……アタシが保証するよ!」

 「……栞奈」



 栞奈は屈託の無い笑みを俺に向けてくれている。



 「フン、お前に保証されたところで何の意味もないだろうが」

 「ちょっと!? 人が良いこと言ってるところに水差さないでよ!」



 ……おいおい、人が居ないからってここで喧嘩なんかしないでくれよ……



 「……だが夜斗君が頑張っていたことは私も知っている。夜斗君、君は努力の人だ。自分の目指す物の為にひたすら努力を積み重ねる、いわば努力の天才だ。君なら必ず掴めると私は信じているよ……だがもし助けがほしい時が来たときは迷わず私を頼れ……いくらでも力になるからな」



 ……ありがとう、兄貴。その気持ちだけで俺はすごく嬉しいよ……嬉しいけど……



 「……兄貴」

 「なんだね?」

 「……顔……近いんだけど……」

 「兄弟なのだから恥ずかしがる必要はないだろ」



 ……いや、そういう問題じゃなくて……



 「ごぅらあっ! 霧夜! アンタ、ヤト兄に馴れ馴れしいのよ! いい加減離れろー!」



 俺にほぼゼロ距離まで近付いていた霧夜を、栞奈は力ずくで引き離す。



 「おっと危ない……随分と強引だな妹よ。夜斗君を盗られたのがそんなに気に触ったか? ……それともお前も夜斗君にベッタリしたかったのか?」

 「へっ!? べ、別にそんなんじゃないわよ! アタシはただ、ヤト兄が嫌がってるように見えたからそれで……!」

 「照れるな照れるな。お前の考えている事など簡単にわかる……まぁ代わりといってはなんだが、夜斗君に代わって私がお前を抱きしめてやろう……さぁ妹よ、私の胸に飛び込んでこい!」

 「誰が飛び込むか! ホンッッッットにアンタはいっつもいっつも――――」



 ……ほんと元気だな、この二人……でもまぁ……この人達が支えてくれたから、今の俺があるんだ。

 兄貴と栞奈に、今は家で引きこもってる母さん。皆が側にいてくれたから俺はこうやって生きていられるんだよな。



 やっぱ良いな~家族って……







 ――――夜斗! 貴様など生まれてこなければよかったのだっ!







