三、金の王子様と能力者の性 ①
一話ずつの長さが違います。すみません。
「どうなってるかな~今頃♪」
砂ばかりが目に付く荒れた大地、うだる様な暑さの中で、上機嫌に紡がれた言葉に近くにいた一般兵が顔を上げる。
「何か仰られましたか、クレイ殿」
「いいや、独り言だよ」
キフィ・クレイは、シンと別れた後にその足で南の戦地へ赴いていた。
階級としては、一般兵とは違う枠組みだが、大体のところ彼は少佐といったところか。
南の戦地では、混戦を極めていてやたらな方向に兵を進めるとあっさりと敵に取り囲まれてしまう。
そこで、彼の能力である未来読みが重要となる。
しかし、彼の性格は大変周りの者に迷惑をかけることが多かった。
直属の部下は一人だけ。あとはその場で適当に揃えざるえない。いつでもマイペースで呑気な言葉で殺気立った司令部をあっと言う間に爆発させたりするのだ。
それでも、キフィのサキヨミはほぼ確実な読みである為に彼を作戦から外す事は許されない。
困り果てた作戦部隊司令部や一般兵は、特別上級能力仕官としても異例の特別個室を設けた。
本部キャンプに来て数日で、閉じ込められたキフィは呆れて笑ったが、キフィの部下として指名された一般兵たちは気が気ではなかった。
特に今は直属の部下が席をはずしている。
こういうときこそ彼が何か変なことをすると噂があるのだから・・・。
「しっかし、こんな所まで呼び寄せてもあんまり意味無いんだよね。きっと王都からでも俺様ならサキヨミできたと思わない?」
金髪の頭は革張りの豪華な椅子にすっかり馴染みながら、部下を振り向く。
「…私には、能力がございませんからよく分かりかねますが」
「そうなんだよねぇ、ここの司令官も俺の事よく分かってない」
いつもの事ながら、あまり本心からの言葉を言わない部下を心底で笑い目を閉じる。
キフィに与えられる兵は大抵キフィの部下ではなく、本当は見張りである。
沢山の囲いの中で、いつも首元にナイフでも突き当てられていると同じだ。ここから逃げた時は解っているな、と。
キフィとしては部下の彼らをなじる気もないし、ましてや誰も“ココ”で責めようとは思っていない。
今このような態度をとる事でこれから起こるであろう事にも耐性を作っているに過ぎないのだ。
目を閉じて一点を思い浮かべると、彼の中にビジョンが現れる。
それはさっきまで覗いていた前線などではなく、大事な人の未来だった。
「あれ? これって…」
ずっと黙々と夕食を食べていたシンが、突然声を上げた。
「何か変な物入ってた?」
オリビアが、すかさず尋ねる。
「あ、いや。なんでも」
シンは慌てて首を振る。
ここでオリビアに聞いても多分、分からないだろう。なにせ、昨日からの違和感の答えに今、初めて気づいたのだから。
食事に、味を感じたのだ。シンが食べるのは記憶であって、物質ではないから舌はほぼ味覚を感じないようにできている。
しかし、昨日の薄味から今日は強烈なまでの味を感じる。つまり、閉じていた能力を尖らせてみると植物の記憶(成長過程)を食べているようだった。
信じられない出来事に戸惑いつつも、とりあえず食べられるだけ夕食を詰め込んでみた。
夕食が終わると早めに引き上げさせてもらい、ベッドに横たわる。
目を閉じて自分の頭に右手をかざす。
すると、瞬く間に今まで貯めこまれた記憶が現れる。シンの中で、それは本棚のように並び敷き詰められている。人それぞれに違う記憶の持ち方をしているので、いつもコエケシをするときは、手をかざしてそこからいつも記憶を見つけ出し引き抜くのだ。
しかし、今回はその作業をすることなく、それも、初めて植物から記憶を食べた。これから、この事について研究すれば、いつか、人から記憶を消してしまわずに済むかもしれない。
並んだ記憶の中に、紛れるようにして入った植物の記憶を手に取ると確かに消化されてシンの記憶になってしまっている。
幸運に驚きながらも、久々に感じる甘みや旨みに満腹感を感じてシンは、そのまま眠りについてしまった。
遅れて部屋に戻ってきたラビは、気持ちよさそうなシンの寝顔を一瞬睨んで、
「どうして、オリビアはシンなんかの為に…」
そう呟くと奥の机に向かった。