第7話 《火炎竜討伐》後編
今、俺たちの目の前には火炎竜がいる。赤い鱗で全身が覆われていて、背中にはコウモリのような翼が生えている。頭部には二本の大きなツノが生えていて牙が見える頭部はまるで恐竜だ。
「準備はいいか?」
「いいよ」
「僕も」
政広と勇馬の準備は出来たようだ。俺もRPG-7を背中に二本を背負い、AK-47に弾倉をはめ込んでボルトを引く。よし、初弾が中にちゃんと入った。さらに安全を連射へと変えて準備は出来た。
「よし、カウントする」
少し緊張で声が裏返った。銃を持つ手に汗が出てくる。だけど、その緊張感を闘争心で押さえつけてカウントを開始する。
「3、2、1…GO!GO!GO!GO!」
隠れていた岩陰から飛び出して銃弾をばら撒き始める。
ダダダッダダダッダダダッ‼︎
タタタタタタタタタタッッ‼︎
俺は指切りでAKを撃つ。政広と勇馬はただただ引き金を引き絞る。
……カチンッ
政広と勇馬の弾が切れた。そして、
「政広!勇馬!走れ‼︎」
「「了解!」」
俺の号令で政広と勇馬が走る。2人は走りながら弾倉を入れ換えて撃ち始める。
俺は2人を横目で見ながら背負っていたRPG-7を下ろす。RPGを構えて火炎竜の横っ腹に狙いを付けて撃ち出そうとしたその時
「ギャアァオオオォォォォォォオゥゥウ‼︎」
火炎竜が、吼えた。その余りの音量に反射的に耳を塞いでしまった。火炎竜はその様子を見てブレスを口に溜め始めた。
俺の方に向かって。
「マズイッ⁉︎」
火炎竜がブレスを吐き出したのと俺がRPGを撃ち出したのはほぼ同時だった。若干俺よりも早く吐き出したブレスがRPG-7の成形炸裂弾に当たり、大爆発を起こす。
何とかブレスをやり過ごしたが、俺は恐怖していた。何故ならブレスとRPGの衝突地点を中心にして半径5mほどがマグマのようにドロドロに溶けていたのだ。
「クソっ⁉︎」
俺は二本目のRPGを構えて今度こそ火炎竜に当てようとしたその時、ありえないものを見た。見てしまった。聞いてしまった。
『我、火炎の頂に立つ者。我が力を世界へと捧げん。此処より先へ希望は在らず、此処より後へ絶望は無し。ただそこに在るのは消える事なき永遠の業火』
魔法を唱えていたのだ。本来ならばその様な事を出来るはずもない火炎竜が。マズイッとそう思った時にはもう既に魔法は完成していた。
『永遠劫火』
俺たちを炎が襲った。
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私はアノ・ミース。ライ王国の聖騎士だ。王の命によりTFという冒険者パーティのクエストを見届けることとなった。信じられない速度で走る鉄の箱や、野外なのに快適なテント、美味しい食事など、様々な事に驚かされたが何よりも驚いたのはその戦闘能力だった。
彼らは銃という武器を扱っていた。火炎竜が出るモルス火山に向かう途中様々な魔物が襲いかかってきたがすべてを軽くあしらっていた。堅い岩の表皮を持ち、素早く動くロックウルフをも軽くあしらっていたのには驚いた。
彼らはたったの3人で火炎竜を狩ろうとしているのを見て最初は自殺志願者かと思ったが、これならば大丈夫だと思えた。
火炎竜を見つけたが何かが違う気がした。孝さんが個体差では?と言っていたのでそれで納得しようとした。でも、何かが違う。
戦闘が始まり、3人の戦いを見ていた。彼らの持つ銃で撃ち出した弾はすべて弾かれていまっていたが孝さんはそれでも気にせずに、あーるぴーじーとかいう武器を準備しはじめた。あーるぴーじーでも火炎竜のブレスを相殺した後、何故か火炎竜は魔法の詠唱を始めた。この時点で感じていた違和感に気づいたが既に遅い。
本来ならば火炎竜の全長は6〜8m。だけれどあの竜は10mを越え、約13m程もあった。そして、魔法の詠唱。使っていたのは一般的ではない古代魔法言語。つまりあの個体は火炎竜などではなく
「それは火炎竜じゃなくて古代焔竜です!逃げて!」
彼らを魔法が襲った。
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「痛ててて」
俺は瓦礫を退けて起き上がった。あの竜が魔法を放った時、俺もRPGを撃ち出していた。ブレスの様に相殺は出来ずに飛ばされてしまったが大分威力を軽減出来た。
「政広!勇馬!無事か⁉︎」
姿が見えない2人を呼ぶ。
「平気だよー」
「勇馬か。政広は?」
「チョット待ってね〜」
「?」
勇馬は瓦礫に手を突っ込むと何かをズルズルと引っこ抜いた。
ズボッ、ぽいっ、べチャッ
そんな擬音とともに政広は投げられ地面に倒れている。
「うわ、グロいな」
政広は酷い状態だった両手が無く、足は片方は無事だが、もう片方はズタズタになっている。背中にも幾つも抉れたような跡がある。そんな状態の政広を見ていると、政広は軽く光って怪我をしていたところが再生を始めていた。なくなった両腕は生え、足も綺麗に治って背中の傷もなくなった。
「あー、痛かった」
「お前、やっぱり気持ち悪い」
「タカさん酷くない⁉︎」
政広は半不死身の能力で完全に回復した。俺たちは今ここは火炎竜から見えないのを確認してこれからどうするか話し合おうとするとアノさんが走ってきた。
「アノさん。何で来たんですか?」
「言わなきゃいけない事があって」
「「「???」」」
「あの竜は火炎竜じゃなくて古代焔竜なの」
「へぇー」
「それだけ⁉︎」
「いや、名前が違うからといって殺せないわけではないですしね」
「へ?」
「それで孝くん。どうするの?」
「とりあえず残りのRPG-7計4本で並べ撃ちだ。俺ら1人一つを撃ち込んでダメージを与えてから最後の1発を確実に決める。コレでいいな?」
「「了解!」」
「よし、行くぞ。アノさんは離れていて下さい」
「はい」
俺たちは再度火炎竜もとい古代焔竜へと向かった。
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ダダダッダダダッダダダッ!
