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黒の奇譚 ~夜王転生録~  作者: アメフラシ
第一章 黒廼家
1/9

第一話 いつも通りの朝

初投稿……緊張で心臓バックバク、手ブレッブレ……(;´д`)

楽しんでいただければ幸いです。



 




『このでき損ないがっ! 一族の面汚しめ!』



 ……うるさい



『我らと同じ紅上こうがみの血を引いておきながら、魔導適正がゼロだとは……とんだ役立たずだな、お前は!』



 ……好きでそうなったんじゃねぇ



『先代当主の息子が無能とは……これでは亡くなった先代も浮かばれないな……』



 ……親父は関係ないだろ



『あの子供は呪われている……間違いない!』



 ……そんなわけあるか



『気安くウチの子に近づくんじゃないわよ! アンタの呪いがウチの子にうつったらどうするの! さっさと何処かに消えなさいよ!』



 ……人を病原菌みたいに言うな



夜斗やと! 貴様など生まれてこなければよかったのだっ!』



 …………っ!



 うるさい

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!



 お前らが望んだから親父の跡を継ごうとしただけじゃねぇか!

 死んだ親父の代わりに家族を守りたかっただけじゃねぇか!



 それなのにお前らは……力が無いってわかった瞬間に手のひら返しやがって……!



 俺は……俺は……



 ただ、誰かの力に……なりたかっただけなのに……


 誰かに必要とされたかった……ただ、それだけなんだ……





 静寂に包まれた真っ暗な空間。

 大勢のいつか見た顔の大人たちが、一人の子供を蔑んだ眼で見下し囲んでいる。

 その子供は今にも泣き出しそうな表情で、自分に向けられる視線を振り払うかのように声を張り上げていた。それはとても悲痛で、とても苦しそうな声だった。

 その様子を遠目から見ていた俺は、大人たちから蔑みの目を向けられている子供が一体誰なのか……本能で理解した。



 ……あれは、子供の時の俺だ、と



 すぐにわかった、『これは夢なんだ』って。

 忘れもしない、まだ幼かった時分に味わった視線。同じ血を引く連中から注がれる悪意。



 周りの人間たちから寄せられる期待に答えようと、必死に、そしてがむしゃらに、生きていた自分。



 死んでしまった父に変わり残された家族を守れる存在に、父のように大勢の人たちから必要とされる存在になりたいと願った自分。



 齢十歳の時分で自分という存在を押し殺し、家のためだけに生き、そして……最後には『出来損ない』の烙印を押された幼き日の自分自身がそこにいた。



 嫌な夢だ、気分が悪い。

 いつまでもこんな記憶に浸っていたくない。



 帰ろう。

 早く元の場所に戻ろう。

 ここに俺の居場所なんてものは……もう存在しないのだから。




 ◇◇◇




「…………う、ん…………」



 柔らかいベットの上で意識が覚醒する。すると最初に視界に映ったのは、見慣れた自分の部屋の白い天井だった。



 ……帰って……きた。



 外から聞こえてくる鳥のさえずりに窓から射し込む眩しい程の日差し。どうやら朝のようだ。

 自分の体を包み込む柔らかいベットの感触を確かめながら、俺はもう一度目を瞑り先程の夢の事を思い出す。



 ……あれから七年も経ってるっていうのに、まだ引きずってるのか俺は……我ながら女々しいな……



 心の中で自分を卑下すると同時にそんな自分に嫌悪感を抱く。過ぎたことをそんなに気にしても仕方ないとわかってはいるが、どうしても考えてしまう自分がとても嫌になる。



 ……馬鹿らしい。終わったことをグチグチ考えて心を乱すなんてそれこそ時間の無駄だ。

 考えるのはやめてもう起きよう。

 大切なのは今だ。目を開けばそこには俺の大切な日常が待って――――







「――――おはよう夜斗君。今日もいい朝だぞ」





「………………ぇ」



 目の前には俺の顔を覗き込む青年がいた。それも鼻先が触れ合うくらいまで青年は、その綺麗な顔を近づけ……って顔!?



「おわぁあああああああああっ!?」



 我ながら情けないとも思う悲鳴にも似た絶叫が部屋全体に満遍なく轟いた。



 なにっ!? 顔っ! 顔近っ! ってか、いつのまに部屋ん中にっ!?



 寝起き一発目からのどぎつい光景に驚いた俺は、ベッドから転げ落ち、床を這いつくばりながらも壁際まで避難する。



 いや、だって、そりゃ驚くでしょ!?