 ……あの頃とは……全然違うな……



 幸福を感じた時に、不意に脳裏に浮かび上がったのは、心の奥底に刻み込まれていた一生消えない傷。

 まるでそれは、今ある幸せに浸る俺を戒めるかのように胸を締め付ける。



 ……関係ない……俺は、あの家とはもう……何の関係もないんだ……



 「……どうしたのヤト兄……どこか痛いの……?」

 「……え?」



 俺の表情の変化に気づいた栞奈が心配そうに俺の顔を覗き込む。



 ……やべっ、顔にでてたか……あんまり余計な事で心配かけたくないんだが……



 「どうした夜斗君、何かあったのか?」

 「いや、別に、何でもないよ。ちょっと考えことしてただけだから……あ~、っにしても見えにくいなぁ……やっぱ来るのが遅かったかねぇ~」



 心配かけまいとして明るく振る舞ってはみたが栞奈の表情は以前変わらず曇ったままだった。



 ……駄目だ、全然笑ってない。やっぱ少しわざとらしかったか……



 「……ねぇヤト兄、ほんとに――」

 『皆様、大変長らくお待たせいたしました。まもなく羽柴グループ会長、羽柴 宗一郎によります、新型魔導列車の説明会を開催させていただきます』



 栞奈が俺に何か言おうとしたその時、ホーム天井に付いている拡声器から女性の声でアナウンスが聞こえてきた。



 「そういえばもうすぐ説明会の時間か……」

 「……ねぇ、ヤト兄。ホントになんともないの……?」

 「……ああ、平気だよ……栞奈が心配するような事は、なんもないからさ」



 「そう」と静かに呟き、栞奈はそれ以上追求をしてこなかった。



 アナウンスが流れてから暫くして、魔導列車が展示されている所から離れた場所にある物資搬入口通路の巨大なシャッターが大きな音を立てて開いた。

 申し訳程度に蛍光灯が光る通路の奥から重量のある音が響いてきた。

 重みのある音が段々と俺達のいるホームに近づいてくる。

 そして、その音の大元が俺達の前に姿を現した。



 「うわっ! おっきい~……何あれ!?」



 搬入口通路から現れたものを見て、栞奈は驚きの声をあげる。



 「……まさかアレ……『機械人形』か?」



 暴徒鎮圧用兵器『機械人形ゴーレム

 全長三メートルにも及ぶ機械仕掛けの人型兵器で、対象を感電させ無力化させる電磁銃と捕縛するネット銃を武装したこの兵器は量産化され魔導器に次ぐ新たな兵器となる……はずだった。



 「……へぇ~アレが機械人形かぁ……あれ? でも、機械人形って確か……」

 「ああ、機械人形の製造はとっくに中止されてる……なのにどうして……」



 当初、次世代の兵器としてその活躍を期待されていた機械人形だが、実際は製造プランが建てられただけで開発には着手されなかった。その理由は技術的な問題と予算にあった。



 機械人形は現代の科学技術をもってしても製造するのが非常に困難だという事に加え、例え完成したとしても一体製造するだけで莫大なコストがかかる事が判明したのだ。

 机上の空論に等しい開発計画に一体だけで何千万もする兵器、ましてや量産化させるなど夢のまた夢。とてもじゃないが不可能だ。



 そう判断した各国の製造メーカーは一斉に開発計画から手を引き、次世代兵器機械人形は日の目を見ることなく、その製造プランは凍結された。だが……



 「っ! アレって……!」

 「ほう……これは圧巻だな……」



 俺は今、自分の眼に映るものが信じられなかった。搬入口から出てきた機械人形は一体だけではなかったのだ。



 「機械人形が……三体……」



 噂でしか聞いたことがなかったあの機械人形が……完成された実物の機械人形がここに……!



 「……どうやらアレも羽柴グループが開発した物らしいな……羽柴 宗一郎……なかなかの遣り手のようじゃないか」



 三体の機械人形が魔導列車の前にある、マイクが立てられている演壇の近くで待機している。どうやらあの機械人形はこれから現れる羽柴 宗一郎の警護の為に配置されたようだ。



 「ねぇヤト兄、もしかしてあの人じゃない……会長さんって……」



 機械人形が出てきた通路から一人の男性が現れた。

 寝癖のようなボサボサ頭、ズボンから出ているヨレヨレの白いシャツの上にブカブカの白衣を着た、なんとも気だるそうな眼をした中年の男性がのんびりと演壇まで歩いていく。



 ……なんだあの野暮ったい奴は……まさか、あのだらしなさそうな奴が大会社の会長なのか?



 『あ~……どうも皆さんこんちわ。え~俺が羽柴グループの会長をやってる羽柴 宗一郎というもんです……え~どうぞよろしく……』



 壇上に上がり、用意されたいたマイクに向かい喋りかける白衣の男。



 ……マジかよ……ホントにアイツが日本最大の企業、羽柴グループの会長なのかよ……



 『え~……この度は、わが社が開発した新型魔導列車の展示会に来ていただいてどうも感謝してます。え~と、この時間は新型魔導列車の説明会となってますが……まぁ言ってもどうせわからねぇと思うんで、会場入りした時に配られたパンフを適当に読んどいて下さい……以上、説明終わり……じゃ、俺は帰るんで後は各自で適当に見てってください。』



 はぁぁぁ!? なんだそりゃ!? どんだけ適当なんだよアイツ!?