俺はAKで弾を撃ちながらこっちに注意を惹きつける。竜がこっちを向いた。俺はAKを捨ててRPG-7を構える。政広と勇馬も既に構えていた。
「構え!撃ってぇぇぇええ!!」
バシュッ…………ドォオオオオオオン!!!
「ギャァァァァァァァァアアアオゥゥ⁉︎!」
古代焔竜の両翼を政広と勇馬撃った成形炸裂弾はそれぞれ捉えて一部を抉り取った。そして俺が撃ち込んだ成形炸裂弾が腹のど真ん中に命中する。古代焔竜は余りの痛みによってか怒りか分からないが絶叫をあげた。
俺は最後のRPG-7を構えて狙いをつける。既に古代焔竜は翼を失って地面に落ちていた。だが、その顔は未だに諦めてはいない。俺は撃ち込んだ。
バシュッ…………ドォオオオオオオン‼︎
「ギャオオオオオオオオオオオオオンン⁉︎」
古代焔竜は完全に沈黙した。
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古代焔竜を倒した俺たちは、倒れて血を未だに流している古代焔竜に近づいた。
……ウウゥ
古代焔竜はまだ生きていた。俺はAK-47を竜に向けた。が、襲いかかって来るものと思っていたら想定外の事が起こる。
『ヒトの子よ。そなたらは強い。なにゆえ此処へと来た?』
倒れていた古代焔竜は首を少し上げてこちらを見ながら言葉を発した。
「へえ、竜って喋れるんだな」
『我の様に永く生き、古代の名が付く個体は話すことが出来る。さて、なにゆえ此処へと来た?』
「俺たちはあんたを、ていうか依頼では火炎竜を倒す依頼だったんだがそれを果たすために来た。他に何かあるか?」
『1つだけある。この後、我はどうなる?』
「う〜ん。じゃあ逆に聞こう。おまえはどうしたいんだ?」
『許されるのならば生きていたいが、贅沢は言わん。一思いに殺してくれ』
「ふむ…」
こいつは嘘をついていない。それは目を見れば分かった。それを踏まえてどうするか決めなければいけない。
「なあ、アノさん。火炎竜のレベルと古代焔竜のレベルを教えてくれない?あと、どれくらいのレベルと規模なら倒せるのかも」
「あ、はい。まず火炎竜のレベルは1600から1800くらいで、一体を倒すのにS級以上の冒険者が15人いれば狩れると言われています」
「古代焔竜は?」
「……分かりません。古代の名前が付く竜は何体かいます。その内の一体がこの古代焔竜で、残りは古代雹竜、古代嵐竜、古代雷竜、古代黒竜の四体です」
「へえ、世界に五体しかいないってことか」
「はい。なのでこの古代竜をまとめて五竜と言います」
「そっか。よし決めた!おい古代焔竜。お前は俺たちに従え」
「「「え⁉︎」」」
勇馬、政広、アノさんの3人が驚いている。
「タカさん?何?ペットにすんの?」
「うん。孝くんらしいね」
「え、討伐はされないのですか?」
三者三様のリアクションありがとうございます。俺は古代焔竜に向き合って言った。
「お前、俺たちに従え。こんなとこよりも面白いもの見せてやる。だから、力をよこせ」
『ふっ、あははははははっ。面白い。従おうじゃないか』
「ん、じゃあよろしく」
『ああ、力を貸そう』
「そういや契約ってどうやんの?」
『ああ、我がやろう。《〜〜〜〜〜以下略》と言え』
「分かった。《汝、我を主と認め生涯を尽くすと誓うか?》」
『《我、其方を主と認め生涯を尽くす事を誓おう》』
そして一瞬光ったと思うと竜と俺の胸にに魔法陣が吸い込まれていった。
『コレで終わりだ主よ。ついて行こう』
「おう、よろしくな。あと、お前の名前は《ジークフリート》だ」
『《ジークフリート》の名、確かに受け取った』
こうして俺たちの最初の依頼、《火炎竜討伐》は終わった。ちなみに帰りにはハンヴィーをジークフリートの首から吊るして四人はジークフリートの背に乗って飛んで帰った。
「そういえば孝さん。なんで討伐しなかったのですか?」
「んん?それは1度はドラゴンに乗ってみたかったのと単純にただ殺すよりもこっちの方が面白いかと思って」
「え?それだけですか?」
「そうだけど?」
「ふふっ、孝くんらしいね」
「確かにタカさんらしいな」
「死ね、コクローチ」
「あっ、やめて⁉︎ここから落ちたら今度こそ死んじゃう‼︎」
四人と一匹には穏やかな雰囲気が流れていた
どうもソイボーイです。
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