 目ぇ開けたらいきなり男の顔がドアップで視界に飛び込んできたら、誰だってそうなるだろ!?



「おやおや、朝から元気いっぱいだな夜斗君は。私は低血圧だから朝は弱くてね、朝からそんなに動ける君が羨ましいかぎりだ」

「羨ましいかぎりだ、じゃねぇよ! 勝手に俺の部屋に入ってくんなって何度いったらわかるんだよ……兄貴!」



 この少し上から目線で喋りかけてくるこの金髪碧眼の青年の名前は霧夜きりや、俺の兄貴だ。



 容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。おまけに俺が通う学校の生徒会長を勤める校内一の秀才である……が少々性格に難ありな人。



「つれない事を言うではないか。朝食の準備が出来たから起こしにきたというのにそんな言い方をされては……流石の私でも傷ついてしまうというものだぞ?」

「うわぁあ!? 近い! 顔が近い! 近いから! 必要以上に近づいてくんなっ!」



 金色の髪をなびかせながら霧夜が俺の側により、その綺麗に整った顔を俺の耳元にわざと近づけ息を吹き掛けるようにして喋りかけて、耳にゾワッとした感覚が走った事により、顔を強張らせてしまった俺を見る霧夜はとても楽しそうな表情をしていた。



 ……これだ。

 この人は身内をからかうのが三度の飯よりも好きで、いつもいつも俺にこんな事ばかりしてくる……根は家族思いのいい人なんだが……ってか、いつまで顔を近づけてんのこの人はっ!? 耳にずっと息がかかってんだよ! 頼むからもう止めてくれっ!



「――――なぁ~にしてんの……よっ!」



 声が聞こえたと思った次の瞬間、部屋全体に鐘を打ちならしたような甲高い音が響いた。



「ブフッ!?」



 突然床に突っ伏してしまった霧夜の背後を見ると、そこには女の子がいた。女の子の右手には底がへこんでしまった鉄のフライパンが握られていて、それが霧夜の頭部を打ち抜いたということが直ぐにわかった。



「いつまでたっても降りてこないから様子を見に来てみれば……まったく、これだったら霧夜なんかに任せないで、アタシがヤトやとにいを起こしにくればよかった……」



 瞳と同じ橙色に染まった髪をポニーテールに結い、フライパン片手に立っていた気の強そうな女の子の正体は妹の栞奈かんなだった。



 出てきていきなり自分の兄をフライパンで殴っちゃうような子だが、そんなことをする相手は霧夜だけで実際は心の優しい子……の筈。



 栞奈も俺や霧夜と同じ学校に通っていて、俺の一年下の後輩にあたる。聞いた話では学年問わず男子生徒から人気が多く、密かにファンクラブも出来ているそうだ。



 俺達は三人共……将来、軍に所属する魔導師を養成する学校である『魔導師士官学校』に在籍する生徒であり、魔導師候補生だった。



「な、なぁ栞奈……フライパンはちょっと……やり過ぎなんじゃ……」

「ん? ああ、平気平気。フライパンで頭殴ったくらいじゃ、霧夜はびくともしないから、だいじょ~ぶ」



 大丈夫ってお前、さっき凄い音したよ?

 フライパンもなんか使い物にならなくなってる位だし……本当に大丈夫か?

 ……ってか、なんでフライパン?



「――――不意打ちとはなかなかやってくれるではないか、妹よっ!」

「うひゃあ!?」



 うおっ!? もう復活したよこの人、すっげぇ石頭……



「実の兄に対し遠慮のない一撃……我が妹ながら、その容赦の無さに戦慄が走ったぞ、妹よ!」

「うっさい、何が戦慄よ! だいたいアンタがヤト兄をさっさと起こさないのがいけないんでしょ! 早くしないとせっかく作ったご飯が冷めちゃうじゃない!」



 ああ、そっか……そういえば今日の朝食当番は栞奈だったか。

 そうか、だからフライパンなんて持ってたのか。



「フン……確かに妹の言うことにも一理ある。私にも非があった事は認めよう……だがしかし! これだけは言わせてもらおう妹よっ!」

「…………何よ?」

「私の事は『アンタ』ではなく、『お兄ちゃん』もしくは『お兄様』と呼ぶのだっ!」

「ぜっっっったいにイヤッ! っていうかアンタ、アタシの話聞いてないでしょ!? ちゃんと話を聞きなさいよ!」

「妹こそ私の話をよく聞くんだっ! そもそもお前には妹としての心得が無さすぎるぞ! いいか、妹というのはだな……」



 ああ、またか……

 毎日のように繰り広げられている兄妹喧嘩が今日も始まった。



 いつもの光景から始まる四月中旬、休日の朝。

 天気は快晴、本日も平常運転なり。



「だいたいアンタはねぇ……!」

「お前という妹は……!」

「お、お~い……もうそろそろ、その辺で……」




 ◇◇◇




 喧嘩する二人をなんとか宥めた後、俺達は一緒に部屋を後にして一階のリビングへと向かうと、広いリビングの中央に置かれている縦長のダイニングテーブルの上には、既に三人分の朝食が用意されていた。



