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一、不幸あれば幸も少し  ①

 この世で一番嫌いなのは雨と暗い場所。


 だから、こんな時でも乾季と太陽をこよなく愛するってのに、何故か僕は薄暗い森の奥で雨に降られている。

 雨宿りとか、そういうこと考える余裕もない。



「キフィの奴、こんな所を教えやがって。それにしても、腹減ったぁー」



 呟いた直後に腹の虫が鳴く。

 けれど僕の場合、本当は脳みそが鳴いてるのかも。

 僕は、このマム=ネム王国の能力者の一人で、どうしようもない能力を持ってるから…。

 それが嫌で軍から逃げてきた。


 空腹でぼんやりしながら歩いていると何やら遠目に塀が現れた。


 ここは森の中で、確か三日前に通った村がこの国の北端の村だったはずだ。

 じゃあ、これは…?

 それより、人がいるなら…。



 ――っっごぉぉんん!



 上ばかり見て歩いていたから大きな木の根に足を引っ掛けた上に、石で頭を打ってしまった。

 顔の周りが深い水溜りじゃなくて良かった。


 痛い。いろんな意味で。


 僕って何でこうもドジなんだろう…体中痣だらけだ…。

 キフィにまた笑われる。


 ううん、それよりも…もう、意識が…。






 ―ギシッ!



「オリビア、外の人だよ」


「え? どこにいるそんなの」



 耳元で聞こえる声に少しだけ意識が戻る。

 わぁ、人間だぁ嬉しいな。

 でも、なんだか倒れた時より背中が痛いな、雨とかのせいかな。うーん、上手に力が入らないかも。


「オリビアの足の下」


 ……。あぁ、そうか身体が動かせないのもその所為か…笑えない。


「これ? 嘘ぉ、やってしまったな」


 足を浮かせつつ僕の上にいたオリビア|(声が高いから二人とも女の子かな)が呟いた。


「…外の人だけど、仕方ないよね?」


「えっ? 村の中に入れるの?」


 女の子が驚きながら尋ねる。



「じゃあ、マキはここにほっとくの? それで良心の呵責とかないのね」


「もう…オリビア、片方の肩もってよ」


 率先して乱暴に、オリビアがシンの右肩に手をかけた。それに倣って躊躇(ためら)いがちに、女の子が左肩に手をかける。


「…ありが…」


 ――ドサッ。

 やっとの事でお礼を口にした途端女の子と前に倒れてしまった。オリビアが手を離したのだ。じっと自分のてを見つめていたオリビアに怒りの声が聞こえる。


「オ、オリビアぁ! あんたねぇ」


「あっ、ごめんごめん」


 すぐにオリビアがシンの右肩を抱え歩き始めた。

 けれど、二度目の転倒でまたまた僕は気を失っていた。





 シンが次に目を覚ましたのは、どこかの室内だった。ベッドに寝かされているようだ。


「…ビア、いいのかい? こんな…かもしれねぇのに」


「大丈夫。もし…だったら…するから」


 女の子が誰か大人の男と話す言葉が途切れ途切れに聞こえる。


「ほら、お願い。やっちゃって! 私、一度家に帰るからさ」


 な、何されるんだ。怖くなり薄っすら瞼を開ける。

 どうやら、小さな診療所のようなところだ。

 そこには、信じられないくらい不機嫌そうな、筋骨隆々な男が立っていた。

 その男と目が合い睨まれる。


「なんだ、目ぇ覚めたんかい?」


 僕は、ドギマギしながら答える。


「はい…」


 男は近づいてくると、シンを覗き込んだ。瞼を引っ張られる。


「やっぱり、ただの脳しんとうみてぇだな。起きろ、ざっと見た感じじゃそこまで大きな傷は無いだろう?」


 起き上がると前頭部に何やら大きな布を押し当てられた。刺激を感じて顔をしかめる。


「消毒だから我慢しろ。他も見るから服を脱げ」


 言葉に従って服を脱ぎ始めると、男が声を潜めて尋ねる。


「お前ぇ、どっから来たんだ? こんな森の中に、何をしに」


 その様子はどうしても周りを気にしているようだ。狭い部屋なのに何を気にしているのだろう。


「この森を抜けて、隣の国に入ろうと…っいて」


 今度は後ろを向かされて、また背中に何か押し付けられる。

 シンの背中は今日昨日ついた傷ではない痣が多くついていてサイモンは顔をしかめたがシンは気付かなかった。


「隣の国? それにしては方向が違うようだが」


「えぇっ、そうなんですか…? 僕、方向音痴なもので…」


「本当か? お前ぇ、軍の者じゃないのか?」


「違います」


 一瞬どう答えようか悩んだが、脱走兵なのだからもう関係ないだろう。軍に対する忠誠なんてこれっぽっちもない。


 話している内にまた腹が鳴る。

 苦りきった顔でシンは腹を擦る。空腹も限界が過ぎてしまっているようだった。

 それまで厳しい顔で足を診ていた男が、表情を崩した。


「本当に行き倒れのようだな。お前ぇみたいな細っこい奴が軍人って事は無さそうだ。腹空かして倒れたんだろう?」


 少し反抗の気も芽生えるが、赤くなりつつ頷く。


「はぁ、まあそんなところです」


 全て治療し終わると、真面目な顔で男が忠告する。


「お前が何かしても、しなくても、このプレセハイドはよそ者には厳しいと思うぜ」


「…はぁ」


 何やらよく分からない事を言われ曖昧に頷いていると、扉から女の子が入ってきた。


「サイモンさーん、どうですか? あ、起きてはいるようだけど…」


「あぁ、腹が減って倒れている所を君が踏んだみてぇだ。頭を打ったのと足首を少し捻ってるだけだぜ」



 聞き覚えのある声からして、彼女がオリビアのようだ。

 日に焼けた金色の長い髪を一つにまとめ、(あらわ)になっている顔は小さく白い。

 その上に並ぶ瞳は褐色でちょっとつり目、内面もにじみ出ていて気は強そうだった。

 結構可愛いかも。


 僕を踏みつけた張本人だけど!



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