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四、変化  ③


 ある日の昼下がり。


「…しょうがないんだよ」


 ソファに寝そべりつつ、シンは呟く。

 言われて、ココは肩を落とした。


 シンを遊びに誘いに来たらしいのだが、今、シンは外に出られる状況でなかった。

 先日の夜、エンジという銀細工屋の息子が、森で人攫いの軍人を見たという話が村に広がっていた。

 ただでさえこの前、館に勝手に入ったことにラビに睨まれていたのに今やほとんど無視扱いである。

 シンには何も関係ないことのようだが、その軍人らの仲間が偵察として入っているシンではないか、と噂されているらしい。

 まず、どうしてこんな森の中まで人攫いに軍人がやってくるのかわからない。シンの知る限りでは、そんな事をしているなんて聞いた事がないのだ。あのキレイな銀細工が欲しいとかそんな事だろうか?

 今の状況を考えるなら、脱走兵の自分の追跡で現れた可能性もある。しかし、完璧な工作はしてきたはずだ。その技術を仕込んだのは、皮肉にも彼らなのだが。

 しかし、軍人による人攫いの事実はあるらしい。ここ数年無かったのに、軍人が偵察に来ているのは、シンが情報を渡していると疑われている。


「…ラビとオリビアは館に居るんだよね」


「そうだよ。オリビアはこの前からずっとあっちにいるんだ」


 がっかりしたココは手を振って帰っていった。



 シンはココにもらった焼き菓子を何気なく口に含んだ。途端、シンは身体を起こす。


「…味が、しない?」


 どういうことだろう。朝のオリビアが作った食事には、しっかり味がついていた。

ここのところ、空腹を感じていなかったため忘れていた。普通、記憶(あじ)はないはずなのだ。


「オリビア…?」


 この事については、少し彼女に聴いてみるべきかも知れない。


 オリビアといえば、ここのところ体調がよくないようだ。

 しかも、ずっとお館様についてあちらの部屋にこもっている。

 夜間に呼び出されるようにして部屋を出て行く音も聞いたことがある。ここに居るのは睡眠と食事だけこちらだ。

 いつか、倒れてしまうのではないかと心配だった。



 夜、オリビアが疲れた様子で食事を作る。


「オリビア、僕がやろうか? 疲れてるようだしさ」


 そう声を掛けるが、オリビアは首を横に振る。

 絶対に料理は譲らないと態度で示され諦める。


「オリビアさ、少し休んだら?」


「…私には今、沢山の大切な仕事があるからダメだよ」


 仕方ない事だ、と呟くようにして言う。


「けれど、こんなんじゃ…」


「だったら、シンが出て行けばいいんだ!」


 声を被せる様に後ろからラビが言う。


「シンが来てから、この村おかしくなったんでしょ? だったらシンが出て行くべきなんだ」


「…」


 ラビは、シンを睨みつけている。少しは打ち解けていると思っていたがどうやら違ったようだ。


「ラビ…止めなさい」


 オリビアがたしなめるように言う。


 シンも心の中で思っていた。自分がおかしくしているのかもしれない。村だけじゃないこの家族も。それでもシンは上手く言葉を紡げない。


 ラビは首を振る。

 興奮した様子で叫んだ。


「オリーは、ただでさえ大事な仕事をしているのに、こいつがいるから!」


 オリビアがラビを振り返る。


「ラビ! いい加減にしなさい! どうして、そんな事言うの?! そんなラビ嫌いっ」


 オリビアの苛立った大声にラビは涙を溜める。


「どうして? オリビアがキツイのシンの所為じゃないか! …僕、体の調子悪かったの知ってるよ。僕は、オリビアのためにこいつ追い出そうとしてるのに!」


 泣き始めたラビに、オリビアはなだめるように言う。

 彼女の目頭も薄っすら赤い。


「ありがとう…でも私は、大丈夫。言ってるでしょう? シンはお客様だから、って。本当なんだから」


 オリビアがラビを抱きかかえたところに隣に住むスターチ少年が駆け込んでくる。


「オリー! 大変だ! 村の外に数人の軍人がいるって! 近いんだ! 見張りの奴が支持を待ってる!」


 どこからか走ってきたらしく息を切らしている。

 それはこの前の目撃の噂から強められていた見張りからの報告だった。

 ラビの涙をぬぐってやると、床に下ろしオリビアはスターチとラビに言う。


「二人とも、村の代表を閣議の為に館の接見部屋へ集めて。それから、他の村人は広場に招集する事。もしもの時は館の中に避難してもらって。分かった?」


 二人は頷くと、一目散に出て行った。


「…僕は何を?」


 思わず尋ねると、オリビアは唇の端を吊り上げる。


「あなたは、部外者なのでここに」


 そういい残して、オリビアは館に向かった。


「僕ってそんなに役立たず?」


 シンは苦笑して呟いた。



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