 分厚めにカットされた焼きトマトとカリカリに焼いたベーコン、しっかりと火を通した目玉焼きやトースト。その全てが一枚の白いアンティーク皿に見事に調和されていて、見ただけで胃袋が刺激され空腹が一気に加速していく。



 ……すっげぇ旨そう……あれ? テーブルにあるのは三人分だけか……?



「……なあ、栞奈。母さんの分がないみたいだけど……あの人は?」

「ああ、お母様なら寝てるよ。一応起こしてはみたけど、夜まで寝たいからそっとしておいて、ってさ」



 またか。

 相変わらず朝が苦手なんだなぁ、あの引きこもりは……まぁ仕方ないと言えば仕方ないけど。



「そんなことよりもさっ、早く食べてみてよ! それでちゃんと出来てるかどうか、感想聞かせて!」

「ならば妹よ。私も兄として、夜斗君と共に味の感想を……」

「あ、霧夜は別にいいから。先に食べちゃってていいよ……ほらっヤト兄、早く!」

「お、おう……」



 とりあえず栞奈に促されるまま俺は食卓につき、少し冷めてしまった朝食を口に運ぶ。



「……どう、かな……もしかして美味しくない……?」



 相当不安なのか心配そうな面持ちで栞奈はこちらを見つめてくる。



「……そんなことないって。大丈夫、凄く美味しい」

「ほんとに! よかったぁ~!」



 俺の感想を聞いた栞奈の表情に、満面の笑みが浮かぶ。

 その嬉しそうな顔を見てると、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう位の笑顔だった。



「ふむ……確かに、以前に比べると段違いの旨さだ。前まではいったい何を使ったのかがわからない位の物ばかりだったからな。見た目がドス黒くて、苦味だけしか感じられない料理……それに比べればほとんど焼いただけの物だがたいした進歩だ。見事だぞ」

「アンタねぇ……誉めてんのか貶してんのか

 どっちなのよ! っていうか、なんでそんな上から目線なのよっ!?」

「愚問だな。それは私が兄だからだ」

「答えになってない!」



 ……まぁ、今のは兄貴の言い方が悪かったが、実際に栞奈の料理は以前とは比べ物にならない位に上達したな。

 前までは作る料理全てが黒焦げで、栞奈が食事当番の日は食卓が黒一色に染まっていたぐらいだった。



 流石にそれはマズイ。

 味もそうだがなによりも女の子としてその調理スキルの無さは非常にマズイ。

 それについては本人もそこはかとなく自覚していたらしく、このままではいけないと危機感を感じていたそうだ。



 そして自分に料理を教えてほしいと、何故かわからないが俺に白羽の矢がたち、今に至る。

 あの頃に比べればよくぞここまで成長してくれたものだ……焼いただけだけど。



「まったくもう……」



 うんざりしているようにも見える疲れた表情を浮かべながら栞奈は席につき一息つく。



「あ、そうだ……ねぇヤト兄、朝ごはん食べ終わったらさ、その……よかったら一緒に買い物に行かない?」

「……買い物?」



 突然思い出したかのように栞奈が俺を買い物に誘う……心なしか顔が少し赤くなっているいるようにも見えた。



「別に構わないけど……なんで俺と? 友達と行けばいいのに」

「えっ? あ、ああ、まぁ、その……それはそうなんだけどさ。たまにはさ、その……ね? 一緒に買い物に行きたいな~なんて……ダメ、かな……?」



 ……妙に歯切れの悪い頼み方だな。

 いつもストレートに物を言う栞奈らしくないな。それになんだかいつもと違って……しおらしい……なんでだ?



