序章
大きな国、マム=レム。
隣国との戦争、資源の減少傾向、長い乾季。
それに伴う国家の傾き。
王は頭を抱えた。
来る日も来る日も。
ある日、王は側近から不思議なことを聞く。
未来を見る事のできる男がいる、と。
王はすぐさまその男を城に連れてこさせた。
兵に引き立てられたみすぼらしい男は、王を見ると呟いた。
『自分は、王に仕える為に馳せ参じた。』
驚く王に彼は、未来を予言した。
『この国に沢山のチカラが現れる』
それが、全ての始まりである。
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マム=レム王国の王都レアムドザインは、今、乾季をむかえている。
街は色鮮やかで、通りは沢山の人や物が溢れてにぎわっていた。露店には、沢山の木の実が盛られ、美しい生地の布が並ぶ。
しかし、通りからそれて路地にある建物では、あることが起きていた。
四角い建物の一番奥の部屋は狭く薄暗く陽光があまり入っていなかった。
揃いの黒ずくめの男が五人、輪を描くように立ち、中心に豪奢な服を着る男が一人椅子に腰掛けている。
皆、中年と言って良いほどの年齢だ。
ただ一人を除いて。
黒い軍服を着た一人が前に出る。
この男だけ右袖についている腕章が違った。二羽の鳥が交差しそれぞれ別の方向をむいている。
まだ十代の半ばといった感じで幼さの残る顔立ちだ。
焦げ茶色の艶々した髪と薄い紫の大きな瞳の柔らかい気弱そうな顔には、到底黒い軍服がそぐわなかった。
「ブランデル国会会議長さん。どうやら、いけない物を見てしまったようですね。あんまり欲をかくからこうなるんですよ」
そう言われ、椅子に座っていた男、ブランデルが顔を上げる。その顔は、驚きに染まっている。
「…シン。で、では君があのコエケシなのか?」
シンと呼ばれた少年は、否定も肯定もせず唇を歪める。まるで幼い子供の仕草のように首を傾げると男に手袋を外して手を伸ばした。
「や、やめろ!」
制止を聞かずブランデルの頭に触れる。途端に男から表情が消え、気絶し前に倒れこむ。
すかさず周りにいた男達がブランデルを受け止めて別の部屋に運び出した。
「…」
一人、部屋の中で口元を押さえて立ちすくむシンに、白髪が混じるもののかくしゃくとした男が声をかける。
「シン。大丈夫か?」
「ああ、とっても気分が悪いんです」
そう言う彼にさらに心配そうな顔をして男がシンに触れた途端、シンは決まりごとのように手を彼の頭に回した。
「えっ? 何を…」
そこまで言って気絶した彼をそのまま床に倒し、シンは素知らぬ顔で部屋を出た。
「ファイさん。ちょっといいですか?」
一人何か書き留めている男にシンは声をかける。
にっこり笑うと、シンは彼に近づき…
数分後、黒い上着を脱ぎながら建物から出てきたのはシンだけだった。
「へーやるじゃんか、全員食べたのか。美味かった?」
突如、建物の屋根から声をかけられてもシンは歩きながら答える。
「…苦いだけだよ。何? 見学に来たの、キフィ?」
逆光でよく見えないにも関わらず相手が分かっているようだった。
「よく言うね。俺がいなかったらどうしようにもなかったくせに」
ふらふら屋根の縁を歩きながらその人影はおどけてみせる。
「…脱走の片棒担いだくせに呑気だね」
シンは今まで着ていた上着を投げ捨てて、近くの路地に隠しておいた荷物を取り出した。
「何言ってんの。俺はどうせばれても平気さ。これから頑張るのは君、特別上級能力士官のシン・ナカムラ」
「…君さぁ、軍法会議で縛り首になっても知らないからね」
「なにそれ、ないな~い。」
物騒なことをけろりと笑い飛ばしていたキフィはシンが着替え終わるのを見ると、屋根から飛び降りた。
金髪なのを除けばシンと大して変わらない年齢と背格好だ。
「おい。シン、これから北の森沿いで国境越えろ。この俺からのありがたいサキヨミだよ。…あと、妹を頼む」
真面目な口調で彼はそう言うと、踵を返して歩き始めた。
「妹ってどこにいるの?」
無駄だろうと思いつつ尋ねる。つかみどころの無い男だ。
「俺はこれから南の戦闘地域に行くから、見送りはここまでな。じゃあな~」
シンは諦めたように首を振るとこの日のために新しく買った白い上着で、歩いていく彼とは正反対の方向に歩き始めた。
序章おわり
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