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四、変化 ①


 数日間、シンはオリビアとラビの手伝いをして過ごしていた。


 その日もオリビアに頼まれたお使いに出ていた。

 ココを助けて以来、村の人の態度は大分柔らかくなっていた。

 料理に使う香辛料を買っているところに声を掛けられた。


「シン」


 名前を呼ばれて振り返ると、見たことの無い甘栗色の髪の女の子が立っていた。首を傾げていると少女はふわりと笑う。


「覚えてないかなぁ? 意識無かったもんね。私、オリビアとシンを運んだマキ・コーンっていうの」


「あ、スターチの…」


「そう、姉だよ」


 そういわれて見ると彼女の顔立ちはスターチと似ていた。

 広場にいくつか出されていたベンチのひとつに並んで腰掛けた。


「この前は運んでくれてありがとう」


「どういたしまして、重かったのよ…。ねぇ、どう? この村には慣れることできた?」


「…微妙な感じかな。前よりは馴染めたけど…なんだかあんまり印象は良くないみたいだ」


「村人はそうでも、お館様は貴方に興味があるみたいね」


「え? なんで!?」


 シンはお館様に会った事がないのにどう興味を持つって言うんだろう? 


「だって、オリビアが貴方の事面倒見てるじゃない」


「そりゃ、そうだけどそれと何か関係あるの?」


「―…お館様の屋敷の家にいる事自体がお館様の意思だと思うけど。ごめん、私にもはっきり分からない」


 言い出しておいてごめんね、とマキは恥ずかしそうに笑った。

 マキの指摘は確かに正しい気がした。シンを見ているのはお館様の意思。お館様につきっきりで手伝いをしているのはオリビアなのだから。


「じゃあ、オリビアは何て言ってる?」


 マキの少し探るような視線に、躊躇いがちに答える。


「僕が村にいる事が大事みたいに言ってたけど…。あ、館で一緒に働いてるんでしょ? 話聞かないの?」


 つい癖で反射的に探りを入れてしまった。

 一瞬、間があって曖昧にマキは笑った。


「うーん、私働く仕事自体は違うからね…それに最近あの子あんまり口開かなくて」


「マキは館で何してるの?」


 マキはどうしてか頬を若干染めて小さく呟いた。


「成人したばかりだから、掃除とか病院で書類整理する手伝いとか…」


「楽しい?」


 思わず訊ねると嬉しそうにマキは更に頬にえくぼを作った。


「うん。とっても。シンは外では何か仕事してたの?」


「…あんまり楽しくない仕事だったなぁ」


「そうなんだ。じゃあこれから、何かいい仕事見つかるといいね」


「ああ」


 マキの嫌味のない真っ直ぐな言葉にシンは頷いた。


 なにか自分にも出来る事を見つけなくてはいけない。

 軍で叩き込まれた技術など使わずに、マキみたいに純粋に楽しいと言える仕事を…。

 これからまた病院に行くというマキとはそのあと少し話をして別れた。



 頼まれた物をすべて買って家に戻る途中、館を見上げる。


 いつも思うのだが、あまりにも人の気配がなさ過ぎる。

 マキやその家族だって使用人として使えているはずなのに…。


 これでも他の軍人よりも厳しい訓練を受けてきたシンは、肌で違和感を覚えていた。

 ふと、二階の窓に人影が映る。

 しかし、すぐに姿を隠した。


「あれが、この村のお姫様?」


 長い髪が見えただけで顔は見られなかった。

 オリビアだったかもしれない。けれど、オリビアだったら顔を出して手くらい振りそうだとシンは思った。

 衝動的に確認したくなり手に持っていた荷物を家のテーブルに置くと、踵を返して再び外に出た。



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