「……ねぇ、ヤト兄?」



 ……ああ、わかった。なるほどね……そういう事か。



「……大丈夫だって栞奈。そんな不安そうな顔しなくてもお前が思ってることはちゃんと伝わってるって」

「ええっ!? ヤト兄……そっ、それって……」

「ああ、俺でよかったらいくらでも付き合ってやるよ……荷物持ち」

「………………はっ?」



 栞奈は優しい子だからな。

 俺に荷物持ちを頼むの事に気が引けて、だからあんなに言葉を詰まらせていたんだろう。

 ……兄妹なんだからそんな心配する必要ないのに。ほんと、いい子だよ。



「兄妹なんだから遠慮する必要はどこにもないんだ……だから喜んで付き合わせてもらうよ、荷物持ち」

「……ああそう。そうですか、それはどうも……」



 ……? なんか急に元気がなくなったように見えたけど……気のせいか?



「ふっ、夜斗君はもう少し、女性の気持ちという物を勉強した方がよさそうだな。さて、そこで沈んでいる哀れな妹よ、私のカップが空いてしまった……紅茶のおかわりを所望する」



 霧夜の言葉に一切返事を返さずに栞奈は紅茶の入った白いポットを手に持ち徐に席を立つ。注ぎ口から出る白い湯気を立ち上らせながら、霧夜が右手に持つティーカップに紅茶を注ぐ……無言で、無表情で、そして滝を連想させるかのような強い勢いで注いでいく。



「ご苦労。普段からこれくらい素直であれば、少しは可愛いげも、って熱!? あ、熱、熱い!? 溢れてる! 盛大に溢れているぞ、妹よ!?」



 慌てふためく霧夜を尻目に栞奈はふん、と鼻を鳴らし自分の席に戻る。眉間に皺をよせているその表情は、とても不機嫌そうだ。



 ……怒ってる、理由はわからないがすっげぇ怒ってる。

 兄貴と言い合いをしていた時とは比べ物にならない位に憤慨していらっしゃる……何故?



「あ、あの~……栞奈さん? よろしければその、俺にも紅茶を淹れていただけないでしょうか……?」

「……自分で淹れれば……バカ兄」

 


 ……何故っ!?




 ◇◇◇




 一悶着ありはしたが無事に食事を終えた俺は、部屋に戻り服を着替え、先に表へ出て栞奈が来るのを待っていた。



「……いい天気だわ、ほんと」



 家の洋館の壁に背中を預ける形で寄っ掛かりながら、雲ひとつない青空を仰ぎ見て時間を潰す。

 人里離れた郊外の森の中にある我が家の周りには木々が生い茂っていて、時折吹く風が木を揺する。その時に生じる葉と葉が擦れる小気味良い音に耳を傾けていた。



「ごめんヤト兄遅れちゃって………もしかしてけっこう待った?」



 年期の入った玄関の木造扉が音をたててゆっくりと開き、外着に着替えた栞奈が家から出てきた。



 白いシャツの上にニットカーディガン、下はデニムのショートパンツという動きやすく、それでいてどこか大人っぽい雰囲気の服装だった。



「全然待ってないって。俺も今さっき外に出たばっかだからさ、気にしなくていいって」

「そっか、ありがと……やっぱり優しいねヤト兄は」



 そう言った栞奈の顔は笑っていた。どうやら食事の時の一件を引きずらずに機嫌をなおしてくれたみたいだ。



 よかった……ほんとよかった。

 あのギクシャクした感じのまま一緒に買い物に行くとか、ある意味拷問だからな……いやよかった、ほんと。



 けど……なんで急に機嫌が悪くなったんだ? なんか兄貴は俺のせいだ、みたいな事を言ってたけど。う~ん……まったくわからん。



「さてと。今日はとことんアタシに付き合ってもらうからね……ふふっ、覚悟しといてよねぇ~ヤト兄!」



 ……まぁいいか。

 栞奈が楽しそうならそれで。



「はいはい、最後まで付き合わせていただきますよ……んで、最初は何処に行くんだ?」

「んとねぇ~とりあえず最初は――」

「――待ちかねたぞ、二人とも!」



 突然響いてきた聞き慣れた声。その方を見ると何処に隠れていたのか、道の真ん中で兄の霧夜が何故かしたり顔で仁王立ちしていた。



「……兄貴? 何してんだ、そんなところで」

「フッ、いやなに……私は今日、久々のオフでね。部屋でどう時間を有意義に過ごすか考えていたのだよ。そのときに先程の二人の会話を思い出してね……せっかくなので私も御一緒しようと思い、こうして二人を待って――――」

