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三、金の王子様と能力者の性 ②


 朝早くに叩き起こすのがこの家のルールなのか、力いっぱいバンバンと叩かれて目を開けると、枕元にラビが立っている。


「ほら、起きてよ。僕は忙しいんだから」


 不機嫌にラビは言うと、部屋を出てゆく。

 朝早いと思ったが、太陽は随分と上まで来ていた。

 階段を下りると、すでにオリビアは館の仕事に出かけたらしくラビしか居ない。


「朝ごはんはちゃんと食べろ、ってオリビアが」


「ふーん。ラビは今日学校無いのか?」


 一緒にテーブルにつくと、シンはとりあえずラビに尋ねる。


「関係ないでしょ。僕、今日はお仕事に行かなきゃいけないんだ」


 やはりあまり打ち解けるつもりは無いらしく、そっぽを向く。


「はは、そうなんだ。行ってらっしゃい」


 苦笑いをしてそう言うと、ラビが顔を戻す。


「シンもいくんだよ」


 大層不満気に呟く。


「オリビアがそういうから仕方なく、だよ」


 後は話す気も無いらしく全て食べてしまうと、立ち上がり準備を始めた。シンも慌ててそれに倣う。

 やはり、今日も記憶まで食べることができた。


「そこに置いてあるの、シンの着替えだから」


 ラビが指差したソファの上にはシンの白の上着とその下に着ていた服が並んでいる。洗いあがったのだろう。


「…その白いのは、着ないほうがいい。裾が汚れるから」


 早速、袖を通そうとしていたシンに厳しくラビが告げる。まるで立場が逆である。


「…はい」





 ラビの後を付いて行くと、広場を抜け、入り組んだ道を南に向かって歩き村の塀にたどり着く。その間に、ラビと同じくらいの子供達が仲間に加わっていた。

 塀には村の裏門にあたるらしい勝手口がありそこから外に出る。


 どうやら、オリビアが言っていた村の外にある畑らしい。塀を見ると自分が目指していた壁とよく似ていた。扉は巧妙に木の陰に隠れていたが。


「今日は何をするんだい、ラビ?」


 尋ねると、ついて来るようにと手招きされてある畑に向かう。

 そこにはまだ根を張り始めたばかりらしい、植物が並んでいた。見覚えがある野菜に思わず目がいってしまう。


「これに、水をあげるのがシンの仕事」


「水? どこにあるの」


 ラビは、畑の先を示す。

 すでに何人かの子供や自分と同じくらいの少女がしゃがみ込んでいた。


「あそこに小川が流れてるんだ」


 なんとこの森には乾季でも小川はあるらしい。


「分かった。がんばるよ」


 にっこり笑って答えると、また転んだりしないように慎重にそこまで行く。


 皆、シンが近づくとさっと身を引いて離れてゆく。

 しかし、シンはできるだけ笑顔で近くにあったバケツに水を汲むと畑に少しずつ水をまく。それも根の部分に慎重に手馴れた手つきで。

 それを見ていたラビより少し大きい少女がシンの服を引く。


「ねぇ、どうして少ししか水をあげないの?」


「ん? それはね、この植物はあまり与え過ぎてはいけない種類だからだよ。知ってる? これは丁度いい水加減だと凄く甘くなるんだ」


 シンが丁寧に答えて見せると、周りで聞いていた子供達も寄ってくる。


「どうしてこの育て方を知ってるの?」


「今年初めて植えたんだよ」


「隣の国の商人さんにもらったんだよね」


 子供の好奇の目にあい、とりあえず答える。


「僕は、この国の東から来たんだけど、僕の家もこの植物育てていたんだよ」


 子供は首を傾げて、たずねる。


「じゃ、じゃあ、お兄ちゃん軍人じゃないの?」


「まぁね、農家の息子かな」


 ちょっとはぐらかして答えると、心の中で皮肉に付け加える。農家で軍に売られた息子が本当だよ、と。




 いろんな植物や野菜について教えている間に子供達とシンは打ち解ける事ができた。


 しかし、外の畑に出てきていた大人たちは、苦々しい顔で遠めに見ているだけ。


 しばらくして、ラビや子供達が遊び始めたのを横目に水遣りをしていたシンはふと、顔を上げて思う。


 何か、嫌な感じがするな…ざわざわする感じだ。それは長年培った勘だ。残念ながら自分の事には通じないが。


 小川の方で遊んでいた子供達を振り返るとまさに、女の子が近くにあった若い木と共に小川に落ちた瞬間だった。

 慌てて、駆け寄る。

 大した深さではないが、先ほど見た感じでは流れが急な所があった。

 少し先回りをして、腰まで水に入る。女の子は水に飲まれて流され、一緒に落ちた木の枝に足が挟まっていた。女の子を抱きかかえると、木を引き剥がす。


「大丈夫?」


 何とか這い上がって声をかける。

 水を飲んでしまったのか返事がない。

 横を向かせると背中を強く叩いて水を吐かせる。何度か繰りかえすと大量の水を吐いた。

 やっと女の子が声を出す。


「…足が痛い。怖かったよぅ…」


 彼女の右足はみるみる腫れ上がってゆく。


「ラビ、この子を診せる所に案内して」


「…うん…ココ大丈夫なの?」


 心配そうにラビはシンに抱きかかえられたココを見る。


「大丈夫だから、早く行こう」


 走り出したラビを追ってシンも走り始めた。


 腕の中の女の子、ココは水の中がよほど怖かったのかずっと震えている。


 シンはそっと、ココの頭に手をまわし能力を使う。

 ココの中の記憶の在り方は泡のようにプカプカ浮いていて、その中から水の中で見た恐怖の記憶を勢いよく引き抜いた。

 シンの中に痺れるような味が広がる。


 苦っ!


 こういう記憶は大体、涙が出るほど不味い。

 そして頭の中に違和感が広がる。知らず薄っすら涙ぐんでしまう。

 

 しかし、幼いココのトラウマになるよりましだ。

 きっとココの中には落ちる瞬間と助け出された所からの記憶しかないはずだ。





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