エピローグ
「来たね」
母のその言葉とほぼ同時に地面に叩きつけられそうになる。
体の一部が引きちぎれるような激痛が走り、思わず目を閉じた。
突風が止んで目を開けると、ずっと見てきた青と緑だった。
その境は綺麗な一直線になっていて、目を奪われそうになる。
ふと思い出して下を見ればもう母の姿は見えなく、ただ緑が広がっていた。
一緒に話したハナおばさんも、最近来たあの女の子もあの中に居るのだろうか。
「あ……」
ふと、一際深い緑の塊が木だということにようやく気づいた。
あれはあの大木だ。
てっぺんすら見えず、声をかけても反応してくれない彼。
そんな彼が太陽の眩しさに目を細めながらこっちを見ていた。
門出を祝ってくれている気がして、大きく手を振る。
向こうはこんな小さな私なんて見えている筈もないのに、上の生い茂る葉を揺らして答えてくれた。
「……なんだ、優しい人なんだね。」
母の聞いていたのとは違う。
きっと誰も彼に気づかないだけなんだ。
「またね!」
母にも、おばさんにも、女の子にも。
もちろんあの木にも向かって私は叫んだ。
私はもう会えなくとも、私の話を聞いた子どもや孫たちがあなた達に会えるように。




