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日陰者の勇者ですみませんね  作者: 明日は来る
一章 召喚されて
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召喚

駄文ですがどうぞ

 意識が戻ると、文雄はクラスメート達と共に知らない場所にいた。

 ステンドグラスで覆われた天井、床に描かれた巨大な魔法陣、文雄達を囲むように魔法陣の外で騒ぐ外人。

 バスの中とは、どう考えても違う。


(やっぱり転移したんだ…)


 転移した事を実感した文雄はラノベのような展開となった喜びを覚えるが、同時に自身の世界との別れの辛さに溜め息をついた。


(ファンタジーは嬉しいけど、いざ地球と別れるとなると残念だな……。バイバイ、ネット社会)


 文雄が少しズレた感覚での感傷に浸っていると、周りの生徒達が騒ぎ出した。


「何だよ、コレ!?」

「ここどこ?」


「佳奈!」

「あ、千枝漓!良かった~」


「田中氏、ファンタジーですぞ!」

「原田殿、ファンタジーでゴザルな」


 生徒達の混乱が更に大きくなりそうなところで、一人の発言により沈黙が起こった。


「申し訳御座いません。少々お静まりください、【沈黙支配¦カマンド・サイレント】」


「「「……!?」」」


 燕尾服を着た壮年の男性が魔法陣内に入り頭を下げ謝罪をしたと思えば、文雄達は原因不明の力によって声を発することが出来なくなった。


(コレは…魔法、か?ファンタジーらしいっちゃ、らしいけど。今の人は執事だよな。ってことは此処は宮殿内の何処かかな?)


 暫くして魔法陣の中に三人の人物が入ってきた。

 一番前を歩く人物は五十代前後の伊達男。豪華な服を着、頭頂部に王冠を乗せている。

 二番目の人物は先程と違い、老年の男性でシンプルに白を基調とした服を羽織り、頭に司教冠を、手に半透明な杖を持っている。

 最後の人物は身長が二メートル超えの四十代後半の男性。頭以外を銀色のフルプレートで包み、背中に巨人が持つような巨大なクレイモアを装備している。


(恰好からして前から王様、司教様、それとボディガード代わりの兵士ってところか。つーか、あの兵士本当に人間か?あんな身長、チ○・ホ○マンぐらいしか見たことねー)


 文雄が考察している間に、三人は文雄達とある一定の距離まで近づいていた。そして、王様であろう伊達男が手を上げると、先程の燕尾服を着た人物は再び頭を下げ、一言呟いた。


