rainbow lovers
「えっ…無理」
私は、彼女の前から立ち去った
困惑してしまった
あの娘が私を好きなんて…
そんなの普通じゃない
"普通の"女の人は女を好きになるわけがない
そんなの常識だし
そう、誰かの常識。誰かが作った…
教室に帰って京子が駆け寄ってきた
京子は、金髪で朗らかな印象を見せる少女だった
「どうだった。花ちゃんとは」
同性に告白されたなんて言えない
だから、
「茶化さないでよ」
と一言だけ言い放った
すると
「茶化してなんかいない。私は真剣に聞いてるの」
瞳に力が入っている。なぜだろうか
「あの娘の思いをちゃんと受け止めてあげて」
どういう意味か私には分からなかった
授業を挟んでまた休み時間
隣の席の滴は、凛とした長身の少女で、
京子と仲が良かったので、あの言葉の意味を訊いてみた
「…佳奈さん」
いつにもなく真剣なまなざしで滴は私の目を覗いた
「あなたは同性同士の付き合いについてどう思っているの」
滴からそんな言葉が聞けるとは思っていなかった
「どうって、普通じゃないでしょ」
ありのままに話す。それが常識だから
「普通じゃない…か」
滴の顔が少し陰る
「あのね、佳奈さん。わたしとね京子は付き合っているの」
衝撃だった。信じたくなかった
「お互いに心を通わせている。男子と女子が恋愛するみたいに」
すぐにでも反論したかった
「そんなのって…」
次の言葉が来る前に滴は言った
「ないと思う?恋は男と女の間でしか起こらない?」
そうだと言いたかった
「果ては、母親が娘を愛さないとでも、父親が息子に愛情を注がないとでもいうの?」
それは暴論だ
「それはただの母性や父性でしょ!」
「じゃあ、父性を求める恋愛はないの?」
正しいと思った。お父さんのような恋人がほしいと思ったことは何度かあった
「それは…」
言葉に詰まる。返す言葉も見つからない
「人間の恋なんてそう簡単に分けることなんてできない」
「人間は数十億人いるのだから数十億通りの愛し方だってあるはずよ」
滴の声は訴えかけるような哀しい声だった
「佳奈さん。京子が言ってたのはそういうことよ」
「下手な常識にとらわれて、おかしいと思うから拒絶するんじゃなくて、心で判断して」
「それを伝えたかったんだと思う…」
席を立ち、滴は去って行った
私は一人で考えてみることにして、少し時間が経った
「お久しぶりです先輩」
花はあの告白から今日まで私と顔を合わせようとしていなかった
今日は私の方から彼女の家に押しかけた
黒くうるんだ瞳はなかなか私の方を向いてくれない
「今日、親御さんは?」
語り掛ける
「いません…」
後ろを向いてしまった
「もし良ければ、部屋に上がっていい?」
手を組んでもじもじとしている彼女に私は訊いた
「…いい」
一度も顔を見せずに彼女は二階に上がった
彼女の部屋は何度も来ている。幼少期からの妹分だから
しかし、様子は違った
荒れている
「どうしたんだよ、これ」
思わず聞いてしまう
「気にしないでください」
気にしないほうが無理だ
「わたしがあんなこと言ったからか?」
よく見ると彼女の手は震えている
「違います」
か弱い声だった
「そんなわけ…」
ないそう言おうとした
「私がおかしいんです…」
取り乱す
「分からないんです。なんで好きなのか」
涙交じりの声
「女の子同士なんておかしいって分かっているのに」
いつか聞いた言葉だ。誰の言葉だったか
私の言葉だ。女性同士はオカシイ数日前はそう思っていた実際に
でも、私はあることを思った
「あれから考えたんだ」
私が言う
「私にとって花はどんな存在かって」
彼女は、私を癒してくれる人だった
彼女は、いつもそばにいてくれた
彼女は、私を大切に思ってくれている人だった
彼女は…
「花は、大事な人だと私は思う」
花は顔を上げた
「ここ数日会ってなかったけど毎日さみしい思いをしたんだ」
私の瞳から涙を落ちる
「私は、花がいないと。花じゃないと駄目なんだ」
花の小さい体を掴む、そして
「一緒にいてくれますか」
私は彼女にそう言った
まだ、これは恋にも満たないかも知れない
ただの親友じゃないかと思う人もいる
常識ではそういうことになるんじゃないかな
私の常識ではこの関係は恋人という
「おい、佳奈。遅れてんじゃないよ」
染めてから時間が経ち黒色になった京子の髪
「遅いですよ。今日はダブルデートの約束でしょうに」
だいたい京子と同じになっていた滴の身長
そして、
「先輩。おしおきしますからね」
笑顔になった花がいた
あとがきとしては、こういった文章を書くのは初めてです
なかなか書かないような内容なので難産でした