(1)いきなりやばいことが(そんなことが起こって、結果ロックオンされた話。 ショートショート風 初出2011.11.25 改稿2012.3.21:ストーリーには変更ありません)
じっと手を見る。
じっと手を・・・ん?
なんだかやばいことが。
細かいことを気にするな、と言われれば、それまでだけど。
気を取り直して、もう一度。じっと手のひらを見る。
・・・やっぱりやばいことが。
まあ、意外と落ち着いてはいるんだけど。単刀直入に言うのは若干はばかられる、というか。
いやいや、もったいぶるつもりはありません。
何がやばくて問題か。
それは、手相。
気が付けば、わたしの手相が、なぜか勝手に変わっていたのだった。ほぼ全面的に。
さあ、困った。
この窮状を誰にうったえたらよいのだろうか。
もしも顔のパーツが変わったのであれば、あるいは体の部位のサイズが急激に変わったのであれば。いやぁ困っちゃったんだよね、と、相談のしようもあり、同情のされようもあるけれど。
手相が変わってしまったって、誰が信じてくれる?
でも実は大事件でしょう、これ。かなりの怪奇現象といって過言じゃない、よね?
あー、普段から手相を見せあいっこする趣味でも持っていれば。
それか、ひっじょうに珍しい手相にでも変わったのであれば。
言い忘れましたが、もともと平凡な手相が、平凡な別の手相に全面改訂されていたのです。いいえ、気のせいではありません。
平凡なAさんの顔が平凡だけどまったく別の顔と交換されていたら、それは大変な問題である。それと同じでしょう? 大騒ぎでしょう? だけど。
だけど、まあ、顔が変わったのと違って、日常生活には支障はない、といえないこともない、のかな。所詮は、手の内の出来事でもあるし。
支障はない、ということにしておこうか、と自分にむけて再確認したところで、怪奇現象、おかわり、みたいな。
「や、やあ」
わたしの記憶が正しければ、ここは某大学の女子寮の一室。二人部屋だけどルームメイトは本日外泊。よって今夜はわたし一人きりのはずの部屋、に、突如あらわれた大学の同級生、爪川くん。
「あ、うん」
一応、返事はしてみたけれど。
「元気そう、だね」
「う、うん。そうかな」
実は本日夕方、好きですお付き合い願えませんか的なことを、わたしはこの爪川くんに言ったのだった。
爪川くんはどちらかといえば口べたで、そんな不器用なところもずっと好きだったのだけど。
「それで、どう?」
「どうっていわれても・・・」
そう、そのときもこんなふうに、首をかしげて前髪を指先ではらいつつ、彼は言ったのだった、「きみに恋の魔法をかけてあげるよ」って。
ずずずずずいっと、引くでしょう、そんなことを言われたら。たとえ「君の瞳に乾杯」と二択でも、きびしいでしょう? なので、前言撤回、尻尾巻いて逃げる、という出来事があったわけなのだ、そのときに。
もともと玉砕覚悟ではあったんだけど。でもまさか、こんな展開になろうとは。
よりによって恋の魔法って、魔法・・・うん? いやぁな予感が。
「ちゃんとかかってた?」
「えええええー! もしかして、魔法って、手相のこと?」
「ってことは、成功だね」
「やだこれ、爪川くんのせいなの?」
「今のところ、僕が使える魔法ってこれだけなんだ」
「うそ。今ここに瞬間移動って言うの? してる方がすごくない?」
「いやこれ、兄貴に頼んだんだ。瞬間移動は現在練習中で・・・」
といってるところに話題の兄貴がいきなり登場。その兄貴の横には美人さんがひっついている。
ちなみに、爪川兄も同じ大学の一つ上の学年に在籍中。
爪川兄弟はタイプは逆だがどっちも人目をひくので、ほとんど大学名物なのだった。
「こんばんはー。説明おわった?」
美人さんが言う。たしか、爪川兄の彼女さんだ。よく一緒にいるのを見かける。
「まだ途中」
「とろいなおまえ、さっさと済ませろ」
爪川兄が爪川くんをこづいている。
「お互い好きだって確認できた時点で魔法がかかって手相が変わる、以上でーす」
美人さんは声もかわいい。かわいいのはいいけれど・・・
「魔法って、これいったい何の役に立つの? 実はとっても幸運な手相だとか?」
どうやら状況がわかっていないのはわたしだけらしい。
「ごめんね。そういう手相ではないんだ。それにその手相は、このまま元には戻らない」
申し訳なさそうに言う爪川くん。そんな表情もすてきだ、がしかし。
「すいません。わたし、状況についていけません。三人とも、お引き取り願えませんか」
「最初は驚くよねー。でもだいじょぶ、すぐ慣れるから」
再び美人さん。あなたも魔法使いなんですか。
「もちろん、役には立つさ。所有印みたいなもんだから、防虫効果は最高」
爪川兄が不吉なことを言う。
「ほらほら、見て見てー」
美人さんがわたしの横に並んで立って、自分の左右の手のひらを並べて見せてくれる。
細い指。じゃなくて!
「な、なにこれ、手相で爪川って書いてある!」
メインの線はたしか、感情線、頭脳線、生命線だったっけ? それと細かいしわで左手のひらに「爪」、右手のひらに「川」。
しかし、この絵柄。どうにもどこかで見覚えが・・・
「正解ー。はい、おそろいー」
美人さんがわたしの手をとると、同じように並べて見せて・・・良く見ればそこにも、爪!、川!!、ぎょえーっ!!!
「と、いうわけで、わたしたちは義理の姉妹になるのよねー」
「説明も終了したし、それでは記念にれっつじゃんぷ」
爪川兄が宣言すると、四人一緒に瞬間移動。気が付けばどこぞの野外展望台に立っていた。
ぼけらーっと放心状態で星を眺めながら、わたしは思ったのだった、
姓の方だけなんだから、少なくとも兄弟のチェンジは可能なわけね、と。
おわり