「行くよ、ヤト兄」

「へっ? あ、おい」



 霧夜の話が途中なのにも関わらず俺の手を引き、何事もなかったかのように栞奈はこの場を去ろうとするが、霧夜はそれを良しとしなかった。



「だぁぁぁ、待て待て待て待て! 人が話をしている真っ最中だろうが! まったくお前は……もう少し人の話を聞く姿勢をだな――」

「……何しにきたのよ」

「いや、だから、私も一緒に同行をだな……」

「な・に・し・に・き・た・の・よ!」

「だから、その、わ、私も……一緒に……」



 ……なんか立場が逆転してる。まるで悪戯した弟を叱りつける姉みたいだ。



「栞奈、そんなに威嚇したら兄貴が可哀想だって……いいじゃんか、三人で一緒に行こう」

「えぇ!?」

「おお、流石夜斗君! 君ならそう言ってくれると思っていたよ! 夜斗君のような兄思いの弟を持って私はなんて幸福者なんだろうか!」



 ……ちと大袈裟すぎるだろ。

 まさか両手をあげてそんなに喜ぶとは。



「ちょっと待ってよヤト兄! 本気で霧夜も連れていく気!?」

「……駄目か?」

「駄目って言うか、その……」

「兄貴は最近まで学校での生徒会業務が忙しかったろ? そのせいで休日も家にいないのがしょっちゅうだったし……いいじゃないか、こうやって三人揃うのも久しぶりなんだしさ……頼むよ、栞奈」



「……もう、せっかく二人っきりだと思ったのに……」



 俯きながら何かブツブツ呟いてるな。

 小さすぎてよく聞き取れないけど。



「……はぁ、ヤト兄の頼みじゃ断れないもんね」

「そ、それでは妹よ……」

「いいよ、行こ……三人で」

「おおおおおおお! やはり天は私を見離しはしなかったかぁぁぁ!」

「うっさ……あと言っとくけど飛び入り参加は今回だけだから、次からは無しだからね」

「うむうむ、わかってる、わかっているぞ! 久々の三兄妹水入らずだ、存分に楽しもうではないか!」



 兄貴、すごく喜んでるな。

 誰よりも家族との時間を大切にする人だから三人で一緒に出かける事が嬉しいんだろうな……



「子供みたいにはしゃいじゃって……ほんとにわかってのかなぁ?」



 口ではああ言っていたが承諾したのを見ると、本当は栞奈も三人で一緒に行きたかったんだろう。本当に家族思いのいい子だな……頭撫でてやろう。



「ありがとうな栞奈。やっぱりお前は優しい子だよ」

「ふわぁ!? ちょ、ちょっとヤト兄やめてってば!」

「……なんで? 兄弟なんだから別に気にする必要ないだろ」

「気にする、気にするから! お願いだからいい加減に手をどけてよ!」

「……あっ」



 物凄い力で頭を撫でていた手を振り払われてしまった。よく見ると手を払った後の栞奈の顔はリンゴのように真っ赤に染まっている。



 ……まさか顔色が変わるくらい嫌とは、そんなに怒るとは思ってもみなかった……これが兄離れというやつか



「さぁて、そこで私を差し置いてストロベリってる夜斗君! そして妹よ! そこに整列したまえ、これから出発前の点呼をとるからな!」

「……点呼?」



 点呼って、一人一人ちゃんと居るかどうか名前を呼んで確認するアレのこと? ……それこの人数でやる意味あんの?



「では私から……一番! 黒廼くろの家長男、黒廼 霧夜……ハイッ!」



 ああ、本当にやるんだ……ってか自分でハイって……

 


「さぁ次は夜斗君の番だぞ!」



 えっ? なにこれ自主性?



「えっと、それじゃあ……黒廼家次男、黒廼 夜斗……」



 ……なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。



「よし! では最後の締めだ、妹よ!」

「えぇ~ほんとにやるのぉ? はぁ……黒廼家長女~、黒廼 栞奈~……これでいい?」



 ……やっつけじゃないか……



「全員揃っているな……よし、では行くぞ! 黒廼三兄妹、いざ凪之市なぎのしへ出陣だぁぁぁ! はーはっはっはっは!――――――」



 俺達をその場に残して霧夜は笑いながら森の外へと走り去ってしまった。



 ……大丈夫か、アレ。街に出て捕まったりしないよな? ……完全に頭ヤバイ人みたいになってるけど……



「……今更だけど霧夜に同行を許した事、すっごく後悔してきた」

「……ま、まぁ兄貴は分別のある人だから……外に出たら少しは大人しくしてくれるさ」

「……ほんとに?」

「…………………………………………たぶん」



 ……なるようになれ、だな……




はい、とりあえず最初はこんな感じで……

い、如何だったでしょうか?((((;゜Д゜)))

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