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一、不幸あれば幸も少し  ②


「ヤダ、私が乗ったのなんでわかったの?」


 苦笑いの彼女がサイモンの影にいるシンを覗く。


「大丈夫?」


「まぁね」


 そう答えたシンに、ふうんと頷いて手を差し出す。


「私、オリビアって言うの。よろしく」


 戸惑いつつ手を握り返す。


「僕は、シン・ナカムラ」


 握手をする二人を見ていたサイモンが顎を撫でながら尋ねる。


「で、このシンを治るまでどこに置いとく? まぁ、うちで預かっても構わないが」


 サイモンの言葉にオリビアが、手を上げる。


「それは大丈夫。うちで預かるから」


 サイモンが驚いて早口に言う。


「待て、オリー(きみ)のところはあれだろう。ラビもいるし、女の子の家に行かせるのは…第一、こいつこんな顔してるけど男だぜ?」


 こんな顔と言われ、シンはちょっとショックを受けながら事の運びを見守る。こんなときでも反抗できない。


「分かってるよ。大丈夫だって。私が決めたんだからいいでしょ」


 オリビアはにっこり笑ってサイモンを見上げた。

 サイモンは苦い顔を作るが何も言わない。


「さぁ、立って。私の家に連れてくから」


 強引にオリビアは、シンを立たせる。


「でも、僕、いいんですか?」


 戸惑ってサイモンを見るとオリビアに頷く。


「オリビアが決めたことだ。…けど、何もするなよ」


「…はぁ。分かりました」


 というか、そんな気力はありません。


 オリビアはしてやったりという顔でシンの腕を引っ張って行く。

 ドアの外に出るとそこには白い空間だった。かなり長い廊下が続いていて、沢山の医療器具が並ぶ。シンが想像した以上にこの診療所は大きいようだった。


「…どうして僕を?」


 躊躇いがちに尋ねる。


「どうしてって、シンが倒れてたから。でも、この村は外から来た人に厳しいのよねぇ」


 オリビアは、歩きつつふらふらしているシンが倒れないか振り返る。


「さっきの人も同じ事を…」


「今のサイモンさんも外の人だったけど、馴染むまで何年もかかった」


 なんだか、質問が逸らされた気がしたが深く追えずに頷く。

 長い廊下には人影が少しあったが、二人を見とめると、隠れてしまった。

 その廊下も終わり、オリビアが大きな木のドアを押し開く。折角開けてくれたドアが勢いよく閉まり顔面にぶつかる。


「ドジねぇ」


 オリビアの呆れた声が聞こえる。


「…」


 十分分かっていた事だったため何も言い返せなかった。

 シンは涙目で外に出た。

 雨は上がったようだった。陽が沈みかけている。大体、この乾季時期にあれだけの雨が降るほうがおかしい。



 診療所の前には、一本の整った道が延びていた。

 石が一定の形に整えられ敷かれているなんて王都でも中心部だけだ。


「この村、綺麗でしょ」


 オリビアに言われ振り向くと、診療所のまっ白の大きな壁はかなりの幅がある。

 そちらに感嘆しながら、


「すごい。この村にはこんな整った道と診療所があるんだね」


そうシンは答える。


「診療所は小さな単位で、大きい物を病院というのよ。まぁ、この村でだけど」


「…知ってるよ。それくらい」


 やはり、少しずれた回答をもらいシンは、彼女が自分をからかっているのではないかと見つめた。

 それでも、オリビアは素知らぬ顔でシンの腕を引く。


 オリビアが歩く方角、西には大きめの広場が見えた。両側に立ち並ぶ家々は全て白い壁に赤い屋根だった。煙突も出ている。後ろを振り返ると、そちらにはやはりまっすぐ延びた道が大きな門にぶつかっていた。


あれが、この村の出口だろうか。



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