 「はっはっは! なかなか面白い御仁だな彼は……私とウマが合いそうだ」

 「……そう思ってんのはこの会場で兄貴だけだよ」



 それにしてもなに考えてんだアイツ……この会場には海外の企業関係者も来てるんだぞ……そんな場所で人を馬鹿にしたような発言なんてしたら……



 「――――ふざけるなっ!」

 『…………あん?』



 ……案の定だった。

 羽柴 宗一郎の説明を最前線で聞いていた外人男性が手に持っていたパンフレットを床に叩きつけ怒りを露にしだした。



 「こっちはわざわざ海外から来ているのだぞ! それなのに、言ってもどうせわからないだとぉ……馬鹿にしているのか、貴様ぁ!」

 『……馬鹿になんてしてませんよ。俺は事実を言ったまでで、そこに他意はねぇっすよ』

 「嘘をつくなっ! だいたいなんだこの機械人形はっ! 魔導列車の展示会ではなかったのか……我々企業への当て付けのつもりか!」

 『こいつらは只の護衛ですよ。それ以上でもそれ以下でもない……それなのにピーチクパーチクとやかましい……阿呆か、お前』

 「な、なんだとぉ!? 貴様ぁ!」



 ……なんだかヤバそうな空気になってきてるな……周りの連中もピリピリしてきたし……ってかどんだけ適当なんだよ、アイツ……



 「ね、ねぇヤト兄、なんかヤバいよ……」

 「大丈夫だろ、別に。ここには警備員が沢山居るんだ……それに、いざとなったら機械人形だって――――」

 「そうじゃなくて……機械人形の様子がおかしいの!」

 「…………はっ?」



 羽柴 宗一郎の警護をしていた機械人形の全身に突然青白い電流が走り、そして糸が切れた人形のようにガクッと項垂れてしまった。



 「……システムエラーか?」



 どうやら羽柴 宗一郎本人にも機械人形に何が起きているのか把握しきれていないようだ。



 そうこうしている内に機械人形の中から機械の起動音が聞こえてきた。

 再起動した機械人形は項垂れていた上体を起こし、首だけを動かして周辺を見回している。



 ……何だ? なんかさっきと様子がおかしい……?



 「羽柴会長、念の為にこちらへ避難を……」



 事態を重く見た警備員の一人が羽柴 宗一郎を安全な所へ避難させようと彼に近づこうとする。

 だがその行く手を遮るように羽柴 宗一郎と警備員の間に機械人形が立ち塞がった。



 「な、なんだっ!?」



 突然目の前に立ち塞がる機械人形。予想外の出来事に警備員は驚きを隠せないでいる。

 機械人形は右腕部分に取り付けられている電磁銃の銃口を警備員に向けて構えだした。



 「――――っ!」



 っ!? まさかっ!



 そして電磁銃の銃口から警備員目掛けて――――火花が散るような音と共に圧縮された大口径の電気の弾丸が発射された。



 「グァアアアアアアアアッ!?」



 ホームに響く警備員の断末魔にも似た叫び声。電磁銃を受けてしまった警備員はその場に倒れて意識を失ってしまった。

 警備員の体には目に見える程の電流が今だに走っている。鎮圧用の装備とはいえ、その威力の高さを物語っていた。



 マジかよ……あの機械人形、ホントに撃ちやがった……!



 「う、うわああああああああっ!?」

 「きゃああああああああああっ!?」



 警備員が撃たれる所を目の当たりにしてしまったホームにいる観客はみな一斉にパニックに陥った。

 ホームにいる人間は全員、我先にと外へと続く出口に向かって走っていく……だが。



 「全員動くなっ!」



 突如、アサルトライフルを装備した複数の男達が出入口から現れ、逃げ道を塞ぎ外へ逃げようとした観客達を一瞬で包囲してしまった



 「この場所は我々が占拠した。死にたくなければ、我々の言う通りにしてもらおうか……」



 ……何だアイツ等、突然現れて……一体何が起きてるんだ!?