「【解除¦リリース】」


 その言葉を皮切りに謎の力が消えたことを文雄達は感じた。

 しかし未知の力の恐怖に、もう一度喋ろうとする者は誰一人としていなかった。


「突然の蛮行申し訳ない。それも全てはそなた達と会話をするため。余はこの国〝アストラード王国〟の王、ハンネス・K・ディラードだ」


 伊達男=ハンネスは謝罪を述べると共に自身の紹介をした。

 そして後ろの二人の紹介を始めた。


「余の右後ろにいる者はこの国の司教セーファス・ライト、左にいるのは騎士団団長レヴァン・ハーティスだ」


 ハンネスの紹介にセーファスは軽い会釈をし、レヴァンは右手を左胸に置き敬礼の姿勢をとった。

 三人は文雄のほぼ予想通りの人物らしい。

 ハンネスは言葉を続けた。


「そなた達を呼び寄せたのは他でもない。今、我々は大変な危機を迎え……」


「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 ハンネスの話しを一人の生徒が遮る。


「そなたは?」

「立川昴といいます。話しを途中で止めてしまい申し訳ありません。ですがどうしても聞きたいことがあります」


 立川昴。

 文雄のクラスメートの一人で性格は非常に明るく、長身、容姿端正、クラスのリーダー的存在だ。

 さらに言えば昴には、クラスの中に仲が良い三人の幼なじみがいて、全員女性である。

 正に正統派主人公のような少年である。


「よい、立川殿。何を聞かれたい?」

「此処は日本、いや地球ですか?」

「答えは否、だ。此処はそなた達のいた世界とは異なる場所だ」


 ハンネスの答えに生徒達がどよめく。

 それはそうだ。異世界にいるなんて、普通小説の中でしか有り得ない。

 流石の昴もショックが大きく、額に冷や汗を浮かべた。

 しかし、昴にはまだ聞きたいことがあり、冷静さを取り戻すため大きく息をはいた。


「…先程僕達を呼び寄せたと言ってましたが、それはあなた達が?」

「無論だ」


 では、と昴は本当に聞きたいことを質問した。


「僕達を呼び寄せた理由は何ですか?」


 その質問をハンネスは予期していたかのように話した。


「そなた達、〝勇者〟にこの世界を救っていただきたいのだ」


 その後のハンネスの話しを要約すれば、四百年前に世界を滅ぼそうとし、先代の勇者に倒された魔王の後釜が今になって決まり、また世界が危機を迎えている。

 その危機を脱するため、ハンネスの先祖が残した勇者召喚陣を使い文雄達を呼び寄せた。

 どうか世界を救ってください、ということだった。

 話の過程で文雄達には、陣をくぐった際に勇者としての力を授かっていることも説明された。

 話しが終わると、早速転移した者達で話し合いが始まった。

 協力に賛成の者、反対の者、どうでも良い者、様々な意見が交わされたが、賛成派昴の鶴の一声で協力することに決まった。

 代表として昴が先程のようにハンネスに申し入れた。


「王様、僕らはあなた達に協力します」

「おお、本当か!感謝するぞ。では早速だがそなた達の力を測定させてくれ」


 ハンネスは嬉しそうに頷くと、魔法陣の外で控えている水晶を持った神官らしき人物を呼び寄せた。昴は水晶を指差し、ハンネスへ質問した。


「コレは何ですか?」

「コレは先代の勇者のお一人が造られた〝測定の器〟というものでな。触れた者の魔力に反応し、その者の能力について詳しく映し出してくれる魔導具だ」


昴の質問を返すと、ハンネスは昴を水晶へと連れて行った。


「さあ、触られてみよ」

「は、はい」


緊張した様子で昴が水晶を触ると、水晶の中で以下の文面がうかんだ。



名前 立川昴 

称号 光の勇者

魔法 共通魔法 光魔法

スキル 精霊の祝福 詠唱破棄



 浮かんだ内容にどよめきが起こった。生徒達ではなく、その周りの観衆からである。


「おお、やはり立川殿が光の勇者だったか!」

「すみません。光の勇者とは?」


 困惑する昴にやや興奮気味のハンネスが答える。


「光の勇者とは先代の四人の勇者達の一人と同じ称号でな。他にも闇、博識、不滅という称号があるが、その中でも光と闇の勇者は強大な力を与えられるのだ。いや、実に素晴らしい」


 その説明を聞いた昴は嬉し半分、照れ半分といった顔でクラスメートの元に戻った。

 すると三人の女子が昴の元へ集まった。


「やったね、昴!光の勇者だって!」

「まあ昴なら当然だな」

「…そっそうだね。流石、昴君だね」


 短髪の元気っ娘美人、黒長髪のスラリ美人、オドオドしたポッチャリ美人の順に昴へ話しかける。この三人が昴の幼なじみである。

 実にハーレムハーレムしている。


「俺も見に行く!」

「あっズリッ!俺も!」


「アタシもアタシも~」

「佳奈!ちょっと待ってよ!」


 生徒達は昴の結果を見て、自身の能力を知ろうと水晶へ駆け足で向かった。

 文雄も遅れながら後ろへ続いた。


(僕は何の勇者だろう?攻撃特化も憧れるけど、防御特化も捨てがたい……)


 文雄の厨ニが疼いている間、先に行ったクラスメート達が浮かび上がった称号について話し合っていた。


「俺、金剛の勇者だって!お前は?」

「私、弓の勇者~」

「おい!音門の奴、闇の勇者だったらしいぞ」

「あー、何か分かる気がする」


「田中氏、小生人形の勇者ですぞ」

「原田殿、拙者…(ヒソヒソ)」

「なっ、なんとー!!」


「委員長が博識の勇者なんだって」

「マジ!」


(田中の称号なんだろう…。取り敢えず四人の勇者の内、三人の称号がもう選ばれたのか。じゃあ残る一つ、不滅は僕だったりして……。まさかな)


 しかし、最後の文雄に順番が回ってくるまでに不滅が出てくることはなかった。


「最後は貴方ですね?」

「え、あっ…はい!」


 先程の考えが現実味を増してきて呆然としていた文雄は、神官に呼ばれ慌てて水晶に手を乗せた。


「おい、まさかアイツが不滅?」

「まさか!ありえねーって」


「つーかさ、アレ誰?」

「それは酷いよ~千枝離~。フムオ君だよ~」

(いや、微妙に違うよ!?フミオだよ!)


 クラスメートが文雄のことを話す中、水晶の中で変化が始まり文字が浮かんだ。



名前 永田文雄

称号 日陰の勇者

魔法 影魔法

スキル 気配霧散 カメレオン ガイドブック



(………………………………不滅じゃないのかよ)


 浮かんだ文字の中に不滅の称号が無く、少し期待していた文雄は落胆した。

 クラスメートからは、やっぱりなと納得するような雰囲気を感じた。

 しかも落胆してすぐ、文雄は大事な事に気がついた。


(共通魔法が……無い!)


 なんと他の人物達にはあった共通魔法が、文雄の魔法の覧には無いのである。

 文雄は急いで水晶の側にいる神官に訪ねた。


「す、す、すみません」

「はい何でしょう?」

「共通魔法、っが無いんですが…」


 人見知りと口下手が相まってかなりどもりながら訪ねると、神官は少し暗い顔をして「…そんな馬鹿な」と文雄には聞こえない声で呟いた。

 神官の顔の変化を見た文雄は、コレは不味い事になったのかもしれないと顔を青くした。


「確かに共通魔法は無いですね。ですが、共通魔法は無くともあなた様には特殊魔法が有りますし、スキルもホラ。三つも有りますよ」


 しばらくして神官は硬い笑顔で文雄に答えた。

 言われてみれば確かに昴達にはスキルは二つしか無かったのに対し、文雄にはスキルが三つあるのだ。

 しかし、文雄の不安は消えることはなく、お礼を言うと重い足取りで皆の元へと戻っていった。

 全員の称号が分かった所でハンネスが室内にいる者全てに聞こえるように声を発した。


「今、勇者殿達の召喚に成功しただけでなく、先代と同じ称号を持つ者が三人もいる。これは喜ばしい事だ!彼等は我らをお救いになることを了解してくれた。これは人間の勝利の第一歩となる。我らも勇者殿達と協力し、悪しき魔族共を倒そうぞ!」


 その言葉に陣の外にいる者達は怒号とも言えるほどの声援で答えた。

 その日学生四十人、教師一人、運転手一人が人々の希望、勇者となった。

2015年3月27日に一部修正しました。

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