 「…………羽柴 宗一郎だな」



 武装した集団のリーダー格らしき男がいつの間にか、羽柴 宗一郎のいる壇上へと上がって来ていた。

 その男は他の者達同様、黒の迷彩服を着た大柄の男だったが、何故かその男は銃を所持していなかった。



 「……お前さん達か……うちの大事な発明品を勝手に動かしてる奴は……」

 「羽柴 宗一郎。お前にはここにいる者達と一緒に我々の人質になってもらうぞ……我々の目的の為にな」



 ……人質……今確かにそう聞こえた。ってことはアイツ等は……



 「う、動くなっ!」



 先程、機械人形に撃たれてしまったのとは別の警備員が壇上に現れ、腰のホルスターから拳銃を抜き、その銃口をリーダー格の男に向ける。



 「ほう、この状況でまだ我々に楯突くとは……見上げた度胸だな」

 「て、手をあげてお、大人しく……投降しろ、さもなければ……う、撃つぞっ!」



 銃口を向けられているにも関わらず、リーダー格の男は依然として不遜な態度を崩さないでいる。



 「ふっ、どうした。手が震えているぞ、銃を人に向けるのは初めてか? そうまでしてお前は自分の職務を全うしたいのか?」

 「う、うるさいっ! 早く……早く手をあげろぉ!」

 「……ああ……わかったよ。お前のその勇気に免じて……言う通りにしてやろう」



 そう言ってリーダー格の男はポケットに突っ込んでいた手を引き抜き、警備員の前で両手を頭の上にまであげてみせる。



 だがその右手にはある物が握られていた。

 それは手のひらサイズの小型の機械端末。少し形は違うが……俺が持っている物と同じ機械だった。



 「そして、お前の勇気に敬意を評し……職務に殉じる手伝いをしてやろう!」



 リーダー格の男が持っていた機械が蒼い輝きを発し、男の足下に蒼い円形の陣が浮かび上がる。



 「消え失せろ!」



 そして男は徐に左手を警備員の方へ翳す。すると翳した手のひらから黒い雷が発せられ、それを警備員に向けて一気に放出させた。



 「あ………………」



 それはあっという間だった。

 放たれた黒雷は警備員に悲鳴をあげる暇すら与えずに一瞬で彼を飲み込んでしまった。



 雷が消えて警備員がいた場所には、異臭を辺り一帯に撒き散らす真っ黒に焼け焦げた『人間だったモノ』が残されていた。



 「……っ……酷い。あんな……あんな死にかたって、ないよ……」

 「……夜斗君、あの男が持っているのはもしや……」

 「ああ……間違いない。アイツが持っているアレは……魔導器だ」



 しかもあの威力……並の魔導適正ではあそこまでの力は引き出せない……



 「さて、諸君……改めて自己紹介をさせてもらおう。私の名はムタ。この武装組織を束ねる者だ」



 武装組織……テロリストか。まさか、魔導師がテロリストに成り下がるなんて……



 「我々の要求は一つ。政府の科学技術部が管理、保管している魔核を……全て! 我々に明け渡してもらう!」



 ……連中の狙いは政府が所有している魔核か……



 「政府がこの要求をのみ、全ての魔核を我々が手にする事ができればその時は、君達全員を生きてここから帰す事を約束しよう……だが、もし政府がこの要求をのめなかった場合、その時は君達を使ってそれ相応の対応をとらせてもらう」



 それ相応……最悪、見せしめにって訳か……



 「……状況はあまり芳しくないな……最悪このままでは罪もない人達の血が無闇に流されてしまうことになってしまうな……」



 ……どうする、このままじゃ……



 「……ねぇ、ヤト兄、霧夜」

 「……栞奈?」

 「アタシ達でさ……ここにいる人達を助けようよ!」

 「はぁ!?」



 俺達三人だけで……アイツ等を制圧するってのか!?



 「な、なに馬鹿な事言ってんだ!」

 「だってこのままじゃ皆殺されちゃうんだよ!? アタシ達は魔導師候補生だけど軍人なんだから……アタシ達が助けなきゃ……!」

 「駄目だ、危険すぎる! ここは大人しく機動隊が来るのを待って――――」

 「それじゃ間に合わないよ! それにアイツ等が目的を達したとしても……ホントに皆を解放する保証なんて何処にもないんだよっ!」

 「……っ……それは……」



 ……確かに、栞奈の言ってる事は正しい。ここにいる人達は全員アイツ等の顔を見てる……そんな人達を連中が放っておく訳がない……



 ……けれど……俺達だけでなんて、いくらなんでも……



 「……ヤト兄……ヤト兄はなんで新しい魔導器を作ろうと思ったの?」

 「……え?」



 ……なんで、急にそんなことを……?



 「前に言ってたよね……適正が無い人でも使える……新しい魔導器を作って今の社会を変えたいって、言ってたよね……でも、ヤト兄の根っこはもっと単純なものでしょ?」



 栞奈は真剣な表情で俺に語りかけてくる。

俺を真っ直ぐに見つめるその眼は、少し潤んでいるようだった。



 「ヤト兄が……本当にしたいのは……誰かの力になること……助けを求めている人達の力になりたいことでしょ……!」

 「……………………っ!」



 ……俺の……本当にしたい事……



 「魔導器だって……本当は社会を変えたいからじゃなくて……適正が無い人達を助けたいからでしょ? ……自分がそうだったから……適正が無いのがどれだけ苦しいか、ヤト兄はそれを誰よりも知ってるから……」

 「…………栞奈」

 「……アタシ達の目の前には今、助けを求めている人があんなに沢山居るんだよ? 皆、凄く怖がってる。その人達を助けようとしないなんて……そんなの……アタシの知ってるヤト兄じゃ……ない……」



 気がつくと栞奈は泣いていた。大粒の涙が頬を伝い、ポタポタと床にこぼれ落ちていく。



 「……なんで……お前が泣いてんだよ?」

 「……だって……」

 「…………ったく」



 少しでも慰めになればと思い、俺は泣いて俯く栞奈の頭に手を置き優しく撫でた。



 ……ああ……そうだ……そうだった。俺が本当にしたかった事は、助けを求める人達の力になりたかったんだ。いつの間にか俺は……自分の大事な根っこを忘れてたんだな……



 ……それを妹に気づかされて、おまけに泣かしてるようじゃ……兄としてはまだまだだよな……



 「なぁ兄貴……兄貴ってさ、士官学校では何を専攻してるんだっけ……」

 「……私が専攻しているのは二つ。魔導術学そして…………戦術学だ」

 「そっか。じゃあさ――――」



 ……だったら……







 「――――皆を救出する為の戦術プラン……立ててくんない」







 ……だったら……ちゃんと挽回しないと……!



 「っ! ヤト兄……」

 「少しはお前にも、格好いいところ見せないとな……」

 「ううん! 大丈夫! ヤト兄は……すっっっごく格好いいよ!」



 ははっ……こりゃ頑張らないとな……



 「全く、せっかくの休日にテロリスト退治をするはめになるとは……今日は散々だな」

 「そういうわりには兄貴、顔が笑ってるよ」

 「フッ、悪しき者達に捕らわれた人々を助けるために立ち上がる……結構な事じゃないか!」



 なんだかんだ言って、兄貴もヤル気じゃんか……やっぱ考えることは同じか。



 「それでは夜斗君。君にこれを……」

 「は? これって……」



 霧夜が俺に手渡してきた物は、鞘に納められた刃渡り三〇㎝程の『キンジャール』と呼ばれる型で、鍔のない両刃の短剣だった。

 我が家に古くから伝わる家宝の一つで魔導師士官学校への入学が決まった次の日に母がくれた思い入れのある短剣だ。



 確かこれは俺の部屋にある机の引き出しにしまっておいたはず……



 「兄貴……これ、どうして?」

 「フフフッ、こんなこともあろうかと思ってな、屋敷を出る前に夜斗君の部屋から拝借しておいたのだ」



 ……また勝手に俺の部屋に……っていうか……



 「……兄貴それ、今まで何処に隠してたの……?」

 「それは――――残念ながら企業秘密だ」

 「……さいですか。まっ、助かったからいいけどさ」



 ……これで武器の方は心配ないな……後は……



 「どう、兄貴……いけそうか?」

 「問題ない。既に戦術プランは私の頭の中に組上がっている……いつでも始められるぞ」

 「はは、流石は戦術学専攻、頼りになるね……栞奈は?」

 「大丈夫。アタシもいけるよ、ヤト兄!」

 「よし。じゃあ兄貴、教えてくれ……兄貴が考えた戦術を」

 「ああ、任せておくがいい」



 ……たった三人でテロリスト退治か……けど……



 「……必ず助ける……」



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